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フェイカー  作者: 那上畑 潤
Because, you don’t understand yourself
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オリエント急行?

 さすがに東京駅前だと、人通りが半端無い。


 横断歩道渡るだけなのに、人の行き交いを注意して進まないといけない程、人の込み具合が激しい。


 山から下りて急いできたから暑く感じるというのはあるが、それを差し引いても人込みが激しいから体感温度が上がっている、というのもあるのではないか。


 バスやら車の交通量も多いので排気ガスの量も多く感じるし、田舎育ちの身から言わせて貰えば、空気が明らかに悪い。

 

 さらに言えば、前を向いても右を向いても、左を向いても高層ビルが乱立しており、その密集度ときたら圧迫感を覚えるほどだ。


 かと言って、つい先程歩いてきた東京駅の方角を見ると、見ただけでうんざりする人込み具合。


 しかも駅の中は複雑に入り組んでいて、下手な迷路より迷いやすいときた。


 正直に言うと、この場にいたくない。


 もっとも、この場にいたくないのは、そういう環境面だけが原因じゃない。


 土曜の2時過ぎに、東京にいる俺達が仙台にいる仰木さんに、夜の7時ごろに直接会いたいと言ったら断られると思っていたのだが、すんなりとOKが出た時点で、嫌な予感はしていた。


「ねーリンちゃん、ケイ君とのデートはどうだったの?!」


 発信機とか盗聴器は、沢の水でおじゃんになったはず。


 防水加工をしている可能性もあるが……盗聴器とか発信機以外で、何かしらの探知手段があることも考慮した方が良いか。


 津田さんの傍らに槇原君がいないのは、俺達が東京駅から新幹線に乗るかもしれない可能性を考慮し、二手に分かれたのか?


 無邪気そうに笑みを浮かべてねーねーと尋ねる津田さんは―俺の心証では、限りなく黒に近い灰色だ。


 服装だって迷彩色のTシャツに紺のジーパンと、戦闘でも想定しているのではと思わせる、動きやすいものに変わっている。


 しかも大きめのリュックサックも背負っており、その中にOBも入っているのではないか?


 猜疑心に塗れた瞳を津田さんに向けるが、そんなことには関心が無いと言わんばかりに、両肩からリュックサックを下ろし―OBではないな。


 かなり大きいが、アレは携帯電話か?


「あ、マキ?! うん、こっちにリンちゃんもケイ君もいたよぉ! 2人とも無事! 発信機から信号が消えちゃったから心配したけど、傷一つないよぉ!」


 堂々と発信機の存在を言い出したのは、もう隠せないと思ったからか? それとも、隠す必要性がないと思っているのか?


 黒幕か、その手先かまではわからないが、


「あら、奇遇ですわね、皆さん方」


 ……おい、事態をさらにややこしくするんじゃねえよ。


 背後からかけられた声にうんざりとしつつ、後ろを顧みる。


「そういう加藤さんこそ、どうされたんですか、こんなところで?」


 俺もゆりっぺ同様、完全に外向けの笑顔を作りつつ応対。


「正午頃でしょうか、突然山へピクニックに行きたい気分になったのですが」


 そう言いつつ、空を見上げる。ドンヨリと曇り始めた空を。


「こんな空模様では、いつ雨が降り出すかわからなかったので、それならばと、東京の外に出てみようと思い立ちまして」


 なるほど。正午頃に、山へピクニックに行きたくなり、ドタキャンして東京の外へ出るために、高速バスに乗ろうとしている、と。


 ……お前、ウソつくならもう少しうまくウソつけよ!


 白のトップスに白のボトムでベージュのトレンチコート、肩にかけている薄い桃色の小型バッグ……絶対、山にピクニックって服装じゃねえだろ!


「そうかい、そんな恰好していたから、誰かとデートでもしていたのかと思ったよ。似合っているじゃん、その服装」


 外見だけなら、という一言はもちろん言わない。


 その感情が見えづらい糸目と、一見すると物静かな佇まい、清純そうな色合いの服装が配合されることで、深窓のお嬢様のように見えなくもないから、ルックス的には似合っているんだけど……


 本性を知っている俺としては、似合ってねえという感想しか出てこない。


 もっと活発な赤とか黄色とか、その辺の色をまとった方が、ゆりっぺのイメージ的には似合いそうな気がする。


 まぁ、ゆりっぺも盗聴器やら発信機を俺につけているのは、これでほぼ確定……ん? どうしたんだゆりっぺの奴? 顔がかなり赤い。俺の真ん前までに距離を詰め、


「あ、アタシはデートなんてしていないわよ! 変なこと言わないで!」


 それだけ言うと、ゆりっぺは赤い顔のままプイとそっぽを向いた。


 高校生ならデートくらい、普通はするだろうからそんな否定しなくても良いだろうに。


「秦さん」


 なんだよ、まだ何かあるのか?


 白鷺さんの声に、うんざりしつつ回れ右をすると―周囲の人達がドン引いて、モーセの十戒みたいに割れていた。


「多分、ここのはずなんだけど―あ、いた」


 東京駅周辺という衆人環視の状況下で、左腕に装着したOBを操作しつつ何かを探しているのは―マスケラつけて歩道を闊歩する存在なんて、酒井さん以外いるはずがない。


 しかも服装は完全に手抜きで、学校の制服を着ていやがる。


 俺が右手で顔を覆いかけた寸前で右手を止め、他人のフリをするために酒井さんから首を不自然な形で背けたのは、当然の対応だと思う。


 クソ、前言撤回。


 津田さんだけじゃなく、全員が俺に発信器、もしくは盗聴器をつけていた、あるいは何らかの手段で俺や白鷺さんの行動を把握出来るのであれば、誰が黒なのか何てわかりゃしない。


 それとも実は全員グルで、真っ黒なのか?


 俺が今から乗るバスの名称、オリエント急行って名称じゃないよな?


 ホント、ポワロでもホームズでも良いから、名探偵をレンタルしたい……


 ぐったりした気分で、キャイキャイ騒ぐ津田さん、笑顔で猫を被り続けるゆりっぺ、自身が装着しているマスケラによってどれだけ視線を集めようが気にするそぶりすら見せない酒井さんの三人を引き連れ、俺は白鷺さんと共に仙台行きのバスチケットを購入した。


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