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ざまぁ確定王子に転生してしまった私(女)は、全力で婚約破棄パーティーから逃げることにしました。  作者: 逆立ちハムスター


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王宮から学園へ戻った翌日。

私は学園指定の豪奢な制服の左腕に、輝かしい『インスペクター(不正摘発官)』の黄金の腕章を巻かれ、重い足取りで廊下を歩いていた。


「ゼクス殿下だ……インスペクターの権限を持たれたらしいぞ」

「す、隙を見せるな。少しでも校則に違反したら、その場で処刑されるかもしれない……!」


(いや、処刑って何!? 私をなんだと思ってるの!?)

すれ違う生徒たちは皆、私を見るなり壁に張り付き、息を潜めて最敬礼をする。もはや学園のアイドルを通り越し、歩く恐怖の大王のような扱いだ。

それもそのはずである。

私の周囲には、今日も今日とて『ゼクス殿下親衛隊(過激派)』の四人が、それぞれ致死量の殺気を振り撒きながら付き従っているのだから。


「ゼクス様。あそこで談笑している男子生徒たち、声が大きくて殿下のお耳障りですわね。氷像にして中庭に飾っておきましょうか?」

「兄上、ご安心を。もし彼らが兄上に一瞥でも不敬な視線を向けたら、私の雷で一瞬にして消し炭にして差し上げます」

「あ、あのっ、殿下が歩く前の床を、私が浄化魔法でピカピカにしておきますね!」

「退けェェッ!! 殿下の御前を歩くなど万死に値する!! 道を開けろォォッ!!」


(これ、役割逆転してない!? 破滅フラグが移ったの!?)

私は内心で叫びながら、ズキズキと痛む胃をさすった。

インスペクターに任命されたからといって、私が真面目に働くはずがない。狙うは『事なかれ主義』と『名ばかり管理職』である。

適当に書類にハンコを押し、虚無って現場のトラブルには一切関わらず、「いやー、最近の若者は元気があっていいね」と笑ってお茶を濁す。それが、私の目指す究極のサボり(スローライフの練習)だ。もうこうなったら、ここでダラダラと過ごすbプランの土台もこなしておく必要があるかもしれない。


しかし現実は非情である。

インスペクター就任初日、さっそく私の元に一件の告発状が届いていた。


『第二魔法実技室にて、マクシミリアン伯爵令息のグループが、平民出身の生徒に対し、不当な魔法の的当て(いじめ)を行っている』


(……出たよ、乙女ゲーム定番の貴族による平民いじめイベント)

本来のシナリオなら、ここでいじめられているのはヒロインのミアリスであり、彼女を助けるために攻略対象が駆けつけるという王道展開のはずだ。

しかし、ミアリスは今、私の背後で「殿下のお茶に浮かべるミントの葉はどれがいいかなぁ♡」と呑気に頭の中でハーブを選別している。シナリオが完全にぐちゃ崩壊した結果、名もなきモブ生徒が被害を被っているらしい。もはやカオスだ。修正するというレベルですらない。


「ゼクス様。このような下劣な輩の相手など、殿下が自ら赴く必要はありませんわ」

告発状を覗き込んだリヴィアが、不快そうに眉をひそめる。

「兄上。このマクシミリアンとかいう小悪党、私が跡形もなく吹き飛ばしてきましょう」

ユリウスが杖を握りしめ、危険な笑みを浮かべた。

「い、いじめはよくないです! 殿下、私が注意してきます!」

「殿下の御手を煩わせるなど言語道断! このギデオンが、奴らを叩き斬って連行してまいります!」


(君たちに任せたら、傷害事件(あるいは殺人事件)に発展する未来しか見えないんだけど!!)

私は慌てて四人を制止した。

「待て待て待て! 皆、落ち着いてくれ。インスペクターの仕事は、武力で制圧することじゃない。あくまで『適切な指導』と『再発防止』だ」

前世で、部下のパワハラ問題に対処した時のマニュアルを思い出す。

「いきなり暴力に訴えれば、相手も反発する。ここは私が一人で実技室へ行き、言葉で優しく諭して、円満に解決しようと思う。だから皆は、ここで待っていてくれ」


(よし。適当にマクシミリアンに「コラッ」と注意して、反省文でも書かせて終わらせよう。それで私の初仕事は完了だ)

私は彼らをインスペクター専用の執務室に残し、一人で第二魔法実技室へと向かった。

「「「…………」」」

残された四人が、私の背中を見送りながら、何か不穏なアイコンタクトを交わしていたことには全く気づかずに。


────


第二魔法実技室の扉を開けると、そこには案の定、不快な光景が広がっていた。

「ぎゃははは! どうした平民! 俺の『火球ファイヤーボール』が避けられないのか?」

「ひぃっ、お、お許しください……!」

金髪をオールバックにした派手な男――マクシミリアン伯爵令息が、取り巻きの生徒たちと共に、一人の小柄な男子生徒を壁際に追い詰めて、小さな火の魔法を次々と投げつけて遊んでいた。

(うわぁ、典型的な三下悪役。よし、サクッと注意して終わらせよう)


「エッヘン、オッホン! おい、君たち。そこまでに……」

私が声をかけようと一歩踏み出した、その瞬間だった。


ドゴォンッ!!!


突然、実技室の天井がすさまじい轟音と共に吹き飛び、青空から四つの影が降ってきた。

「えっ」

私が呆然とする中、天井の穴から舞い降りてきたのは――。


「ゼクス様の慈悲深きお心に泥を塗る、汚らわしい害虫ども」

絶対零度の冷気を纏い、実技室の床を一瞬で氷のスケートリンクに変えたリヴィア。


「兄上が直接言葉をかける価値すらない、身の程知らずの愚か者め」

雷鳴と共に着地し、マクシミリアンの取り巻きたちを紫電で壁にはりつけにしたユリウス。


「平民をいじめるなんて、殿下の名に傷がつきますっ! 『天罰のホーリー・ジャッジメント』!!」

治癒魔法の使い手であるはずが、なぜか極太のレーザーのような光魔法を放ち、マクシミリアンの足元を黒焦げにしたミアリス。


「殿下の御前であるぞ!! 貴様ら、全員腹を切れェェェッ!!」

そして、大剣を振り回しながら、完全にバーサーカーと化したギデオン。


「「「ぎゃああああああああッ!!?」」」

数秒前までイキり散らしていたマクシミリアンと取り巻きたちは、突如現れた『理不尽な天災(レベルカンスト勢)』の前に、悲鳴を上げる間もなく蹂躙されていった。


「ちょ、ちょっと待って!? 皆、待ってろって言ったよね!?」

私がパニックになって叫ぶと、リヴィアが氷の扇で口元を隠し、優雅に微笑んだ。

「ゼクス様。殿下は『言葉で優しく諭す』と仰いました。ですが、このような下等な輩は、言葉など理解できません。殿下のお手を煩わせる前に、わたくしたちで『物理的な再発防止策』を施しておきましたわ」


「そうです兄上。彼らは今、骨の髄まで『兄上には逆らえない』という恐怖を刻み込まれました。これぞ最も効率的な指導(支配)です」

ユリウスが、白目を剥いて気絶しているマクシミリアンの胸ぐらを掴んでドヤ顔をする。


「私、いじめっ子は許せません! 殿下の清らかな学園生活を守るためなら、なんだってします!」

ミアリスが、なぜか光の魔法で物理的なメリケンサックを錬成しながら鼻息を荒くしている。


「殿下! 私が奴らの実家(伯爵領)まで出向き、一族郎党すべてを討ち果たしてまいりましょうか!?」

ギデオンに至っては、もはやただの過激派テロリストである。


(ダメだこのチーム!! 圧倒的な武力と権力を持った狂信者の集まりだ!!)

私は頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。

「ち、違うんだ……私はただ、話し合いで……穏便に……」


その時、いじめられていた平民の男子生徒が、震える足で立ち上がり、私に向かって深く、深く土下座をした。

「ゼ、ゼクス殿下……! まさか、殿下が自ら、そしてこれほど強力な側近の方々を率いて、私のような平民を救いに来てくださるなんて……!」

「え? あ、いや、これは……」

「殿下のご恩、一生忘れません! 私は今日から、殿下のためにこの命を捧げます!!」

(うわあああ! また新興宗教の信者が増えたぁぁぁ!)


騒ぎを聞きつけた教官たちが実技室に駆け込んできた時には、事態は完全に終結していた。

天井が吹き飛び、氷と雷の痕跡が残る室内で、白目を剥いて倒れる貴族生徒たち。そして、その中央で平民の生徒から神のように崇められている私。


「お、おお……ゼクス殿下! 就任初日にして、さっそく学園の腐敗をこの凄まじい力で一掃されるとは……! なんと徹底した正義の執行!」

教官が感動の涙を流しながら拍手を送る。


「違う、これは事故だ! 私の指示じゃない!」

私の悲痛な弁明は、側近たちのドヤ顔と教官の歓喜の声にかき消されてしまった。


結局、その日のうちに「ゼクス殿下は、平民を守るためなら貴族であっても容赦なく鉄槌を下す、真の平等主義者であり絶対的な法の番人」という伝説が学園中に広まってしまった。

私が求めていた『事なかれ主義の監査官』のイメージは完全に崩壊し、学園の不良生徒たちは私の影を見るだけで震え上がるようになった。


「ゼクス様。明日はどの不届き者を粛清なさいますか?」

「兄上、私の雷はいつでも放てますよ」

「殿下、お弁当作ってきました!」

「殿下の敵は、私がすべて斬り捨てます!!」


もはや『スローライフ』という概念すら辞書から消え去りそうな絶望の中、私は暴走する絶対正義(過激派)の手綱をどう握るべきか、必死に前世のマネジメント本の内容を思い出そうとしていた。

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