表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ざまぁ確定王子に転生してしまった私(女)は、全力で婚約破棄パーティーから逃げることにしました。  作者: 逆立ちハムスター


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/21

21

「生神様の復活」から数日が経過し、ついに運命の日は目前に迫っていた。


「ゼクス様! 御御足おみあしが穢れてしまいます! どうか私の背中の上をお歩きください!」

「いや、普通に廊下くらい歩かせてよ! 私、健康な十八歳男子なんだけど!?」


王立魔法学園の廊下。私は今、六人の親衛隊によって『純白の神輿みこし』に乗せられ、文字通り地に足をつけることすら許されない生活を送っていた。

私が息を吐けば「おお、神の息吹が……!」と周囲の生徒たちがひざまずき、私がくしゃみをすれば「風の精霊へのご加護ですね!」と拍手喝采が巻き起こる。


卒業パーティーまで、あと三日。

もはや私が何をしても、すべてが『神の奇跡』に変換されるバグ世界。

だが私にはまだ、最後の手段にして最大のイベントが残されていた。


(乙女ゲームにおけるクライマックス……『卒業パーティーでの断罪イベント』!!)


本来なら王太子(攻略対象)がヒロインを虐げた悪役令嬢(令息)の罪を公の場で暴き、婚約破棄と国外追放を言い渡す大舞台だ。

しかし今、私を断罪してくれる者はこの世界に一人もいない。

ならば――『私が、私自身を断罪すればいい』のだ!


私は神輿の上で、密かに一枚の羊皮紙を握りしめた。

そこには、私がこれまでに行ってきた『真実のクズエピソード』がびっしりと書き込まれている。

学園祭での予算横領未遂、授業中の居眠り(白紙答案)、ただの命乞い(ジャンピング土下座)、そして仕事からの逃亡(仮死の秘薬)


(これらを、全貴族と王族が集まる卒業パーティーの場で、大音量で自白してやる! 「私はこんなに最低なクズ野郎です! だから王太子を辞めさせてください!」と土下座して泣き叫べば、いくらなんでも皆ドン引きして、私を追放してくれるはずだ!)


私はこの『自己断罪セルフ・パージ計画』に最後の希望を懸け、来るべき決戦の夜を待った。


────


そしてついに迎えた『卒業パーティー』当日。

学園の巨大な大講堂は、王宮の大広間すら凌ぐほどの豪華絢爛な装飾で彩られていた。……というより、祭壇やステンドグラスが急造され、もはや完全に『ゼクス教の総本山(大聖堂)』と化していた。


「ゼクス殿下、入場なされます!!」


教頭の厳かな声と共に大扉が開く。

私は純白に金糸の刺繍が施された、教皇のような豪奢な礼服を着せられていた。

私の背後には、ユリウス、ギデオン、シリル、ルカの四人が、それぞれ異なる属性の極大魔力を後背光オーラのように立ち昇らせながら従い、両脇には神聖な乙女のようなドレスを纏ったリヴィアとミアリスが付き添っている。


「おおお……! 我らが生神……!」

「なんて神々しいお姿なんだ……!」

会場を埋め尽くす貴族たち、他国の来賓(バルザック将軍含む)、そして国王陛下までもが、私を見て感涙に咽び泣いている。


(……空気が重い! パーティーじゃなくて宗教のミサよこれ!!)

私は胃の痛みを必死に堪えながら、会場の中央に設けられた高い壇上へと歩みを進めた。

国王陛下がマイクの前に立ち、感極まった声で開会の辞を述べようとする。


(今だ……! ここで私が主導権を握る!)

「父上! 皆様!! 聞いてください!!」

私は国王のマイクを奪い取り、会場全体に響き渡る声で叫んだ。


ざわめきがピタリと止む。

六人の親衛隊も、「殿下のありがたいお言葉が始まるぞ」と目を輝かせて私を見上げた。


私は息を大きく吸い込み、握りしめていた『カンペ(自分の罪状)』を広げた。

「皆は私を英雄だの神だのともてはやしているが……それは大きな間違いだ!! 私は、皆が思っているような高潔な人間ではない!! 今ここで、私の『本当の罪』をすべて告白し、王太子の座を降りる!!」


会場が水を打ったように静まり返る。

(よし! みんな驚いてるぞ!)


「聞くがいい! 学園祭の時、私はルカの商会と結託して、裏金キックバックを受け取ろうとしていた! 期末試験の白紙は、ただサボって寝ていただけだ! 帝国との交渉での土下座は、ただ殺されるのが怖くて命乞いをしただけの卑怯な振る舞い! そして先日の仮死騒動も、面倒な仕事から逃げて田舎でスローライフがしたかったから薬を飲んだだけだ!!」


一気にまくし立てた。

私の、底抜けに浅ましく、自己中心的で、王族としての欠片もないクズエピソードの数々。

「どうだ! これが私の本性だ! 国を導く覚悟など微塵もない、ただの怠け者のクズ王子なんだよ! だから頼む、私を軽蔑して、今すぐ王宮から追放してくれぇぇぇっ!!」


私は壇上で、この世界に来て三度目となる見事な『ジャンピング土下座』をキメた。

ハァ、ハァ、と肩で息をしながら、観衆の反応を待つ。


(さあ……怒号を浴びせろ! 「騙された!」「恥を知れ!」と罵声を浴びせて、私から王冠を剥ぎ取ってくれ!)


数秒の恐ろしいほどの沈黙。

そして、その沈黙を破ったのは――またしても、生徒会長シリルの冷徹かつ『致命的な勘違い』に満ちた声だった。


「……皆様。お聞きになりましたか」

シリルは眼鏡を外し、ボロボロと大粒の涙をこぼしながら天を仰いだ。

「殿下は……我々の罪を、己の罪として被ろうとしておられる……!!」


(は?)


「商会との裏金? いいえ、あれは腐敗した経済システムを浮き彫りにするための劇薬でした! 試験の白紙? 学力偏重の教育への警鐘です! 土下座? 一滴の血も流さないための究極の平和外交! そして逃亡? 殿下は我々の自立を促すため、あえて『自分は無能である』という偶像を演じ切ろうとなさっているのです!!」

シリルが絶叫する。


「ああ……兄上……! どこまでご自身を犠牲にすれば気が済むのですか!」

ユリウスが雷の涙を流す。

「ゼクス様! わたくしたちの前で悪役を演じるのは、もうおやめください! あなたの深く海のような愛は、すでに世界中が知っているのですから!!」

リヴィアが壇上に駆け上がり、土下座している私を抱き起こす。


「そ、そうです! 殿下は本当は誰よりも国を愛しているのに、その重圧を一人で抱え込んで……っ!」

ミアリスが号泣し、ギデオンが大剣を掲げて「殿下ァァァッ!!」と雄叫びを上げる。ルカまでもが「俺たち、一生殿下の財布になりますからぁっ!」と泣き崩れている。


(違う!! なんでそうなるの!? 私、今の100%純粋な自白だったんだけど!? 国語の読解力どうなってんのこの世界!!)


私がパニックで言葉を失っていると、国王陛下がハンカチで顔を覆いながら、私の前に進み出た。


「ゼクスよ……。己の身を汚してでも、この愚かな世界を導こうとするその覚悟……父は、お前を誇りに思う」

「いや、父上、話を聞いて……」

「皆の者!! 聞くが良い!!」

国王が、マイクを通じて会場全域――いや、王都全域に響き渡る声で宣言した。


「わしは今日、この時をもって王位を退く! そして、己の罪を偽り、民の罪を背負ったこの聖なる息子、ゼクス・ヴァンドル・ランストレイルに、王冠と、そしてこの国のすべてを譲り渡す!!」


「「「「うおおおおおおおおおおっ!!!」」」」

「ゼクス新王陛下、万歳!!」

「生神様、万歳!! 我らがメシア!!」


大講堂が、爆発したような歓声と拍手、そして祈りの声に包まれた。

バルザック将軍ら他国の来賓までが「帝国はゼクス帝に永遠の忠誠を誓うぞー!」と叫びながら土下座している。

天井からは、ルカの手配した大量の白鳩(平和の象徴)と薔薇の花びらが降り注ぎ、ミアリスとユリウスの光と雷の魔法が、神々しいイルミネーションとなって私を照らし出していた。


「おめでとうございます、ゼクス様。いえ……ゼクス陛下」

リヴィアが、私の頭に重々しい王冠をそっと乗せた。

六人の親衛隊が、私の前にひざまずき、狂信的な瞳で私を見上げている。


「……」

私は、頭上の王冠の恐ろしい重みと、数千人の信者(臣民)たちの熱狂を前に、完全に自我が崩壊する音を聞いた。


スローライフ(田舎でのんびり農業)を目指した悪役令息の逃走劇。

彼がすべてを投げ打って辿り着いた先は、断罪のギロチンでも、辺境の農村でもなく。


武力カンストの狂信者たちに囲まれ、隣国を属国にし、民衆から神として崇められる『大陸統一国家の神聖皇帝(絶対神)』という、前代未聞の玉座であった。


私の胃痛と終わらない書類仕事ペーパーワークの戦いは――ここからが本当の地獄スタートである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
とっても面白かったです! 文章もありきたりなものではなく、ユーモアかつ文学的で、読んでいてとても勉強になりました。 内容も、主人公のてんわやんわさが癖になりました。 勘違いされている時の心情が面白か…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ