珍客と道化2
「おい下郎。ここが道化の出し物がある目的地か? 随分とけったいなモノをACTで作り出したようだが」
胡乱気な声で問いただす松平勝康は、眼前のグラウンドに建設―いや、氷出、という単語の方が正確な気がする―されているものを指さす。
高さ10メートルはあろうかという、西洋風の宮殿。
ただし、材料は全て、氷。
「まぁ、俺は2年1組に在籍している訳ではないのでどうやって作ったかはわかりませんし、どうしてこんなものを作ろうとしたのかもわかりませんが」
半分、ウソだ。
どうやって作ったかはともかく、どうして作ったのかは、カラオケで情報交換をしていた際に槇原康太がこぼしていた愚痴で推測できる。
(3組が作成しようとしている空間系ACTを用いた立体迷路に負けたくないから、同じ空間系ACTを使用した、広大な仮想空間にした上で、外見は氷の城にしようなんて……加藤さん、同じ組なのに、どうして止めてくれなかったんです? 僕は2組なんですよ、隣の組から止めに来いとそう言うんですか?)
「さぁさぁ、この氷の城、一見すると単なるお城ですが、中に入るとあら不思議! ある時は桜が咲き誇る広大な庭園が出現し、ある時は灼熱の太陽が照りつけつつも、涼しげな川のせせらぎで涼をとれる河川敷に、またある時は紅葉が落ちる山の中で焼き芋に舌鼓を打ちつつ、ある時はあたり一面銀世界が広がる白亜の城が出現します。もちろん、その中では様々なアトラクションが」
槇原康太の愚痴を思い返しながら歩を進めていると、宣伝文句を謳うように読み上げる一組の生徒が目に入った―確か、この男子生徒は羽柴派だったか―
が、彼は松平勝康と津田香を見つけると、唖然と固まってしまった。
「な、な……何故こんな所に、松平の次期後継者が」
「控えよ下郎。忍んでやってきていることすらわからぬか、たわけ」
「お客さんだよー、決してあたしの友達じゃないからねー、そこのところよろしくー」
羽柴派の生徒の問いは至極真っ当なものなので特に言うことはないが、嗜虐心に満ちた面持ちで胸を反らせる松平勝康に、オレは湿度を多分に含んだ眼差しを注いだ。
羽柴派と思われる生徒は、何とか抗弁しようとするが、口から言葉が発せられることはなく、受付用の机に両手を突いた状態で、ただ口を金魚のようにパクパクと動かすのみ。
こういう時、1組以外のクラスであれば生徒の数が一定数いるので、異常に気付いた者が手を差し伸べるのだろうが―あいにく、10名しかいない1組では、受付に2人も人数を割けまい。
の、割には、津田香が旗を片手に集客していたのが解せないが―
「つ、津田さん! 手が空いているなら貴女も手伝って下さい!」
「んー。あたしは今、お城を維持するので疲れているから、休憩しながら出来る集客にしてもらったと思うんだけど?」
まぁ、津田香から出る名目としてはそんなところだろう。
故に、この生徒は独力でこの事態を解決しなければならない訳だが―相手が悪過ぎる、無理だな。
「さて、津田の道化がつくったこの城を、見定めてやるか。下郎、疾く案内せよ」
オレは今日、何度目かわからないため息をつきながら「入場者2名でお願いします。津田さんの分はいりませんよね」と受付の生徒にそれだけ告げると、反応できない彼に入場料の200円を2人分、受付用の机に置いて歩を進めた。
今回の更新はここまでになります。
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