夏休み
地獄の期末考査もなんとか終わって、いよいよ待望の夏休みがやってくる。
るんるん気分でスキップしながら廊下を歩いてると、妙に辛気くさいオーラをまとった女生徒とすれ違った。見知った顔だった。
「あ、なっちゃんだ。なにお通夜みたいな顔してんの!」
思わず声をかけると、なっちゃんはチラリとこちらを窺って、
「鈴木センパイの頭はいつもハッピーセットでいいですね」
と、のたまってくれた。
いつもながら生意気な下級生である。もちろん反論する。
「あたしだってちゃんと悩みとかあるよ。通知表が返って来たらどうやって誤魔化そうかなとか!」
「ハンッ、そんなことぐらい。こっちは生死がかかってるんですよ!」
「えええっ!?」
目を見開かせたあたしに対し、なっちゃんは拳を握りしめて叫んだ。
「もうすぐ給食が無くなってしまうんですよ! もうどうやってこの夏を乗り切ったらいいのか!!」
……ああ、そういうことか。
貧乏子沢山の安藤家にとって、栄養源の給食が途絶える夏休みは死活問題なのだろう。なっちゃんてばまだ中学生なのに、長女だからってお金の工面に追われてて大変そう……。
あたしはひどく同情した面持ちになりながら、なっちゃんの肩をポンとたたいた。
「ま、せいぜい頑張りな」
「鈴木センパイ、つめたい!!」
……怒られた。
だってなっちゃん一家ってバイタリティ溢れてて、ほっといても何とかなりそうなんだもん。いざとなれば虫でも食べて生き延びるだろう。
でもさすがになんかアドバイスは必要かと思い直して、あたしは言った。
「ならさ、休み期間は友達の家でも渡り歩けば?」
その言葉を聞いたなっちゃんは、憑き物が落ちたような顔をしていた。
妙におとなしくなったなっちゃんに嫌な予感を覚えてたら案の定、夏休みが始まると連日家に押しかけて来て、あたしの受難が始まったのであった。
「鈴木センパイの家って極楽浄土みたいですね。あ、私今日はハンバーグが食べたいです!」
うるさい。カ・エ・レ!!!




