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ざまぁ確定王子に転生してしまった私(女)は、全力で婚約破棄パーティーから逃げることにしました。  作者: 逆立ちハムスター


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「毒殺未遂事件」から数日。

私の生活は、控えめに言って『地獄』と化していた。


「ゼクス殿下、トイレの個室の安全確認クリアリングが完了しました!」

「いや、出てってくれ!」


親衛隊六人による『二十四時間完全密着・鉄壁の警護シフト』

私が廊下を歩けばユリウスとルカが露払いをし、食堂に座ればリヴィアがすべての料理を毒見し、私が寝返りを打つたびにシリルが「殿下の寝返り、右へ四十五度」と記録をつけ、ミアリスが枕元で子守唄(讃美歌)を歌い続ける。

プライバシーは完全に消滅し、私の精神サニティポイントはマイナスを突破して虚無へと至っていた。


(ダメだ……このままでは卒業パーティーの前に、私がストレスで死んでしまう……!)


私はインスペクター室のソファで死んだ目をしながら、ある起死回生の『最終計画』を練っていた。

それは、乙女ゲームの錬金術ルートで登場した危険なアイテム――『仮死の秘薬』を使った、文字通りの命がけの逃亡劇だ。


この薬を飲むと、三日間だけ心肺機能が完全に停止し、魔法的な検査をしても『死体』としか判定されなくなる。

私の計画はこうだ。

薬を飲んで仮死状態になる。悲しみに暮れた親衛隊や王族たちが、私を王家の霊廟(お墓)に安置する。三日後、私がこっそり目を覚まし、霊廟の裏口から抜け出して、そのまま隣国へ高飛び(スローライフ)する!


(ふふふ……我ながら完璧だ。死人になれば、王位継承権もクソもない。彼らもまさか、私が『死』を利用して逃げるとは思うまい!)


私は錬金術の授業の隙を突き、ルカの目を盗んで自作(王家の資産)した『仮死の秘薬』を懐に忍ばせていた。

決行は今夜。私が唯一、彼らの視線から(ドア一枚隔てて)解放される『入浴の時間』だ。


────


その夜。

王立魔法学園の特別VIP用大浴場。

脱衣所の外には六人の親衛隊が殺気を放って待機しているが、中には私一人だ。


(よし……今しかない!)

私は震える手で、小瓶に入った青白い液体を取り出した。

そして、あらかじめ用意しておいた『遺書(という名の引退宣言)』を脱衣所のカゴに置いた。


『――もう疲れました。私は王族としての重圧も、地位も名誉もすべて捨て、一人で土に還る(※農業がしたいの意)ことにします。私のことは忘れて、どうか探さないでください(※絶対に追ってこないでねの意)。ゼクス』


完璧な別れの言葉だ。

私は鼻をつまみ、仮死の秘薬を一気に飲み干した。


「ぐっ……!」

直後、強烈な睡魔と、全身の血が凍りつくような感覚が襲ってきた。

視界が暗転し、床に倒れ込む。

(成功だ……! さあ、皆、私の見事な死体に絶望し、静かに土へ埋めてくれ……!)


私の意識は、そこで完全に途切れた。


……はずだったのだが。

なぜか『聴覚』と『触覚』だけが、薄っすらと残っていた。

(あれ? なんか体の感覚はあるぞ。これ、意識だけ起きてるタイプの金縛り状態か?)


バンッ!!!

『ぜ、ゼクス殿下ァァァッ!!?』

脱衣所の扉が吹き飛ぶ音と共に、ギデオンの鼓膜を破るような悲鳴が聞こえた。


『嘘、嘘ですわよね……? ゼクス様? ゼクス様!!』

リヴィアが私にすがりつき、ガタガタと震えているのがわかる。

『心音がない……! 呼吸も、魔力の脈動すら完全に停止している……! そ、そんな馬鹿な!!』

シリルの絶望に満ちた声。


(よしよし、完璧に死体と誤認しているぞ。さあ、私を霊廟に運ぶんだ)

私が内心でガッツポーズをしていると、ユリウスが私の遺書(引退宣言)を見つけたらしい。


『……みんな、これを見てくれ。兄上の遺した手紙だ』

ユリウスの声が、信じられないものを見るように震えていた。

『もう疲れた。地位も名誉も捨て、土に還る……私のことは忘れて探さないでくれ、と……』


『なっ……!?』

六人が一斉に息を呑む気配がした。

数秒の沈黙の後、シリルがポツリと、恐ろしい推論(勘違い)を口走った。


『……なんという事だ。殿下は、あの時の「水差しの毒」を……我々に隠れて、自らすべて飲み干しておられたのか……!?』

(飲んでない!! あれは床溶かしたろ!!)


『我々が、殿下に頼りきりになり……学園の、いや、この国のすべての重圧を殿下お一人に背負わせてしまったから! 殿下は、我々の罪をすべて被り、自らを犠牲にして【大地の浄化(土に還る)】を行われたというのか!!』

(違う!! 田舎で大根育てたいって意味だよ!!)


『あああ……! 殿下ァァァッ!! ご自身を犠牲にしてまで、我々を……この国を救おうとなさるなんて!!』

ギデオンが床に頭を打ち付けて号泣する。

『……探さないでくれ、ですって? ふざけないでくださいませ。わたくしを置いて一人で逝くなど、絶対に許しませんわ』

リヴィアから、絶対零度の吹雪のような魔力が立ち昇るのがわかった。


『そうです……! 殿下の魂が冥府にあるというなら、私が神の理を捻じ曲げてでも引きずり戻しますっ!!』

ミアリスの声が、かつてないほど狂気に満ちた決意を帯びた。

(……えっ? ちょっと待って。お前ら、何をする気だ?)


『シリル! 儀式の準備を!』

『ルカ、王宮の宝物庫から【蘇生の聖杯】をありったけ持ってこい!』

『ギデオンは殿下の肉体が腐敗しないよう、己の生命力オーラを注ぎ込み続けろ!』

『私は、兄上の心臓を雷魔法(AED)で強制的に叩き起こす!』


(やめろォォォォォォッ!!!)

私は声の出ない体で、心の中で絶叫した。

死体を静かに埋葬してほしいだけなのに、なぜ『神への反逆(蘇生儀式)』が始まろうとしているのか!


バチィィィィィンッ!!!

『がはぁっ!?(痛い痛い痛い!! ユリウスの雷魔法、本気の電圧だこれ!!)』

私の胸に、致死量のスタンガンが押し当てられたような激痛が走る。


『足りません! もっと魔力を! 私の全存在(カンストの光魔法)を懸けて……殿下、戻ってきてぇぇぇぇっ!!』

カァァァァァァァァァッ!!!

ミアリスの放った極大の治癒魔法が、私の全身の細胞を無理やり活性化させ、仮死の秘薬の成分を猛烈な勢いで解毒していく。


『殿下ァ! 私の血肉、寿命、すべてを持っていってください!!』

ギデオンが、なぜか自分の腕を切って私の口に血(オーラ入り)を注ぎ込もうとしている。

(いらない!! お前の暑苦しい命なんかいらないから!!)


六人の常軌を逸した魔力と執念が結集した結果――。

なんと、三日間は絶対に解けないはずの『仮死の秘薬』が、わずか数分で完全に浄化され、私の心臓が「ドクンッ!」と凄まじい音を立てて再稼働してしまった。


「――っぶはぁっ!!!」

私は猛烈に咳き込みながら、ガバッと上体を起こした。


「「「「ゼクス殿下ァァァァァァッ!!!」」」」

六人が、涙と鼻水と鼻血(魔力使いすぎ)でぐちゃぐちゃになった顔で、私に一斉に抱きついてきた。


「ああ、ああ……! 神よ! 奇跡だ!」

「殿下……! もう二度と、我々を置いて逝かないでください……!」

「兄上、お帰りなさい……!」


大浴場の床で六人の狂信者にもみくちゃにされながら、私は完全に虚無の顔になっていた。

逃走計画フェイク・デスは、彼らの異常な愛情と物理的なカンスト魔法によって、木っ端微塵に粉砕されたのだ。


────


翌朝。

私が「一度死んで、自力で(※親衛隊の力だが)冥府から蘇った」という噂は、一夜にして王都全土に知れ渡った。


『ゼクス殿下は、一度自らの命を捧げて世界の罪を浄化し、神の祝福を得て復活された!』

『もはやただの王族ではない! 殿下は【生神様】であられる!』


王立魔法学園の正門前には、私を一目拝もうとする数万人の民衆と貴族たちが押し寄せ、徹夜で祈りを捧げる事態となっていた。

インスペクター室の窓からその光景を見下ろしながら、私は胃薬を箱ごと口に流し込んだ。


「ゼクス様。卒業パーティーでは、王太子としての挨拶ではなく、『教祖としての神託』を民が待ち望んでおりますわ」

リヴィアが、うっとりとした顔で私の肩を揉む。


卒業パーティーまで、あと七日ぐらい。

国外逃亡の夢は完全に断たれ、私は次期国王どころか、国家を統べる『現人神あらひとがみ』という、スローライフから一億光年離れた玉座へと強制的に座らされようとしていた。

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