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フェイカー  作者: 那上畑 潤
If you can not stand, I……
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感情移入の出来ない葬式

 普段着慣れていない喪服を着ているだけで窮屈さを感じているのに、僧侶の読経を身じろぎもせずに聞かされる上、葬儀相手との面識がオレとは無いと来た。


 こうまで条件が揃うと、わざわざ東京から仙台まで出てきて葬式に出る理由など無いのだが……


 右隣には数珠を左手に握り、友の遺影をジッと見つめる白皙の美貌がある。ただし、その表情は亡くなった友を見送るものとは思えぬほどに凪いでいる。


 いや、奴の記憶では『途方に暮れている』と表現していたか。


 無表情がトレードマークの白鷺凛だけが随伴しているならば、まだオレも気楽だったのだが―そうは問屋が卸さぬと言わんばかりに、左隣にいるのが、腰まで伸ばした髪をポニーテールにまとめた、左目が義眼の少女。


 コイツがいなければ、もう少しばかり『俺』ではなく、『オレ』として動けるだろうに。


                      *


 秦啓一から己の肉体を取り戻し、今日で5日目。


 記憶の齟齬もある程度『回復』、したということで2日前に病院を退院したオレに待ち受けていたのは、新たな指令―などであるはずもなく、本物の『酒井玲於奈』によって、この世からすでに亡くなっていた白鷺凛の友人、仰木加奈の葬式に出席することであった。


 経緯が経緯であるだけに、『三氏族の中核に食い込んでいる人間に、『人形』に偽装された上、当人は数カ月前に殺されていました』などとは、彼等の身の安全を守るためにも、仰木加奈の家族には言えないと判断した津田香と槇原康太は、『三氏族』の一部が病院に襲撃をかけた件を利用する形で、彼女がここで死亡したように見えるよう偽装工作を行った。


 幸い、と言うのは不適当な表現であろうが、酒井玲於奈が作成した仰木加奈の『人形』がその場に放棄されていたことに加え、『三氏族』の何者かによる無軌道な破壊もあったため、偽装工作そのものは容易かった。


『酒井玲於奈』が作成した『人形』は、顔の造りや身長体重といった外見はもちろん、血液や遺伝子といったレベルで当人と見分けがつかない、クローン人間と言っても良い出来のものなので、家族と言えども、棺の中に入っているのが仰木加奈本人ではない、とは夢にも思うまい。


 ……全てを知っている訳ではないが、一部そういう事情を知っていることも手伝って、オレの右隣りに佇む白鷺凛は、悲しめば良いのか、怒りに燃えれば良いのか、それすらもわからず途方に暮れているのかも知れない。


 僧侶が読経を続けていると、仰木加奈の父親と思える人物が、やつれた面持ちで前に進み出て、僧侶に一礼した後、こちらに向かっても一礼。


 焼香台まで歩み寄ると、遺影に向かって―灰色の写真はその色に反し、屈託なくこちらに向かって笑いかけている。


 父親はこの現実が受け入れられないのだろう、力無く首を横に振ってから目頭を押さえ、それでも一礼した後に合掌した。


 その仕草を見て、親しい関係者と思しき人物のすすり泣く声が次第に嗚咽へと変わる。


 変わることがないのは、右隣りの少女の途方に暮れた面持ちと、僧侶の読経のみ。

 

オレは静かに一つ息をついて、感情移入が出来ない式の経過をただ眺めていた。

とりあえず、書けた分を、ポチポチと投稿していこうかと思います。


ただ、書き溜めではないんで、投稿は不定期、時間もまちまちになりますが、今後ともどうぞ『フェイカー』をよろしくお願い致します。

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