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フェイカー  作者: 那上畑 潤
Because, you don’t understand yourself
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奇妙な一致

 全く表情が動かないから、彼女の顔を見て真偽を判断なんて真似、俺には出来ない。


 だから、可能性で考えてみよう。


 まず、白鷺さん自身が黒幕だった場合。


 こんな怪しく思えるような接触をしてくるか?


 彼女に対する第一印象は無表情だが、二番目の印象を上げろと言われれば、聡明、と俺は答える。


 ……彼女自身が黒幕、という可能性はゼロではないが、かなり低いように思える。


 ただ、疑念ではないが、ひっかかりと言うか、モヤっとした、言葉に出来ない違和感を覚えているのは事実だ。


 白鷺さん自身は黒幕ではないが、何か関わっている気がしてならない。


 だが、白鷺さんが自覚せぬまま黒幕に良いように操られている、なんて可能性があるのか?


 聡明だと思う彼女が、掌の上で踊らされている、というのは中々想像しにくい。


 しかし、立ち居振る舞いや無表情に反し、白鷺さん本人は認めないだろうが、実技試験の際に見せた手加減から判断しても、決して人情味が無い訳では無いこの娘が、平気で人を騙せるのかと問われると、これも否、だと思う。


「なぁ、白鷺さん」


 少しでも情報が欲しい、何でも良い。


 とりあえず、何を話せば手掛かりが得られるか考えなくては。


 会話を引き延ばして、考える時間を稼ぐ。


「君が所属している派閥は、織田派だったよね。なら、敵対している羽柴派、松平派の人間が盗聴器を仕掛けているという可能性はあるよね? だとすれば、日常と言うには随分と腹黒いというか、陰謀渦巻く環境だけど、生殺与奪の権利を握られているモルモット、『封殺対象』だっけか? と言うには随分遠くないかい?」


「私には3年間の記憶しかありませんが、その中でも仲のよかった方がいらっしゃいます。仰木加奈という女性で、秦さんのような、外部からの転入生でした。1学年上の方で、戦闘がメインである実技試験では私が勝っていましたが、細かな制御を必要とする技能では彼女が勝っていたと思います。ACTの物質加工に興味を持っていたので、今年の4月、ACTの物質加工指導が得意な仙台の第五ACT高等部に転入しました」


 ? いきなり話が飛んだが……話の筋が、見えない。


「6月に、彼女からこんなメモ帳が届きました」


 そう言って、彼女が取り出したのはどこにでも見かけられるメモ帳だ。


 手渡されたメモ帳をパラパラとめくり、


「これ、何も書いていな―そうか、ACTで何か加工しているんだな?」

「私も、当初はそう思いました」


 思いました、と言うことは違うのか。


 訝し気に眉をひそめていると、白鷺さんは俺から手帳を取り、それを沢の水に浸した。


「津田さんのように茶目っ気のある方でしたので、私を驚かせるためにACTで加工して、このメモ帳を白紙に見えるように送ってきたのだろう、と……ちょっとした挨拶、パズルみたいなもので、これを解いたら連絡が欲しいとか、そういう趣向なのだろうと……これを自力で解こうとしたのが、大きな過ちだったのかもしれません……大雨が降ったために、鞄の中に忍ばせていたこのメモ帳が水浸しになるまで……時間にしておよそ一週間、私はこのメッセージに気付けませんでした」


 油で文字を書き、それを乾かしたのだろう―沢から取り上げられたメモ帳には、字が浮かんでいた。


 こちらに向けられた手帳の文字からは、書いた人物の心情が、焦りと、恐怖が滲み出ていた。




 タスケテ アタシ ケサレル




「このメッセージに気付いた私は、すぐに彼女に連絡を取りました。もう彼女とは話せない、と半ば諦めながら……しかし、電話で連絡そのものは、普通に取れました」

「? どういうこと?」

「彼女の第一声は、こうでした。『申し訳ありませんが、事故で記憶を失い、貴方のことを全く覚えていません』」


 …………


「記憶を思い出したいとは考えていないので、と言って電話を切ろうとする彼女を押しとどめ、どうにか会う約束を取り付け、再会出来ましたが……結論から言うと、発言通り、彼女は事故で仰木加奈としての記憶を全て喪失し、私のことは全く覚えていませんでした」


 …………


「白鷺さん、君も、中等部以前の記憶が無いんだよね?」

「はい。私からも、秦さんに改めてお聞きします。ご自身の記憶を今の状況と照らし合わせた時、何かがおかしい、と感じていますか?」


 年号が違う、俺の年齢が違う、身体も汗のかき具合などが違う。


 社会の常識が違うし、ACT、というものがある以上、科学技術の体系も違う。


 どれもこれも俺にとっては『偽』と言って良いもので、フェイクばかり。


 違わないものは、逆に、何だ?


 いや、今はそういう話をしていたんじゃなかった。


「……あのさ、白鷺さん、生殺与奪の権利を握られているモルモット、と言うには随分遠くないかい、っていう話だったと思うんだけど」


「たすけて、あたし、けされる」


 …………


「このメッセージを、どう解釈すべきでしょうか。あのメモ帳は単なるお遊びで、加奈さんが、間が悪いことに事故で記憶を喪っただけなのでしょうか。あるいは、加奈さんが何かを勘違いして、それに怯えていたに過ぎないのか」


「白鷺さんは、どう思っているんだい?」


「……彼女は、好奇心が旺盛で、確かに茶目っ気がある方ですが……お遊びでこのようなことをする方ではありません。また、彼女が勘違いをするとしたら、その『何か』が気になりますし―『何か』によって記憶を消された可能性を、私は秦さんと出会ってすぐに考えてしまいました」


 白鷺さんは、仰木さんの話をしていた間、『何か』に挑むかのように、ずっと俺を見つめていた。


「私につけられている盗聴器は、本当に各派閥が小競り合いをするためのものなのでしょうか……私には、これが、もっと恐ろしい『何か』が関わっているのではないかと―それこそ、モルモットとして、『封殺対象』として監視されているのではないかと、どうしても考えてしまうのです」


 …………良し。


「白鷺さん、今から仙台に行こう。君が言う仰木さんに、俺も会ってみたい」

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