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フェイカー  作者: 那上畑 潤
Because, you don’t understand yourself
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ACT実習室

「正直に言うと、ACTをどう行使するのかあまり想像出来なかったんで、助かりますよ」

「そうは言っても、この学校にいる生徒であれば、わたしに出来ることは誰でも出来ると思うけどね」


 何せ2年生の337名中、337番の成績だから、とマスケラの向こう側で笑うが、周りの生徒は俺達を明らかに避けている。


 酒井さんがこれだけ機嫌良さそうに喋っているにもかかわらず、生徒たちからは畏怖の視線しか向けられないのだ。


 病院での白鷺さんとの勉強は、精神病患者と思われないよう、常識の学習と、ACTの高校でも行われる国・英・数・理・社の科目の復習に費やされた。『正化』の世の常識はもちろんだが、高校時代の知識なんてほぼ失われているから、1ヶ月程度の付け焼刃とはいえ、中学時代までさかのぼった復習をしてくれたのは、非常に有難かった。


 しかし、ACT関連については、『1日16時間、5教科の勉強をして、その上ACTの座学と実践となれば、秦さんの病み上がりの身体では持ちませんので、拒否します』と断られてしまったから、うなじへの生体コードの繋ぎ方すら習っていないのだ。


 ACTについての情報を病院で俺に教えなかったのは、言葉通り俺の体調を気遣ったか―教えると、白鷺さん達に何か不都合がある、のどちらかのはず。


 なら、俺にとって現状は、少なくとも最悪ではないだろう。


「着いた着いた。本来なら、こんなせま苦しい所には入りたくないんだけど」

「金が無いんで手造りになりますけど、俺が作れる範囲で何かご馳走しますよ。何かリクエストはありますか?」

「さすがに、君にお酒を造らせる訳にはいかないから、気持ちだけもらっておく」


 あんた、本当は何歳なんだ? と目で訴えてみたが返答はもちろん無い。


 眼前にはドアノブが無数にある。


 3メートル程の間隔を置いて、ずーっと小部屋らしきドアが並列しているのだ。


 さらに、ドアノブの上辺りに、何かの機械が設置されている。


「ACTを扱うには、当然のことながらアカシックレコードを改変する必要があるんだけど、初心者が、OBの補助だけでACTの改変をすることは難しくてね。だからACT初心者である一年生で、4組より下の組に配属されている生徒は、この四方を3メートル程度の幅で、白い壁に区切られた『ACT実習室』で自学自習を行うんだよ」


 酒井さんがポケットからカードを取り出すと、慣れた動作でドアノブの上にある機械にカードを通した。


「君にもカードは支給されているだろ? 一応、通しておいて」


 言われた通りカードを通し、部屋の中に入る。


「この実習室そのものが、巨大な改変補助装置になっていてね、OBの補助だけではうまくACTを改変できない生徒も、ここでならある程度の改変が出来るから、初心者にはうってつけの環境さ」


 部屋の中は精神統一しやすいようにという配慮からか、白一色で染め上げられている……逆に落ち着かない気もするが、落ち着かない環境下でもACTを発動できるように、というのが狙いなのかもしれない。


 部屋の備品は、これも白に染め上げられた小型の机と椅子が一つずつ。その上にはバイザーらしきものが備え付けられたヘルメットと、病院で見たスマホもどきことOB、それに生体コードがある。


 配色のせいか涼しく感じられる、と思ったが何のことはない、エアコンが、俺達が入室する前から作動していたらしい。


 どうりであまり汗をかかないと思……ん?


 ……振り返ってみれば、あまり汗をかいていないな。


『平成』の秦啓一は、青森の夏であっても、何もしていないにもかかわらず、頭から滝のような汗をかいていた。


『正化』の秦啓一は、青森の夏より明らかに暑い川崎でも、あまり汗をかいていない。


 ……まぁ、良い。こちらで暮らす以上、暑さに強い方が、何かと都合が良い。


 俺は扉を閉め、ドアを塞ぐよう扉に背を預けた。


「どうしてあんなわざとらしい口癖を作ってまで、ここへ俺を誘ったんですか?」


 俺に気付かれていることは酒井さんもわかっていたみたいで、椅子に腰掛けてから深々とため息をついた。


「どこに盗聴器があるかわからないから。君の服に、小型のモノがついている可能性だってある」

 ……

「だから、どうにかして君と一緒にこの実習室に入りたかった。ここなら防音はもちろん、ACTの改変の関係上、盗聴や盗撮はまず無理だ」


 エアコンの駆動音だけが、部屋に静かに響く。


「あんまり驚かないね。予想していた?」


「可能性の一つとして有り得るかな、という程度には」


 指摘に頷く俺を見て、酒井さんは先程よりも大きなため息をついて、自身のマスケラを覆うように右手で押さえた。


「啓一君、君、そこまで用心深くなるような人生を歩んできたのかい?」


「酒井さんが考えているより、かなり数奇な人生を歩んでいる最中ですかね」


 気付いたら高校生になっていてパラレルワールドに飛んでいた、と言うのはかなりぶっ飛んでいるが、実はそれすらフェイクで記憶がいじられている可能性があるんだから、疑り深くも用心深くもなる。

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