珍客と道化
「そら、下郎。己を崇め終わったら疾く案内せよ、己は忙しいのだ」
納得できない、と言うように腕を組み、しかめっ面で首を傾げ、触らぬ神に祟りなし、と言いたげに顔を反らして小声でつぶやく。
「えーと、じゃあ……とりあえず、案内させて頂きますね?」
「大儀である。して、己は下々の祭りなるものはよくわからぬのだが、どこから見るべきか、疾く具申せよ」
オレは、形だけしばし考え「自分たちの高校では、在籍している年数で3年、2年、1年と区別されています。ACTは、勉強や運動同様に、基本的には練習した年数が長い方の方が習熟しています。それから、基本的に優秀な成績を修めた者は、数字の小さい組、つまり1組に在籍します。だから」
「なるほど、では1年の1番下の組から見て回るか。下郎、案内せよ」
何故そういう結論になる?!
松平勝康の肩をひっつかんでこちらへ向き直させた上でそう叫びたい衝動をどうにかこらえ、オレは申し訳なさそうに、
「えー、かっちゃんせっかく来てくれたんだからあたしの組の出し物から見て行ってよ!」
背後からかけられた、やたらと明るい調子の声。
煩わしい視線は先程から感じていたが―コイツ、オレを張っていやがったな。
津田香と視線を合わせた松平勝康は、口の端を不気味なほどに吊り上げ、凶相と言って良い面持ちで頷いた。
「津田の道化か。くく、貴様が最も優秀な組に在籍しているとは、この学び舎の力も知れたものよ」
「照れるなぁ、そんな直接的に褒められても」
「照れるな照れるな。貴様が人の言葉を解する能力を持っていないことくらい、先刻承知済み故。何より、貴様の道化っぷりは見ていて反吐が出るからな」
松平勝康の奇態を見た生徒達は遠ざかっていたというのに、不気味な気配をまき散らし始めた彼と、それを意にも介さずに笑い続ける津田香を遠目から見ていた者達に至っては、足が竦んで動けないのか、遠ざかることすら出来ずに青い顔でこちらの様子を伺っている。
……一応、松平に潜入する際に、重要人物である松平勝康の人間関係は一通り頭に叩き込んである。
だが、津田香と松平勝康に面識らしい面識など、無いはず……『特高』ですら把握できぬパイプが、両者にあったのか?
「して、道化の出し物から見ろと貴様は言う訳だな、良かろう。道化の出し物を見た後ならば、童が作った泥団子ですら宝物として愛でられるからな」
「はーい、お客様、1名様ごあんなーい!」
しかし、これを『パイプ』『人脈』と呼ぶには―常人には理解し難い感覚が必要だな。
ニコニコと笑いながら『お客様ご案内♪』と可愛らしい猫を描き込んだ旗を片手に先導する津田香に、名状しがたい表情で後をついていく松平勝康。
秦啓一ならば、こんな時の対応法はほぼ一択。
「あ、じゃあ津田さん。津田さんのお友達の対応は任せ」
「下郎っ! 貴様、この高貴なる己を道化の友と呼ぶか、無礼者!」
「えー、あたし、かっちゃんのことは知っているけど、こんな友達はいらないなぁー」
逃げ出そうとしたオレの右肩を松平勝康がつかみ取り、こちらの左肘を逃さぬよう、背の割に大きな胸を押し当ててキープする津田香。
……やはり、2人の仲はかなり悪そうだな。
しかし、いがみ合っているようには見えるが、互いの罵詈雑言はスルーしている辺り、本当にいがみ合っているのか、いわゆる一つのフェイクなのか……
オレはため息をつきつつ、1組の展示がされているグラウンドに足を向けた。
……なんでこんな話が記念すべき100話目になってしまったのか、と軽く落ち込んでいます……




