ACT、独力での使用出来ず
「……ちょっと、休憩した方がいいね」
10分。たった、10分。
津田さんが生体コードをうなじにつなぐ際に生じる余波を、OBを用いて探知しようとしたのだが、俺はエアコンの利いたこの実習室の中にいるにもかかわらず、汗だくになっていた。
見守っていた酒井さんが、休憩させるくらいには。
たまらず椅子に腰掛け、大きく息をつく。
「何でだ? OBを、検索しているだけで、どうしてこんなに汗だくになる? 生体コードを、つなげている訳でもないのに、息も上がっているし、頭もズキズキ痛むし……ん?」
? 白鷺さんが差し出したプリントには、四つの頂点で形成されたひし形……一点が突出していて、一点が極端に凹んでいるひし形だ。
凹んでいる項目は、持続性。
持続性の項目は全部で4つ。
物理法則改変持続性、肉体強化持続性、物質構成改変持続性、他因子改変持続性。
これが全て軒並み低い。10点満点で全部1なんだから笑えてくる。
「いや、待ってくれ。生体コードを接続していれば、極度のスタミナ不足からOBと接続しているだけで疲労する、という可能性も無くは無い。でも、秦君はその生体コードが接続できていないんだぞ?」
プリントを一緒に見ていた酒井さんが、不可解そうな声で尋ねるのも無理は無い。
「んー、でも息はゼエゼエ上がっているし、汗をかいて頭痛までするって言うんなら、これ、まず間違いなくACTを過剰に発動した際の症状だよね?」
津田さんが腕を組んで唸りつつ笑うという芸当を見せるが、コレ、筋が通らないぞ?
生体コードが繋がらないから、ACTが使えないんだ。
ACTが使えていないのに、ACTを使っているような疲労感が押し寄せてくるって、どういうことだ?
「仮説は、いくつかあります」
そう言って白鷺さんは人差し指を立てる。
「まず、生体コードが繋がっていない、というのは誤表記で実はしっかり繋がっている。秦さんの疲労と頭痛は、極度の持続力不足のため」
「その線は無いね。どう見たって生体コードはうなじに繋がっていないんだ。生体コードが繋がっていない状態で、そもそもACTの改変が出来る訳が無い」
酒井さんの断言に、俺も、津田さんも、槇原君も頷く。
白鷺さんも頷き、二本目の指を立てる。
「二つ目。秦さんの息が上がっているのは、急性の何かしらの病気を患ったため。頭痛もそれが原因であれば、辻褄としては、合うかと」
…………え?
そ、その可能性もあるのか。脳梗塞とか突発的な病気であれば……
「もしそうだったら命に関わるでしょ!」
津田さんは珍しく血相を変えて、OBから生体コードを引っ張り出し、それを自身のうなじに接続。それから予備の生体コードをOBに接続してから、俺のうなじに接続。
このモゾモゾする感覚、2度目だけど慣れないな。
「……脳は多分、大丈夫。血管系もオーケー。お医者さんじゃないから断言は出来ないけど、頭とか血管は大丈夫だと思う」
「一応、あたしも見ておきたい。こういうのは、万が一すらも避けないといけないから」
続いて酒井さんも同様に、俺のうなじに生体コードを繋げた。
「……うん、病院に行って診察して貰った方が確実だろうけど、大丈夫だと思う」
ビビった……かなりヒヤッとしたが、まぁ、そうだよな。大丈夫だよな。
白鷺さんは三本目の指を立てた。
「三つ目。誰かが秦さんの脳を使って、ACTを知らぬ間に実行している。秦さんが自力で生体コードを繋げないのも、その第三者の干渉によるため」
!
俺は生体コードを繋いだままの津田さんに視線を飛ばすが、彼女は静かに首を横に振るのみ。
俺の背後に回った酒井さんも、OBと自身のうなじに生体コードを繋いでから、俺に繋がれていた生体コードを自身のOBに繋げる。
酒井さんは数秒、OBをジッと凝視していたが、ゆっくり息をついた。
「……干渉を受けていれば、何かしらの形跡があるものだけど、何も無いね」
「念のために聞きますが啓一君、レントゲンとか、CTとか、MRIとかの画像では何も異常は出なかったんですよね?」
槇原君が極めて常識的な質問をするが、MRIとかCTで異常が出た、という話は俺も聞いていない。
「ああ、異常は何も。3つ目は無いだろうよ、白鷺さん。そもそも、俺の知らない間にACTを使っていると言うのなら、俺は四六時中息が上がって、頭痛に悩まされているよ。他に何か考えられる可能性はある?」
「今の所、私が考えられる推測はこの3点のみです」
「ACT改変の際に、OBから発せられる微弱なエネルギーって、脳に何か影響を与える可能性は、ある?」
俺の推理に、酒井さんと津田さんはやや考え込む。
「今までは、そういう話は聞いたこと、なかったけど」
「うーん、全ての持続性が1なら……いや、どうだろう? 有り得るのかな?」
「OBが発する微弱なエネルギーに疲労するのであれば、逆説的に、その余波を用いて生体コードをつなぐ事も出来そうですしね」
俺の指摘に、なるほど、と槇原君が頷く。
よいしょ、と掛け声を上げて椅子から立ち上がり、俺は再びOBから伸ばした生体コードを右手に持ち、うなじに接続するように押し付けた。
「じゃあ、次は僕がやろうか」
「気合い入れていくか……よし行くぞっ!」




