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ざまぁ確定王子に転生してしまった私(女)は、全力で婚約破棄パーティーから逃げることにしました。  作者: 逆立ちハムスター


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期末試験の『白紙殿堂入り事件』により、私の学園内での地位はもはやアンタッチャブルな神の領域に達していた。


「ゼクス殿下、本日の歩数は三千歩です。素晴らしい大地との対話ですね!」

「殿下の呼吸のペースに合わせて、学園内の風の魔力濃度を調整しておきましたわ」


(……怖い。私の呼吸回数まで数えられてるのが本当に怖い)

インスペクター室の豪華なソファで、私は冷や汗を流しながらミントティー(毒見済み・温度管理完璧)を啜っていた。


卒業パーティーまで、あと三十日。

乙女ゲームの本来のシナリオであれば、卒業パーティーの場で悪役は数々の悪事を断罪され、追放される。

しかし現状、私が何かをやらかそうとしても、優秀すぎる狂信者(親衛隊)たちがすべて『崇高な哲学』や『自己犠牲の美談』にすり替えてしまう。このままでは断罪どころか、卒業と同時に「救国の英雄」として王位を強制的に継がされる未来しか見えない。


(受動的に待っていてはダメだ。彼らに裏をかかれない、絶対確実な手段でスローライフを手に入れるしかない……!)


私は決断した。

『夜逃げ』である。

卒業パーティーの夜、皆が浮かれている隙を突いて王都から姿を消し、辺境の地でこっそり戸籍を偽って暮らす。これしかない!


しかし、私一人で逃亡の準備をするのは不可能だ。少しでも不審な動きをすれば、背後霊のように張り付いている六人に即座に察知されてしまう。

ならば――あえて彼らを利用する!

『極秘の任務』という名目で彼らに準備を丸投げし、完成した逃亡セットを奪って一人でトンズラするのだ!


私は六人を執務室に集め、わざと部屋の明かりを落とし、極めて深刻な声で切り出した。

「皆。今日は、君たちにしか頼めない『極秘の計画』について話がある。卒業パーティーの日……私は『動く』つもりだ」

「「「!!」」」

六人の顔つきが、一瞬にしてプロの暗殺者のように引き締まった。


「ルカ。君の商会の力で、『乗り物』を用意してほしい。王宮の目から逃れられ、長期間の居住に耐えうる、頑丈で特別な車室だ」

(意訳:キャンピングカーが欲しい)

「……承知しました。殿下の『真意』、しかと受け止めました」

ルカが、ゴクリと唾を飲み込んで深く頷く。


「シリル。君には『土地』を確保してもらいたい。王都から最も遠く、政治の目も届かない、誰も寄り付かない最果ての地だ」

(意訳:田舎の安い農地が欲しい)

「……なるほど。あえて『空白地帯』を拠点とするのですね。手配いたします」

シリルが眼鏡をギラリと光らせる。


「ギデオン、ユリウス。二人は『生存のための道具』を集めてくれ。万が一の時に身を守り、切り開くための力だ」

(意訳:薪割りの斧と護身用のナイフが欲しい)

「ハッ! 殿下の御剣として、最高の『牙』を揃えてご覧に入れます!」

「兄上の敵は、私がすべて焼き尽くすための準備ですね。お任せを」


「リヴィア、ミアリス。君たちは『エネルギーと物資』だ。寒さを凌ぐための熱源と、長期間引きこもれるだけの保存食を頼む」

(意訳:冬用の魔石ストーブと、干し肉とか缶詰をよろしく)

「ゼクス様と過ごすための愛の巣(拠点)の備蓄……! わたくし、公爵家の財を投げ打ってでも集めますわ!」

「殿下の胃袋は、私が絶対に守り抜きますっ!」


「よし。誰にも知られるなよ。すべては、我々の輝かしい『自由』のためだ」

私は悪のカリスマっぽく笑い、計画は完璧に始動した。

(ふふふ……これで私の快適なキャンピングカー生活スローライフの準備は整ったも同然!)


────


そして、一週間後。

「ゼクス殿下。ご要望の品、すべて手配が完了いたしました」

シリルの案内で、私は学園の地下深く――かつて使われていたという、巨大な隠し地下格納庫へと連れてこられた。


「おお、早いな! で、私の乗りキャンピングカーは……」

私がワクワクしながら視線を向けた先には。


「ご覧ください! ヴァレンティノ商会の全ネットワークと裏ルートを駆使し、古代魔法帝国の設計図から復元した、『超重装甲・魔導殲滅陸上戦艦ベヒーモス』ッス!!」

ルカがドヤ顔で指差したのは、キャンピングカーなどというチャチなものではなかった。

全長三十メートル。黒光りするミスリルとアダマンタイトの複合装甲で覆われ、主砲らしき巨大な魔力砲塔をいくつも備えた、どう見ても『ラスボスが乗る移動要塞』だった。


「…………は?」

「シリル先輩と連携して、目的地へのルートも完璧です! 殿下がご指定された『誰も寄り付かない最果ての地』――すなわち、かつて魔王が封印された不可侵領域『絶望の荒野』の権利書を、ダミー会社を経由して買い占めました!」

(なんでそんな魔界の入り口みたいな土地買ったの!? 私、そこで大根とか育てたいんだけど!?)


「兄上。この要塞の弾薬庫に、王家が秘匿していた『禁忌の魔導書』と『戦略級爆発魔法のスクロール』を山ほど詰め込んでおきました。いつでも王都を火の海にできます」

ユリウスが、物騒すぎる笑みを浮かべる。

「殿下! 白兵戦に備え、私が魔の森の深部から『呪われた魔剣』を百振りほど掘り出してまいりました! 我ら親衛部隊の武装は完璧です!!」

ギデオンが、禍々しいオーラを放つ剣を掲げて咆哮する。

(サバイバルナイフでいいって言ったよね!? なんで呪われちゃってんの!?)


「ゼクス様♡ 熱源として、国宝である『紅蓮竜の心臓(永久機関)』を公爵家の権力で横流ししておきましたわ。これで要塞の動力と暖房は千年は持ちます」

「私、保存食として『食べると筋力が百倍になるオークの秘薬』を大量に錬成しました! これでみんなで不眠不休で戦えますねっ!」


(…………)

私は、黒光りする移動要塞の前で、完全に言葉を失っていた。


「ゼクス殿下」

シリルが、感極まった様子で私の前に歩み寄り、深く一礼した。

「殿下の『極秘の計画』……我々も最初は震えました。まさか、卒業パーティーの夜という、王族と腐敗貴族が一堂に会するタイミングを狙い、『王都全域に対する武装クーデター(武力革命)』を企てておられたとは」


「……えっ」


「既存のシステムに見切りをつけ、この圧倒的な暴力(移動要塞)で王宮を物理的に制圧し、魔王の跡地という聖域から『新たな理想国』を建国する。……殿下のその凄まじい覇道、我々六人、命に代えてもお供いたします!!」

「「「我らがゼクスに、永遠の忠誠を!!」」」

薄暗い地下格納庫に、六人の狂気と熱狂に満ちた叫びがこだました。


(違うぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!)

私は心の中で血の涙を流して絶叫した。


ただの『夜逃げ』が! 農地とキャンピングカーを買うだけのお使いが!

なぜ、王家に対する『ガチの武力クーデター計画』にすり替わっているんだ!!

しかも、用意された武器や戦艦のクオリティが高すぎて、本当に王都を一日で更地にできそうなのが一番ヤバい!


「さあ、殿下! あとは卒業パーティーの夜、殿下の号令で主砲を王城にぶち込むだけです!」

ルカが目をキラキラさせてスイッチに手をかけようとする。


「ま、待て! 早まるな!!」

私は慌ててルカの手を掴み、必死に頭を回転させた。

「クーデターというのは……そう、あくまで『最終手段』だ! これを軽々しく使っては、民に犠牲が出る! 私の美学(平和主義)に反するから、今はまだ……この要塞は封印しておくんだ! いいね!?」


私が苦し紛れの言い訳を放つと、六人はハッと息を呑み、再び感動の涙を流し始めた。

「おお……ここまでの武力を手にしてなお、民の血を流すことを良しとしない殿下の慈悲深さ……!」

「なんて重い覚悟なんだ……! 我々はまたしても殿下の高次元の哲学を読み違えていた……!」


(よし、ごまかせた……!)

私はその場にへたり込みそうになるのを必死に堪えながら、ミアリスの筋力増強保存食(不味い)と一緒に、特大の胃薬を飲み込んだ。


卒業パーティーまで、あと二十三日。

スローライフへの逃走用の足は『国家反逆用の超兵器』へと姿を変え、私の首には「いつでも国を滅ぼせるテロリストのリーダー」という、取り返しのつかない爆弾が括り付けられてしまったのである。

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