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フェイカー  作者: 那上畑 潤
Because, you don’t understand yourself
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血路

「白鷺凛の元まで行ければ、打開策が見出せると考えていたが……致し方あるまい。ここは私が受け持とう。お前たちは目当ての場所へ向かえ」


『酒井玲於奈』は左右非対称の、笑みなのか、怒りなのか、はたまた悲しんでいるのかもわかり難い表情を浮かべている。


 無造作に置いたスーツケースから生体コードを伸ばし、うなじに接続して立ち上がると、ケースの上蓋を勢い良く蹴り上げた。


 スーツケースには液晶画面やキーボードが貼り付けられており―大型のOBなのか?


「では、開演だ。自らの可能性によって潰えろ」


 呟いた瞬間、後方の怪物達の影から、そっくりの分身めいたものが出現し、互いに争い始める。


「やはり『人形』を介してでは、全てを抑えるのは無理か。守りはくれてやるから、道は自分達で切り開け」

「アンタはどいてて! アタシが『分解』して道を作る!」


 俺の前に進み出た加藤由利は、全方向から襲い来る化け物相手に、革製のグローブをした両手の親指と中指を弾きつつ、タップダンスの要領で爪先と踵を床に打ち付けることでACTを発動し、片っ端から怪物を弾き飛ばしていく。


 が、『分解』され損なった化け物たちは、細切れになりながらも彼女に迫っており、そのたびに視線を戻し、再度指を弾き、爪先と踵を床に打ち付けて『分解』のACTを発動しなければならず、前進できない。


 見かねた俺がOBに改変式を打ち込み……っ! 


 頭の激痛に、全ての動きが停まってしまった。


「君はそこで待ってろ! カマトトでどうにも出来ないならわたしがやる!」


 さっちゃんが左腕に装着したOBに改変式を打ち込み―打ち込んだと思った瞬間には、右手に握ったサバイバルナイフで増殖する化け物を切り裂いている。


 恐らくは、自身の肉体時間を加速、あるいは対象の肉体時間を減衰させるACT。あるいは、その双方かもしれない。


 だが、このACTも一対一ならば効果的だが……対複数となると決定打にはならない。


 その証拠に、さっちゃんは肉体時間のACT以外にも、炎を作り出して化け物を焼き尽くそうと試みたり、この戦闘で破壊された瓦礫を分子運動で操作させ、弾丸として射出したりと様々な攻撃方法を試している……が、こちらもやはり決め手に欠ける。


 彼女達を嘲笑うかのように、怪物共は弄ぶかのようにゆっくりと前進してくる。


「ちょっと下がって。文字入力、音声入力の併用を申請」


 右手で俺を制し、津田さんが左腕に装着したOBに改変式を打ち込むのと、天井に巨大なシャンデリアを連想させる、氷の巨塊が出現したのはほぼ同時。


 そこで、はじめて怪物共の動きが変化した。


 ある者は散開することでどうにか逃れようとし、ある者達は後先考えずにただがむしゃらに突っ込んできた。


「氷陣形成、装填射出、全行程完了、待機」


 ガラスを割ったような破砕音が轟くと、破壊と言う名の氷雨が次から次へと絨毯爆撃のように降り注ぐ。化け物どもは俺達に全く近付けず、一方的にハチの巣にされていく。


 あまりの攻撃の苛烈さに建物自体が揺れ始め、生み出される氷と大気の気温差による霧が辺りに立ち込め始めた。


 文字通り肉片一つ残らず掃討すべく、続けざまに津田さんは自身の背後に展開していた氷槍を一斉掃射。悲鳴をあげる暇も与えず、氷を生み出すために奪われた熱量が、掃射された全ての氷槍に戻され―


「停止解凍、全氷槍水蒸気爆発っ!」


 叫びと共に一瞬で沸騰、連鎖的に水蒸気爆発が巻き起こった。


 俺は声をあげることも出来ずにその場に突っ伏し、両腕で顔を守る。


 爆発がおさまり、霧が晴れた所で、俺は立ち上がり―隣で、片膝を突いて汗だくになり、苦しそうに呼吸する津田さんの姿があった。


「おい、津田さん、大丈夫か?!」

「……急ぎ、ましょう。早く、康太と、凛の元へ」

「そうだな。急いだ方がいい。このゲテモノども、また再生するぞ」


 声は後ろから。首だけを後ろに巡らせると、スーツケースを携えた酒井玲於奈が、後方に陣取っていた無事な化け物どもを、その影から発生させたACTで足止めしつつ、たった今、津田さんが木っ端微塵にした化け物どもを指差した。


「ミンチにされた肉片がうごめき始めている。数分もあれば、先程と同じ状況になる」

「……アンタはどうする気だ?」


 ここで犠牲になるようなタマとも思えんが。


「可能な限りの足止めをし、この『人形』を放棄するしかないな。残念ながら今回は縁が無かった、ということだ」


 両肩を竦め、例の左右非対称の表情を浮かべているが……世界が滅ぶことが事実だとすれば、随分落ち着いている。

「……アンタの本体は、他の時間軸に避難済みか?」

「ああ。と言うより、この時間軸に、私の本体がいたことはないんだよ。全て人形を介して、さ」


 この事態も奴にとっては得難いサンプル、と言う程度の事件なのかもしれない。


『酒井玲於奈』を放置したくはないが、今は白鷺さんの元に向かうのが優先だ。


 治まらない頭痛になど構っていられない。


 未だに呼吸が整わない津田さんに肩を貸し、俺達は駆けだし始めた

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