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フェイカー  作者: 那上畑 潤
Because, you don’t understand yourself
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戦いはすでに始まっていた

「白鷺凛、秦啓一、両者前へ」


 俺の左手はうなじに添えられている。OBに接続した生体コードを、白鷺さんがACTを発動した余波を用いて、接続するためだ。


 右手には小回りの利く、長さ50センチ程度の、アルミ合金製の警棒。


「わかっていると思いますが、私のACTの加速率は20倍。半分程の10倍でも、秦さんがうなじに生体コードを繋ぐより先に、攻撃を当てる事が出来ます。それが、何を意味しているかは、わかっていますよね」

「…………」


 俺は何も答えない。ただ歯を食いしばる。


「両者、位置について」


 1歩、2歩と互いに背を向けて距離を取り、所定の位置に立つ。


 3メートル程の間合いを取った所で、振り返る。


 ……遠い。めちゃくちゃ遠い。


 俺からはめちゃくちゃ遠いのに、白鷺さんは一足で踏み込んでくることができるどころか、俺の背後に回り込むことすら可能なのだろう。


 白鷺さんが腰を落として、槍を構えたのに応じるよう、俺も腰を落とす。


 俺達の間に立っている教師が右手を上げ、


「はじめ!」叫ぶと右手を振り下ろす。


 3メートル。生死を分けるかもしれない、3メートル。


 俺は背中に左手を回しつつ、彼女から全力で距離を置くために、左へ横っ飛びを敢行。


 白鷺さんは槍を構えつつ、わずかに首を傾げた所から判断すると、俺の偽装は上手くいったようだ。


 左腕に装着したOBは、実はすでに作動している。


 装着したOBから伸びている生体コードも、俺のうなじに、光学迷彩を施した上で接続されている。


 だが、俺以外の時間が、制止しているかのようなこのACTは、左腕に装着したOBで発動したモノではない。


 俺の背中に括りつけたOBは『位置情報取得。万有引力定数、光速度数、プランク定数改変』と、その持てる能力を、4つの事柄だけに注いでいた。


 *


「どんな方法よ?」

「誰かが発するACT発動の余波を、何らかの装置で常に集約することで、俺がいつでも自由に生体コードをOBに繋げることって、出来ると思う?」


 俺の発言にゆりっぺは目を丸くし、顎に手を当て、いや、とか、しかし、とブツブツと呟きながら考え込む。


「理論的には、可能、だと思う。でも、やったことなんてないから」

「なら、そういう装置を作ろうと思えば、作れるもんなのか?」

「だから、誰もやったこと無いんだって! OBを分解すれば、それらしいものは作れるかもしれないけど」

「実戦形式の試験ってのは、どんな感じでやるんだよ?」

「ああもう、次から次へと! 外に闘技場があるでしょ? あの中に、およそ100メートル四方の壁に囲まれた試験場が複数あるのよ。そこで別々に試験を行っていくのよ」

「つまり、俺と相手が試合を始める前に、もう誰かがガッツリACTを発動している訳だな」


 ならACT改変の際、空間に放出される微弱な余波をかき集められれば、わざわざ試験相手がACTを発動する瞬間を狙って生体コードをうなじにつなぐ必要はなくなる。


「だから! そういう装置を作ったことなんて」


 俺は無言で、両手を合わせた上で頭を下げ、ゆりっぺを拝んだ。


「頼む。もう、俺はゆりっぺに利益を提供できる情報は無い。かと言って、ゆりっぺの力になってるやることも、俺の現状では出来ない。だから、虫の良い話だけど……頼む」


 はぁ、と短いため息がゆりっぺから聞こえてきた。


「……参ったなぁ。アタシって、そんなお人好しじゃないと思っていたんだけど」


 その言葉に頭を上げると、しょうがない、とでも言いたげに苦笑するゆりっぺの顔があった。


「でも、アンタ。仮にアタシがアンタの望みの品を完成させたとしても、1回戦を突破するのは並大抵のことじゃないわよ?」

「ん? どうしてだ?」

「アタシのACTは情報の把握に特化しているから、PCとかをハッキングするのも得意なんだけど」


 アンタの1回戦の対戦相手、白鷺凛よ、と言うゆりっぺの声は非常に苦い。


「ハッキリ言うと、彼女、まだ1年だけど、化け物と言った方が良いくらい強いからね。アタシ、3年生含めた全校生徒の中で10本の指に入るくらいには強いと自負しているけど……彼女は、5本の指に間違いなく入る」


 そんなにか……


「能力は、身体能力の向上。極めてシンプルなACTだけど、だからこそ穴が無い。アンタ、常人の20倍の速度で動く相手に、攻撃を当てることが出来る? 攻撃を当てるのはおろか、見る事すら至難の業だと思うけど?」


 …………


「乗りかかった船だから、アンタがどういうACTを身に付ければ、彼女に勝てる可能性があるか、考えてはあげるけど……アンタ、自分のACTの特性の診断書は無いの?」


 催促された俺は、白鷺さんから受け取ったプリント類を鞄から出し、ゆりっぺに手渡す。


「これまた、見事な一点特化型ね。物理法則改変に特化して……あとは、他因子の改変が並みの下、物質構成改変が下の上、肉体強化は下の下と。

 持続性が全部1とかって何よコレ? つまり、白鷺さんを秒殺するプランを組めってこと? 今までロクにACT使った経験も無い奴が? どんな無理難題よ、コレ」


 ああでもないこうでもないとゆりっぺはブツブツ呟いているが……


「しかし、白鷺さんは肉体の制御に特化して、アンタは予測に特化していて、基本的にリライターはどこかの分野に特化するものなのか?」


「もうこれじゃバックファイアが……って、何、アンタ、そんな初歩中の初歩も知らないの?

 簡単に言えば、アカシックレコードの情報量に対して、人の脳じゃ容量が少ないのよ。だから、基本的にどこかの分野に特化することになる。

 昔、大戦中にどこかの国が、実用可能なレベルであらゆる分野のACTをリライターに習得させようとした実験があったけど、脳に異常が発生した―バックファイアって呼ばれているけど―そういう論文があるわ。

 まぁ、どこぞのマスケラのように、個人専用なのか、あるいは誰でも通れるのかは不明だけど、ちょっとした抜け道ならあるみたいだけどね」


 つまり、俺も基本的には一点特化、多くても二点特化と数を絞る必要があるのか。


「なあ。俺のACTは本来なら、他者がACTを発動した余波を利用しないと、使えないんだが。そういう装置が仮に出来たとしたら、ACTを使って、生体コードをうなじにまだ繋げていないと彼女に見えるよう、光学迷彩で偽装するってのは出来るか?」


「彼女は、アンタがそういう体質だと知っているのよね? 可能か不可能で言えば出来るし、油断を誘う、不意を打つと言う意味なら有効でしょうけど、それ以前に、20倍の速度で動く彼女に不意を打てるの?」


 ゆりっぺは険しい面持ちで、俺が出したプリントを指で弾く。


「俺の得意な分野は、物理法則の改変なんだろ? なら、こんなのはどうだ?」

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