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フェイカー  作者: 那上畑 潤
Because, you don’t understand yourself
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どんな手段を使っても勝つ……!

 これは何と言えば良いのだろうか? 試験会場、と言うには語弊がある気がする。何せ、今俺が見ている会場は映画で見るような、古代ローマの円形状の闘技場っぽい造りなのだ。


 直径で数キロはあるだろう闘技場には観客席があり、そこには生徒が観戦をしている。


 ただ、ほとんどの生徒が自身の実技試験に集中しているので、生徒の数は数えるほど。ただ、何かの参考資料にでもしようと言うのか、ビデオカメラで撮影している者もいたり、筆記用具を持参して何かを書き留めている者もいたりする。


 最上段には恐らく採点をしているであろう教師陣が多数陣取っていて、時折、OBのようなもので何かをチェックしていた。


 高所からだけではなく、低所からも採点しようという意図なのか、生徒が入場する出入口と反対の位置には、恐らくは特殊な加工をされたと思われる、ガラス張りの部屋に五名の教師が観戦しており、こちらは机の上に置かれたノートパソコンで何かを記録していた。


 出入り口にも男女二人の教師がいるのは、不審物やルールに反した品を持ち込まれないようにするためだろう。


 スーツ姿の男生教師-胸元のプレートには、深山、とある―が、俺のうなじを見てから、訝し気に目を細めた。


 恐らくは、俺の名前がわからなかったのだろう、胸元のネームに目を落とす。


「秦啓一、だな? そのうなじはどうした?」

「俺は独力で生体コードをうなじに繋げないので、他者が使うACTの余波を利用し、生体コードを接続する必要があります。これは、そのための工夫です」


 そう言いつつ、左腕に装着したOBから伸びている、まだ接続していない生体コードを見せる。


 なるほどな、と深山教師は短く呟き、何かをメモしていた。


 まさか、この試験そのものを受けられない、なんてことはないよな?


「何をしている? 早く行って、いつ出番が来ても良いよう、準備運動をしておけ。お前の試験会場は7番だから、間違えるなよ」


 ほっと、一息ついた俺は前に進みつつ、ここから見えるコロシアムの中央に目をやった。5番試験会場と書かれたその闘技場には、審判役と思しき教師の他に、二人の生徒が競いあっている。


 俺も持っているような、腕に装着するタイプのOBを持った生徒が十数個の氷の礫を生み出し、相手に叩き付けようとしているが、剣と思しき武器を持った生徒は、自身を襲う氷礫をことごとく粉砕し、一直線に標的へ駆ける。


「秦さん、そのバンダナはどうしたんですか?」

「うぉ?!」


 唐突に後ろから声をかけられたので、反射的に叫び声が出た。


 後ろを振り返れば、対戦相手の白鷺さんがいつも通りの無表情で佇んでいる。 

 

 着用しているのは制服では無く、コロシアムの中央で戦っている生徒や俺も着ている、黒で統一された、フィット感のある服。

 

 おそらくは炭素繊維が混ぜられた、頑丈な作りの防具。


 頭部や心臓といった急所に致命の一打が叩き込まれたら、自動的に俺達を保護する電磁場の盾が展開される造りだそうだ。


 無論、これが発動したら負けである。


 ……と、そんなことを考えても、身体のラインがクッキリ出るモノなので、高校生の時の自分が見ていれば、多分顔を赤くしていただろう。


 今でも、赤くなっているかもしれない。


 俺は35の良いオッサンだろ、と自身に毒づきつつ、一番目に付いた、彼女が左手に持っているモノを指差した。


「気分転換みたいなもんさ。白鷺さんこそ、その槍は何?」


 白鷺さんが左手に握っていたのは、槍。


「これは私が扱う、OBの一つです。私自身の位置情報の特定と身体の強化、強化によって生じる肉体への反動の消去、知覚の加速に特化したOBです」

「そんなことまで俺に言って良いのか?」


 それが無けりゃ、戦力ガタ落ちってことになる。


「今日の私は、あまり体調がよくありません。明日に備えて、可能な限り力を温存したいと思っています」


 つまり、手を抜くの? と俺が口を開きかけると、彼女はこう知って遮った。


「それでも、秦さんが私に勝てるとは思えません」


 実に言いにくい事を、ズバリ言ってくるな。


「何か策はあるみたいですが……生体コードを、私がACTを使った余波を利用し、うなじに接続した時には、私の槍型のOBが喉元に突き付けられているのでは?」


 ムッときた、と彼女に見えるよう俺は渋面を作る。


「まぁ良いさ。ACTを発動できさえすれば、俺にも勝機がある」

「そうですか。発動出来ると良いのですが」


 淡々と返された……さて、今の会話。どう解釈すべきだ?


 俺の、白鷺さんの印象は、美人、無表情、冷静、聡明。


 付け加えるなら、俺の記憶を改変した張本人かもしれない、だ。


 最後は保留だが、聡い彼女が単純に俺を挑発したとは思いにくい。


 何せ、普通に戦えば勝てる。


 今の会話を、白鷺さんはどういう意図で行った?


『1学年1組1番、白鷺凛、12組38番秦啓一、7番試験会場へ』


 アナウンスに従い、コロセウムの左端に向かって歩き出す。


 途中、これまで戦っていた二人の生徒にすれ違い様で会釈をするものの、負けたと思われる女子生徒は下を向いたままで、男子の勝者と思しき者は白鷺さんだけを凝視していた。


「? 秦さん、どうしました?」

「何が?」

「いえ、どうして笑っておられるのかと」


 負ければ、退学。


 最悪、死へのカウントダウンになるかもしれない状況下で、相手は考えられる限り最悪の相手。


「こんな燃えるシチュエーション、そう無いな、と思ってね」

「手は震えていますが?」

「武者震いってやつさ」


 震えている? それがどうした!


 やらなきゃ、文字通り殺られるだけだ。

 

 どんな手を使ってでも勝つしかないんだ……!

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