珍客2
加藤由利以外の人間がオレを秦啓一であることを信じさせるために、松平の人間を派遣して一芝居打つ、というのは富和田を介して連絡があった。
が、その相手が松平勝康であることなど、マスケラから聞くその時まで全く想像していなかったオレと加藤由利、そしてこの情報をオレから聞いた仰木縁は、内心ではかなり焦った。
「あの……すいません、どちら様、でしょうか?」
公式には松平勝康と初対面であるため、適当に散策している時に校門手前で予期せぬ接触をしてしまった、という体を装うため、オレは差し障りなさそうな問いを投げかけた。
なのにこの男、着物を羽織るだけで腕を通すこともしておらず、加えてその着物は虎の毛皮と思しきもので作られている上、そんな風体には似合わぬ杖をクルクルと振り回しているので、目立つことこの上ない。
松平勝康は振り回していた杖を止めると目を細め、腕を組み、不機嫌そうな声音で問いを放った。
「ほう……貴様、高貴溢れるこの神体を目にしながら、己が誰かわからぬ、とそう申すか下郎」
上に立つ人間としての度量は広く、リライターとしても、その実力に申し分は無いのだが……この傲慢さと、何事も『面白ければ良し』とトラブルですら好んでそうな振る舞いから、こちらの要望通り、オレが『秦啓一』であることを周囲に信じさせるような都合の良い言動をしてくれるとはとても思えない。
現に、松平勝康は威圧感を放ちながらも、その眼はこの状況をオレがどう潜り抜けるのかを愉しんでいるように見える。
……それにしてもこの視線、煩わしいな。
オレはおどおどと『どうしたらいいんだろう?』と挙動不審に見えるよう、それでいて誰かに助けを求めているように他者へ視線を向けるが、オレと目があった生徒は上級生同級生問わず、つい、と視線を外す―それはそうだろう、オレでもそうする。
「まったく、下々の者共の教育はどうなっているのやら……致し方あるまい。かくなる上は、この己自らを教材とし、己の偉大さを下々の者共に刻んでやるとするか。
そこの下郎、喜べ! 貴様は己の栄えある教育の被検体の一人目となったぞ!」
オレは、確かに加藤由利以外の人間が、オレを秦啓一であることを信じさせるために、松平の人間を派遣して一芝居打つよう打診した。
が、こんなバカげた芝居を生徒の前で上演してくれ、と頼んだ覚えはない……口元が引くつきそうになるのをどうにかこらえ、オレは回れ右をし―背を向けた瞬間に襟元を捕まれた。
「ん? 気持ちはわかるぞ、貴様のような見所の無さそうな下郎が、かような幸運に恵まれる訳が無いと現実逃避したくなる気持ちは。しかし喜べ、これは現実よ」
黙れこのバカこんなの現実にするな。
そう言いたくなる口をどうにか抑え、視線だけで射殺さんばかりに怒りを込めて松平勝康を見ると―面白そうに口角を釣り上げているので、間違いなく愉しんでやがる……!




