難題未だ解決せず
「しかし、啓一君がACTを使えることは実証出来ましたけど、退学を学校側から勧告される可能性は、まだあるのではないでしょうか?」
「んんん? どゆこと、マキ?」
「ACTの実技試験をする際に、いつも他者に生体コードを繋いで貰う訳にはいかないでしょう。独力でACTが発動出来なければ、退学勧告が出る可能性があるのでは?」
指摘に津田さんはちょっと考えると、そうかもー、と笑いながら自分の頭を掻いた。
自力でACTを発動出来ないのであれば、可能性は高いな。
「そもそも、脳のスイッチが壊れている、ということで打開策がないかを話し合っていたからね。スイッチを貸してやれば、それは出来……」
そう言って、机の上のポテトチップスに手を伸ばし掛けた酒井さんは、何かに気付いたのか、その手を止めた。
その動きに、全員が注目する。
「白鷺さん。半年くらい前でACTを使って道路工事した際に、近くにいた他の作業員のOBが誤作動を起こして怪我をしたって新聞記事がなかったか、調べてくれない」
白鷺さんは無言でノートパソコンのキーボードをタッチ、ディスプレイ画面を酒井さんに見せる。
「これでしょうか。2月11日、北海道の函館市で道路工事中に、作業員の一人がACTを用いて作業しようとした所、休憩中の作業員のOBが誤作動を起こし、怪我をした、という内容ですが」
かなり失礼な感想だが、該当する記事を10秒もかからずに検索してくるのは、その無表情と相まって、さながらマシーンのような印象を与える。
酒井さんは一つ頷くと、生体コードをOBから取り出し、
「こうやって生体コードをうなじに接続する時に、あたし達はACTを無意識に発動させている。このACTについては、生体コードをうなじにつながなくても、OBの補助があれば苦も無く出来る訳だけど」
うなじに繋げる。何回見ても、違和感しか覚えない。
「工事中にどうして事故が起こったかってのは、OBからACTを改変した余波で、想定していない微弱なエネルギーが空間に放出され、OBが誤作動を起こしたため、と考えられているみたい。OBの使用者の意図とは別にACTが発動したり、OBが誤作動を起こしたりするのは、この想定していない微弱なエネルギーが、アカシックレコードに干渉しているから、という説が今の所、最も有力な説だ。これを利用する事は出来ないかな?」
「あれ? ケイ君はACT発動に必要な脳のスイッチが壊れているんだよね? 彼がうまく、エネルギーの余波を利用出来たとしても、脳のスイッチが壊れてたら、そもそもACTは作動しないんじゃない?」
「いや。エネルギーを注いでやれば、スイッチがまた動き出しているのは、さっきの君の実験で証明されているから問題無い。エネルギーがあれば一時的にではあるが、スイッチはオンになるんだ」
津田さんの懸念は酒井さんの受け答えを聞く限り、問題無いようだが、白鷺さんが静かに挙手していた。
「あまりにも難し過ぎませんか。針金一本でオートロックのマンションに忍び込むようなものです。それだけでも難しいのですが」
? 白鷺さんは一度言葉を切って俺を見る。
「そもそも実技試験の際には、試験開始前に生体コードをつないでいます。ですから、秦さんは相手がACTを発動した隙を縫って、その際に生じる相手のOBの余波のエネルギーを巧みに利用し、生体コードをうなじに繋げる必要があります。相手がACTを発動する余波を利用するというのが難しい上、相手のACTは秦さんを襲う目的で発動されます。これを回避、あるいは防御した上で、となると神業と言っても良いかもしれません」
「でも、あたしにはそのくらいしか案が思い浮かばない。生体コードを接続する際の余波を利用することから練習をはじめて、最終的には、相手のACT発動の際に、生体コードをつなげられるように練習をする……あと、一週間しかないけど」
酒井さんの言葉に、白鷺さんは目を閉じて黙考するが……名案が浮かばないらしく、助けを求めるように津田さんを見るが、ニコニコと笑ってこそいるものの、ただ首を横に振るのみ。
槇原君も他に何かないかと、天井を見上げているが、あの様子では何も思い浮かばないらしい。
「それしか、なさそうだな。申し訳ないけど、そのトレーニングに付き合って貰える? 成功する見込みは薄いし、皆にとっては全然メリットが無い提案なんだけど」
「成功報酬は、スモドのハンバーガーで良いよ~」
津田さんはポテチをパリパリ食べながら朗らかに返答。
「わたしはどうせ授業出ないし、暇だから付き合うよ」
「いや酒井さん、授業は……出ましょうよ」
酒井さんの言葉に、根が真面目そうな槇原君は反射的に指摘をし、途中で話し掛けた相手は酒井さんであったことに気付いて黙りかけてから最後まで続けた所から判断しても、酒井さんには積極的に関わりを持ちたくないのだろう。
それでも、津田さんに振り回されて、という結果論ではあるが、俺の手助けをしてくれるのは有り難
い。
「では、生体コードをつなげる際に発生するOBの余波を利用する練習から始めましょう。生体コードをつなぐ人を、ローテーションを組んで回していきましょう」
……考えたくないことばかり、さっきから考えている。
彼女達が、何のメリットも無い俺の特訓に付き合っているのは、監視を兼ねているのではないか、と。




