『オレ』の本音
「アタシ達が隠している事柄を知りたいのなら、アタシ達を探ることはオススメしないわ。アタシ達を探ろうとすればするほど、真実からは離れていくだけでしょうから」
「では、私に何を探れと加藤さんは仰るのですか」
これ以上情報を白鷺凛に与える訳にはいかないと、オレは咄嗟に口を挟んだ。
「あのー……2人とも、さ。大事な話なんだろうが、本日のメインイベントって、何だったか覚えている?」
右手で頭を掻きつつ、困ったなという表情で、仰木縁に助けを求める。
このままここで2人が内輪もめをすれば、この決闘そのものがオジャンになるけどどうします、と表情と視線で、脅迫紛いの訴えをかけつつ、闘技場に上がる階段に足をかけた。
パン、と1つ柏手を打った仰木縁はうんうんと頷く。
「いいね、青春の1コマ。高校生活の醍醐味なんだろうけど、ここはひとつ、お姉さんに譲ってくれない? 白鷺さんにとっても大事なことなんだろうけど……私は、もう、どうやっても取り返せないもののために、これから戦うんだからね」
「バカらしい」
対戦を有利に運ぶための挑発ではない。
秦啓一ならばどうするかと自問しての答えでもない。
ましてや、仰木縁の『演技』に対して乗った訳でもない。
妹の仇を討ちたいという気持ちが、オレには理解できない。いや、正確に言えば、仇を討ちたい気持ちはわからなくもない。
しかし、仰木縁には父も母も、そして恐らくは大事な友人も存在するはず。
残された家族の安全は確保したと言うが、本当に大丈夫なのか? オレには家族の安全とやらが、疑わしく思えてならない。
そもそも仰木縁が動かなければ、『酒井玲於奈』や『三氏族』をが様々な情報や証拠を隠滅するために、動く理由もなくなる。
オレには、コイツがやっていることが自己満足にしか思えない。
何故ならコイツは、仰木加奈がもうどうやっても取り返せないことを承知の上で、まだ残っている大事な人間を危険に晒して戦うと言うのだから。
「いや、貴方を馬鹿と言うのは、馬と鹿に失礼、いや、そんなものより何より、亡くなった仰木加奈さんに対して失礼か。こんな愚か者が姉ではね」
「……君、挑発にしても、言って良いことと悪いことがあるよ」
声に怒気が混じりはじめたことで、加藤由利はグローブをつけた左手の親指と中指を合わせた上で仰木縁を見据え、白鷺凛も反射的に左腕に装着したOBに右手を添え、腰を落として身体制御の発動が出来る態勢になる。
歩きながらOBに改変式の入力をしていたオレは、その作業の全てを終えて顔を上げ、仰木縁に正対した。
「図星でしたか。挑発のつもりなんか微塵もありませんよ、掛値無しの本音です。
その証拠に、貴女には妹さんからのSOSに気付きましたか? 俺達は彼女を救うことは出来ませんでしたが、少なくとも助けを求める声を、大幅に遅れてはしまいましたが、気付くことはできましたよ。
貴方は、どうですか? 最愛の妹が窮地に陥っていたことすら気付けなかったのではないですか。そんな貴方が、家族の安全は確保した? 何を根拠にそんな画餅めいたことを言えるんですか」
真正面から赤く輝く眼光を睨み返していたが、射るような仰木縁の視線を遮って、オレと彼女との間に加藤由利が割って入ってきた。
「このまま戦闘になりそうなので、先にルールを説明させて下さい。制限時間は3分。相手を場外に落とすか、降参させるか、戦闘能力を奪うかで勝敗を決めます。命を落としそうな過剰な攻撃や、必要の無いと思われる追い打ちは厳禁です。
……剣呑な雰囲気なので、アタシと白鷺さんの二人で審判役を務めさせて頂きます。危ないと判断したら二人掛かりで割って入るので、そのつもりで」
恐らくはアイコンタクトをしたのだろうが、加藤由利の発言に白鷺凛は小さく頷くと、仰木縁の後方に回る。
白鷺凛は確か、槍型のOBを主武装としていたはずだが、汎用型のOBを手にしているのは、まだ本調子ではないからか、あるいは今回の仰木縁との決闘が突然であったため、整備が間に合わなかったのか。
まぁ、今はさして重要な事ではない。
今、考えるのは眼前の『亜種』とどう戦うか。
「では―はじめっ!」




