1年生ナンバー1の実力
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『万有引力定数』『光速度数』『プランク定数』を、俺のACTで一時的に改変することで、俺の周囲を、俺にとって都合の良い物理法則に書き換える。
淡い光の膜に包まれ、光速の数%程度の速度を得た俺に対し、白鷺さんは訝し気に眉を僅かに顰めただけ。
この淡い光の膜の空間の中にいる者は、外にいる者と時間の流れが違う。
空間の外での一秒が、空間の中では下手すると数分以上になる。
『砂上の楼閣』と俺が名付けたこのACTは、俺の主観で10秒も持たない、ゆりっぺ曰く『ポンコツ』な燃費性能だ。
しかも『砂上の楼閣』は、OBの位置情報取得の制約上、俺を中心とした半径3メートル内の『あらゆる人物』にその恩恵を与えてしまう。
つまり、このまま白鷺さんに接近すると、『砂上の楼閣』内に取り込んでしまう。
彼女は普通に走っただけで、光速の数%程度で動ける力を手にし、そこからさらに『俺の主観』で、20倍の速度で動いてくる。
だから、俺は白鷺さんを『砂上の楼閣』の領域に取り込まないよう、円を描きながら彼女の後ろに回り、彼女に到達するまでに十歩ほどの距離の所で息を整える。
残された時間は少ない。
息を整え、白鷺さんに向かって全力で疾走を開始する。
『砂上の楼閣』が、背中に張り付けたOBにあらかじめ設定されていた『発動10秒後に強制終了』という条件を満たし、全力疾走開始から3歩目で、俺にとって都合の良い物理法則が支配していた空間が消え去った。
全力疾走の勢いをそのまま叩き付けるべく、白鷺さんの背後から、右手に握った警棒で急襲を掛ける。
が、5歩目で彼女が左手に持っていた槍ごと、その半身が翻った。
ッ! 槍刃の軌跡が死神の羽音めいた音を伴い、僅か30センチ先を掠めていく。
彼女にとっては牽制でも、俺にとっては一撃で必殺になりえる。
だが、何が起こっているのか彼女が理解出来ていないからこそ、まだ『牽制』で済んでいるのだ。『決め』に来られたら、俺では対応できない。
膝のバネで1歩、2歩3歩と続けてバックステップで後退し、3メートルの距離をどうにか確保する。
恐怖から冷汗が背を濡らし、ACT発動による疲労が額に汗を浮かばせる。
疲労を悟られぬよう、浮かんだ汗を見えにくくするためにわざわざチェック柄で、色がキツメの生地のバンダナを巻いたが―まだ白鷺さんに、俺の疲労はバレていないよな?
「掠っただけ? 光学迷彩のACT?」
「ご名答。君の槍を、数回やり過ごせる程度の距離にしか、作れんけどね」
疑問を口にしていることから判断しても、疲労はバレていないはず。
だがこれで、俺が自身に光学迷彩を施した事で、実際の俺が立つ位置から、前後左右1m程ズレた位置に幻を作り出していたことも、最初から生体コードをうなじに接続することで、開始直後にACTを発動したことも、もう彼女には推察出来ているだろう。
あとは、『砂上の楼閣』の特性が看破されるか否か。
大きく息を吸い込み、背中に背負っているOBのボタンを押すことで、『砂上の楼閣』を発動。淡い光の膜が俺を包む。
もう一度、白鷺さんを3m以内に取り込まぬよう、背後に回り込む。
『砂上の楼閣』の発動、停止の二つしか行えないこのOBは、俺のアイディアを元に組み立ててもらった、ゆりっぺ曰く『一点特化の鉄屑』。
『砂上の楼閣』を発動するためだけに性能を絞り込んだ事で、俺でも、特定の改変式を入力するだけで『砂上の楼閣』を使えるが、疲労感は半端無い。
さっきは10秒しか使っていなかったのに、1キロを全力疾走で駆け抜けたような疲労感が、まだ残っている。
現に、大した距離を走ってもいないのに、登山をした時のような頭痛が疼き始めた……ヤバい、これじゃ10秒持たん……!
背後ではないが、仕方ない。今度は右後方の側面から彼女に襲い掛かる。
っ! 1歩目を踏み出した時に、疲労から『砂上の楼閣』が強制停止される。これでは、奇襲にならない!
咄嗟に踏み出し掛けた2歩目で制動をかけ、こちらの疲労を見破られないよう、ベルトに吊るしていた煙幕弾のセットのピンをまとめて抜き、ベルトごと牽制として投擲。
だが白鷺さんは視認すら出来ない速度で、投擲された反動でバラバラに降り注ぐ煙幕弾に対し、槍による無数の薙ぎ、払いを敢行。
リング外に弾き飛ばされた計7つの煙幕弾は、シューと間抜けな音をたてながら、今頃白煙をまき散らし始めた。
頭に巻いたバンダナに、汗がジットリと張り付いた。




