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フェイカー  作者: 那上畑 潤
Because, you don’t understand yourself
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封じられたモノ

 津田さんの先程の攻撃によって、玄関先には割れたガラスが散乱している。どれほどの衝撃が発生したのか一目でわかり、知らず喉を鳴らしてしまった。


「お嬢様。そちらの方々は?」


 玄関前には黒塗りの外車が停まっており、その手前に、スーツを着込んだオールバックの男性が、こちらに礼をしつつも眉をひそめていた。

 肩を借りていた津田さんが俺に視線を向けてきたので、彼女を支えていた腕を離す。


「状況が変わった。康太達の後を追うから準備をして、新田」


 ビルで起こった爆発と、俺達の様子を見れば問い詰めたいことはいくらでもあったのだろうが、新田と呼ばれた彼は、かしこまりました、と一言告げただけで、運転席に乗り込んだ。


 黒塗りの外車に全員が乗り込み、車が走り出したものの、誰も口を開かない……俺が、口火を切るか。


「津田さん。『三氏族に目をつけられたのが、『あのこと』に関連しているのなら、すぐに処置をする必要がある』って言っていたが……具体的に、過去の白鷺さんに何があったのか、教えてくれ」


 車を運転している新田さんが、バックミラーで俺を確認したが、助手席に座る津田さんが視線でそれを制した。


「3年前に、事故があって凛は記憶を喪ったことになっているけど……事実を言うと、相違点がいくつかある」


 まだ体力が回復しきっていないのか、津田さんは大きく息をついた。


「まず、事故は事故でも、ACTの実験事故が原因。そして、事故によって記憶を喪ったのではなく……」大きく息を吸い込む。「人格と記憶を、ACTによって封じた。封印を施したのは、康太」


「……記憶だけでなく、人格?」

「貴方達はACTを学ぶ際、ある程度の方向性を定めて、改変式を学んでいるはず……あまりにも多方面のACTを、実用できるレベルで発動しようとすると、アカシックレコードからのバックファイアが脳に悪影響を与えてしまうことが、これまでの実験からわかっている。酒井さん、貴方のような例外もいるけどその例外には、何かしらの要因があるのでしょう?」


 津田さんは同意を求めるように、バックミラーでさっちゃんを見やるが、さっちゃんは不機嫌そうにマスケラをあらぬ方向へ逸らした。


「そこで、織田の上層部で立てられた仮説の一つに、こんなものがある。

 脳をパソコンのメモリーと見立て、発動するACTのジャンルごとに『人格』というメモリーもセットで変えてやれば、より多くのACTを、実用レベルで習得できる、とね。

 凛は、その被験者だった」


「それが失敗して、現在の白鷺さんになった、ってことか」


 俺の確認に、しかし津田さんは首を横に振った。


「実験は確かに失敗した……あらゆるデータから逆算しても、実験は失敗だったはず。

 なのに、凛は分子運動制御に重力操作、身体制御に知覚加速、加藤さんが使う『分解』に近いACT……他にも数種の、明らかにジャンルの異なるACTを同時に発動した。それも、凛本人の意思とは無関係に暴走する形で」


「それって、有り得なくない? 機械の故障なんじゃないの?」


「データに基づいた予測がACTの1つである貴女が、そう言うのは無理もないけど……少なくとも、事後に無事だった計器類をチェックした際には、異常や故障は1つも見られなかった……無事だった計器類は3割に満たないし、現場にいた主要な実験者で生き残ったのは康太と、別の実験の被験者だった私くらいだけれど」


「白鷺さんの脳へのバックファイアを恐れた槇原君が、咄嗟にACTを発動し、記憶や人格を一時的に封印・改変したのかい?」


 視線を外に向けたままさっちゃんが問いかけると、津田さんは頷いた。


「バックファイアを恐れたと言うより、あのままだと辺り一帯が、熱的暴走で爆発してもおかしくなかった。あの状況下で、康太はよくACTを成功させたと思う……いえ、成功させたとはいえ、急造のACTだからこそ、暴走を抑え込んだものの、副作用で凛は記憶を喪い、別人かと思ってしまうほど性格まで変わってしまったんでしょうね。

 織田の上層部には、多分野でACTを発動させた事実だけは伏せて、凛が実験中に暴走しかけたことで実験場が崩壊しかけたが、康太のACTで持ち直した、と報告した。幸い、主要な実験者は康太以外亡くなったし、証拠も暴走の際に生じた爆発で隠滅することができた……何より、凛に身体制御のACTが残ったおかげで、経過観察、という形で生存が認められた。

 これまで3年、必死に情報を集めた。似たような例がないか文献も探したし、怪しげな実験をしている、織田以外のいくつかの機関にも繋がりを作った。

 でも、暴走が起こった原因は未だにわからないし、暴走を確実に抑える方法も、無い……織田を含めた三氏族の上層部がこの事実を知ったら、凛は間違いなく『封殺対象』に指定される。多分野のACTを、実用レベルを大きく超えて、超一流と言っても良いレベルで使用したんだもの……原理を探るために、凛の生死に関係なく、暴走させても構わないと考えるかもしれない」


 そこで、彼女は目を閉じた。


「どこの誰に知られたかわからないけど、凛が狙われた……もう時間が無いと判断した私達は、リスクを承知の上で、ブロックを二重、余裕があるなら三重にかけることにした。

 また記憶と人格を失うかもしれないし、私達が予想していないデメリットも発生するかもしれないけど……どこの誰とも知らない人でなしに暴走させられて、バックファイアで死ぬよりはずっと良い。ブロックが多重に施されれば、そう簡単には暴走させられないはずだし……希望的観測だけど、ブロックのために利用価値が薄いと判断されれば、『封殺対象』の指定も免れるかもしれない」


 そう、思っていたのに、と津田さんは唇を噛み締めている。


 本物の『酒井玲於奈』の言うことが真実であれば、原因は暴走なんてものじゃなくて……アカシックレコードに、白鷺さんが繋がったことにある。


 車中に、沈黙が下りた。

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