表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェイカー  作者: 那上畑 潤
Because, you don’t understand yourself
39/117

仰木加奈 ~記憶を喪いし友人~

 冷房の効いたファミレスは、同じくエアコンが24時間作動しているコンビニ並みに重宝する。


 と言うのも『平成』の俺は、汗っかきで、それこそ知人から『滝のよう』と表現されるレベルだったので、真夏の暑い日に知人に会うには、エアコンが効いている所でなければ、大量の発汗によって知人に俺の体調を心配されてしまう。


 故に、仰木加奈、と言う白鷺さんの友達と言われる人とファミレスで会う、というのはよかったのだが……


「はじめまして。仰木加奈と申します。白鷺さん、そちらの方は」

「私の『書類上の彼氏』になる、秦さんです」


 ウエイトレスさんがやってきて、三人分のグラスを置いて立ち去ったのを見計らってから返答した。


「ええと……はじめまして、秦啓一と言います。高校一年です」


 軽く頭を下げて目礼をするが、彼女に目を向ける。


 肩の辺りで切り揃えられたショートカットで、顔のパーツの一つ一つを見て行けばカワイイ系の女の子、という感じなのに……白系の落ち着いた色合いの衣服を身にまとい、さらには表情が動かないことと相まって、何故か真面目そうな印象を俺は与えられていた。


 白鷺さんの話では、茶目っ気が多分にあるという話だったので、活発で明るい娘をイメージしていたのだが……顔の作りは全然違うのに、声の抑揚があまりないこと、共に無表情であることが、白鷺さんととても似ているように見える。


 小雨が本降りになってきたのか、ザーザーと窓を叩き始める。

 帰りは雨、か。

 俺は息をつきつつ、気持ちを切り替えて話を続けた。


「唐突に東京から来たにもかかわらず、会ってくれてありがとうございます。今日は、聞きたいことがあって来ました」


 白鷺さんに目配せをすると、鞄から例の手帳を取り出す。


 俺がどう切り出そうかと思案した瞬間、仰木さんは俺にそれ以上喋らせまいと、手を翳して制止した。


「まず、料理を頼みましょう。実は私、夕飯を食べていませんので」


 意外な発言に、ちょっと反応が遅れて―いや、翳した手に、メモがセロテープで貼り付けられている。


 盗聴・盗撮ノ可能性アリ。発言二注意サレタシ。


「外食は久しぶりです。何を注文しましょうか」


 そう呟きつつ、彼女は掌に貼られていたセロテープを剥がしてからメニュー表を右手に取る。


 貼り付けられていたメモを左手でだけで器用に丸めると、鞄の中に手を入れた。


「秦さん、どうしましょう」


 白鷺さんが目配せをしてきた。盗聴されたらマズイ重要な話題は避けつつ、会話を繋いでくれ、ということか。


「スマンが肉とフライドポテト、注文して良い? ダイエット中とかだったら遠慮するけど」


「私は構いません。秦さんの、実技試験でのACTにおけるスタミナ不足を考えると、肉体面から鍛え直すのはもちろん、食事面も改善した方が良いと思うので」

「私も構いません。見た所、秦さんはむしろ、5キロほどは増量された方が良いように思えます。頬もこけて見えます」


 ……二人とも無表情なせいか、言っている事がかなり似通っているように思える。


「じゃあ、二人ともメニューが決まったら教えてくれよ。そしたら店員さん呼ぶから」

「秦さん、デザートはどうしましょう」

「どうしましょう、って食べたければ注文すればいいじゃ」


 ないか、と言おうとした俺に、白鷺さんは圧力を放つようにジッと見つめてくる。


「甘いものを食べると、太りやすいんです、秦さん」

「じゃあ止めておけば」


 良い、というのをためらわせる程の圧を無言で放ってくる。


 これは、何を意味しているのか。


 わからないので、正直に答えることにした。


「悪いが、パフェ一つを二人で分けたら、俺には絶対足りない。食べ始めたらどうせパクっと一つ食べてしまうから、俺はいいよ」


 ? そこでどうして二人とも俺を見つめる―いや、ひょっとして睨んで―ドン、と大きな音と共に外が光った。


 ヒッ……! オイオイ、随分大きな雷だな、小さく悲鳴を上げてしまったじゃ―


「白鷺さん、その様子では、苦労していますか?」

「どうでしょう? 実感はさほどありませんが、ため息をつきたくなる時は、ままあります」


 ……この二人、どうしてこんなに冷静なの? あんな大きな雷が近くで落ちたら、女の子らしい悲鳴の一つでもあげるもんじゃないのか?


 実際、周囲の女性は俺より大きな悲鳴あげてたし、見ろ、隣の席の小学生の男の子なんか、母親に泣きついているぞ。


 だから、首を竦めて、ヒッ、と叫んでしまった俺の方が、彼女達より肝が小さい、という訳では無い、断じて無い。思いたくない。


「さて、盗聴・盗撮及びATCを用いた情報調査については準備が出来ましたので、もう何を話して頂いても構いませんよ」


 ? ? ?


「すまん、具体的にどういった対策をしたのか、教えてくれないか?」

「アカシックレコードに、ここにいる私達が、適当に料理を注文して、恋話に花を咲かせている、というデマを撒き散らしました」

「……アレ? アカシックレコードの情報を改変することで、こっちの世界に氷の礫が生成されたり、20倍以上の速度で走ったり出来るんだろう? アカシックレコードを改変したのに、どうして俺達の周囲には何も変化が無いんだ?」

「私の特技です。私が今扱ったACTは、改変強度がありません」

「? 改変強度が無いって……ゼロってこと?」


 ん? 自分で言葉にしたが、どういうことだ?


「元々、仰木加奈という人間のACTは、改変強度が非常に弱く、その対応に四苦八苦していたようです。こう言葉にすると、他人事のように聞こえますが、私自身、ここ数カ月の記憶しかないもので」

「そこで、記憶を喪う前の私が彼女に『なら、いっそのこと改変強度を0にしたACTを発動できるようにしてみたら?』と提案したようです」

「あと、盗聴器に対しては電波のジャミングをしていますので、何も情報を得られないでしょう。ACTで情報を得ようとしている陣営に対しては、恋話や私が今、研究しているACTの事柄についての間違った情報を得ているでしょうね」


 ええと、情報の改変強度を0に出来るのか、という疑問もあるんだが、それは置いておく。


「二人ともまるで体験談のように話していたが……記憶は、喪っているんだよな?」


 それとも、記憶が無いと言っていたのは、盗聴を警戒しての演技だったのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ