決着
「幻影を作れる距離は、貴方から1メートルほど離れた位置が最大ですね。気付いたら、私の背後や側面に回っている事、私が気付いてからの、反応速度を勘案すると……貴方のACTは、私のような肉体制御では無い」
俺は肩で息をしながら、こちらに正対した白鷺さんの独白を聞く。
連続で起動するのは、2回が限界。さっきのは10秒どころか、体感時間で7秒ぐらいだった。
1秒でも良い。脳と身体を休ませる時間が、欲しい。
「物理法則を一時的に改変することで、高速移動が出来る環境を整える。それが貴方の、もう一つのACTですね」
俺は何も答えず、ただ不敵に笑う。
言葉を言う時間があれば、少しでも脳に酸素を送り込みたい。
「しかし、貴方の瞬間移動としか思えないその移動には、制約があると見ました。時間的な制約と……貴方の周囲にいる人物には、そのACTの恩恵が無差別に与えられる」
ッ!
「そうでなければ私は、貴方が背後や側面に回ったことに、気付かぬうちに倒されている」
ゼェ、と重過ぎる息が口から零れる。
「加えて、貴方の改変維持力では」
『砂上の楼閣』の特性を見破られた今、好機は、彼女が喋っているこの時しか無いっ!
背中のOBのスイッチを押し、『砂上の楼閣』を無理矢理発動すると、頭の奥から血管が疼くような鈍痛がもたらされた。
それでも、彼女を3メートル以内に取り込まぬよう、
「もう、改変の効果が切れていますよ」
無感情な声と共に数えるのがバカらしい程の刺突が繰り出され、間合いを幻惑される事も想定した薙ぎ、払いの斬撃も縦横無尽に放たれた。
故に、隙が生じる。
「! 手応えが無い……まさ」
白鷺さんがこちらを振り返る前に、俺は左手に握ったアルミ合金製の警棒を、右側面ではなく、白鷺さんの真後ろから、生体コードが接続されたうなじに突き付けた。
「……全部、演技、だったのですか」
まさか。そんな余裕、あるはずも無い。
ただ、俺の切り札が『砂上の楼閣』であることは、対戦すれば誰が見たって明らかだったから、もう一つのACTである『幻影』で小細工を弄しただけ。
『幻影』を作れるのは、俺を中心とした、1メートル前後の間隔。
そんなの、大嘘に決まっている。
『砂上の楼閣』同様付け焼刃のACTだが、自身から3メートル以内の距離なら、自由自在に作り出せる。
白鷺さんの背後や、左手に握る槍から遠い右側面に回り込んだのは『1メートル前後でしか幻影を作り出せない』と彼女に誤解させる必要があったから。
俺の身体能力でも勝敗を決する事が可能な、決定的な隙を作るために。
警棒をクイッと動かすと、彼女のうなじから生体コードが外れ、コツン、と硬質な音がリング上に奏でられた。
「これで、俺の、勝ち」
疲労と頭痛を押し殺しながら、勝利宣告を……
グラリ、と視界が揺らぐ。
白鷺さんが、怪訝そうに眼を細めたのがわかる。
いつの間にか、周囲が、明かりを消した映画館のように暗くなっている。
まさか……マズイ、コレ……




