真の勝者
オレは、まだ負けてはいない、と吼えるように訴えた。
「ちょっと待て! 勝負はついたって、どこがだっ! 俺はまだできるっ!」
「あのままいけば、秦さん自身が大怪我をしています、秦さんの目論見通りに」
え? と加藤由利は目を丸くし、仰木縁は訝し気に眉間にシワを浮かべている。
闘技場の観客席に集っていた生徒たちは、何が起きているのかとざわついている。
……叫びをあげたオレは、白鷺凜の指摘に対して反射的に表情を消してしまったので、何を言っているんだ、と言いたげな疑問の面持ちを意識して作った。
「おいおい、何を言っているんだ白鷺さん。万一の時には、今君が使った防具のように、電磁場の盾による緊急保護用のシールドが形成されて」
「形成されませんよ。秦さん自身の手で、秦さんの防具に細工をしていないのであれば、今、ここでチェックさせて下さい。正常に作動するようであれば、謝罪させて頂きます」
…………
「……白鷺さん、秦君は何を」
「加藤さん。教師が、実習と言う形で手合わせをした場で、生徒に大怪我をさせたらどうなりますか? いくら人手不足の教育現場であっても、そんな人材を高校は、教師として留めることが出来ますか?」
あ、と声をあげて口元を覆った加藤由利はこちらを、それから仰木縁を見やった。
仰木縁は、してやられた、とでも言いたげに口元を歪めている。
……してやられたのはオレの方だ!
「まず間違いなく、責任を取る必要が生じるでしょう。ましてや仰木さんは『亜種』。新聞社の格好の標的となるかと。
秦さんは、あえて仰木さんの能力が、私が用いているような、肉体への負荷を消している通常の身体制御のACTと同一視している発言をしたことで、布石を打っていました。
そうですよね、秦さん? 一撃貰っても、懐に潜り込めれば勝機があるように振る舞うことで、あえて致命打を受けにいったんですよね。
仰木さんを川崎から、私達から遠ざけるために」
もしこの考えが仰木縁に見破られたとしても、その時は、仰木縁が、オレに加減しなければいけないハンデを科すことが出来るので、プランCの実行に移れた。
だが戦闘相手である仰木縁が気付くことは想定していても、審判役を務めた白鷺凛に見破られ、さらには試合そのものを止められることは、想定していなかった。
「試合の勝負は、仰木さんの勝ちです。これは秦さんも否定のしようがないかと。
ただし、目的の達成と言う意味では、様々な状況を考慮した場合、私が止めなければ、誰が勝っていたでしょうか」
秦っ、啓一っ……!
対象を守るためには手段を選ばないと、自傷すら平気で行うと、疑心暗鬼に陥っていた白鷺凛にすら信じさせる奴の振る舞いと在り方に、オレの目論見は看破されたのか……!
「ここは、互いの主張を半分ずつ受け入れる方向で調整されるのがベストではありませんか」
オレも仰木縁も、真の勝者の言い分に、何も言う事が出来なかった。




