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フェイカー  作者: 那上畑 潤
If you can not stand, I……
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密会

 仰木縁との面談を終えたオレが向かった先は、とあるファミリーレストラン。


 ハンバーグとデザートがそこそこ美味い、まぁどこにでもあるファミレスだ。


 ただ、客層は女子高生中心で、オレのように男子高校生一人でやってくる、と言うのは珍しいケースなのだが……


「アンタ。こんな女子高生しかいないようなファミレスに呼び出して、どうする気よ。めちゃくちゃ目立つじゃない」

「なら、オレの背後の席にではなく、正面の席に座れば良いだろう」


 そうすれば、加藤由利が連れてきたように見えるし、万一、誰かに見られても言い訳ができる。


「ハッ! 何が悲しくて、夕飯前にアンタの面を拝まなきゃいけないのよ。

アイツとの約束があるから、状況次第で協力はする。

 でも、アタシはアンタが大っ嫌いなの、顔も見たくないくらいに。そこは忘れないことね」

「……ACT対策は大丈夫だろうな?」

「盗聴・盗撮含めてケアは万全よ。あの時の白鷺さんのような、常識外のACT使われたらお手上げだけどね。でもアンタ、こんな場所よりもっと人のいない場所の方がいいんじゃないの?」


 加藤由利のテーブルの上には、小さな鞄。恐らくは、仰木加奈が得意としていた、改変力を0にした上で、アカシックレコードの情報『のみ』を書き換えるOB。


「木を隠すなら森の中。店内に怪しい人間がいないのはすでに確認済みだ。店舗周辺にも、恐らくはいない」


 何より、今のオレは特務高等治安局のバックアップは勿論、二重スパイとして潜入している松平のフォローも無い。

 ならば、人込みに紛れ込むのが最も良い。


「……ちなみにアンタに依頼された例の件、調べる対象は本当に指定通りで良いの? 本人を調べている訳じゃないんだから、最悪、何もつかめない可能性だってあるわよ」

「ああ。あの件については、指定通りで良い。本人を叩いた所で、埃などとうの昔に払い落としているだろうからな」

「フン、ならとっとと要件に入ってちょうだい。アンタとこうして会っているってだけで、誰かにバレるかもしれないリスクを孕んでいるんだから」


 正面に座れば偶然出会ったかのように誤魔化せる可能性があるのに、敢えてオレの真後ろの席に座った貴様がそれを言うか。


 舌打ちをしたいのをこらえ、落ち着くために自らの状況を俯瞰的に思考する。


 今となっては『秦啓一』は、校内で注目されている存在だ。


 白鷺凛に迫る戦闘力を実技試験で示したことで、織田や羽柴が勢力争いのために利用している一つの駒、という扱いから、積極的に繋がりを作っておきたい人材、と目されている。


 ここで、特定の勢力―加藤由利と密会していた、という情報が流れるのはマズイ。

 

 この密会を契機として、松平や織田が、何かしらのアクションを起こした場合、それがオレ達にとってマイナスに働く可能性は否定できないからだ。


 故に、校内で加藤由利と会うのを避け、こうやって『偶然会った』ことを装うため、どこにでもあるファミレスに呼び出した……のだが、この女、自身の感情を制御出来ず、オレの真後ろの席に座るという、津田香や白鷺凛といった知人に見られたら逆に怪しまれる構図を作ったのだ。


 ……冷静になるために思考したが、無意識に舌打ちをしてしまっていた。


 幸い、周囲の女子高生達の喧騒でオレ達の会話はすぐ近くにでもいない限りは聞き取れない。


「仰木縁が12組の担任になったことは把握しているか?」

「ええ。やっぱり、加奈が死んだ原因を探ろうとしているの?」


 オレは目の前のウーロン茶をストローで一口飲み、グラスを置いて切り出した。




「アレが、人形だったことがバレた」




 加藤由利が、息を呑んだのが背中越しにわかった。


「仰木加奈は幼い頃に右足を骨折したため、右足の方が左足と比べて、僅かに短いらしい。だが、あの死体は両足とも均等な長さだったから、すぐに『人形』だとわかったそうだ」


 ハァ、とため息をつくのが後ろから聞こえた。


「……どうする気?」

「A捜に追い返す」


 ウーロン茶を飲み干すと、ストローからズー、と間抜けな音がグラスに響く。


「追い返すって」

「オレが負けたら、今回の事件の3割の事情を話す。それと、3ヶ月間、個別の『補習』がある。オレが勝ったら退職してこの件には一切関わらない、という約束をかわした」

「いや、そうじゃなくて……! 相手はA捜に配属されている『亜種』よ! アンタ、仰木さんがどれくらい強いのか知って」

「オレは特務高等治安局の情報工作員だぞ。真っ当に、正面から戦うと思っているのか?」


 視線だけを動かし、視界の端で後ろを見ると、加藤由利は女物のコンパクトケースを取り出すと右目を閉じ、左目だけで鏡面に移り出したこちらを睨みつけている。


「……アンタ、何する気よ?」

「するのは貴様だ、加藤由利。『亜種』としての奴の情報を、明日を期限として探るのと同時に、それとは別に小細工を頼みたい」

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