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ざまぁ確定王子に転生してしまった私(女)は、全力で婚約破棄パーティーから逃げることにしました。  作者: 逆立ちハムスター


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魔の森での野営演習から数日後。

王立魔法学園の様相は、私にとって完全に『地獄のテーマパーク』と化していた。


「キャーッ! ゼクス殿下よ!」

「森の凶悪な魔物を単身で討ち果たした、美しき英雄……!」

「あんなに冷酷だったのに、実は仲間想いだったなんて……ギャップ萌えがすぎるわ!」


私が廊下を歩くたびに、女子生徒たちの黄色い歓声が飛び交い、男子生徒たちからは尊敬と畏怖の入り混じった視線が向けられる。

かつて「傲慢で嫌味なクズ王子」として遠巻きにされていた頃の平和な日々は、完全に過去のものとなってしまった。


(違う、そうじゃないのよ。私はただ、ひっそりと目立たずに生きていきたいだけなのに……!)

前世で、会社の忘年会の余興でうっかり本気を出してしまい、翌日から「宴会部長」という不本意なレッテルを貼られた時のトラウマが蘇る。目立てば目立つほど、責任と仕事フラグが雪だるま式に増えていくのがこの世の理だ。異世界でも変わらないらしい。


さらに私の胃を痛めつけているのが、側近たちによる『ゼクス様第一主義・派閥抗争』の激化である。


「ゼクス様。本日はわたくしが、殿下の隣を歩く権利を獲得いたしましたわ」

右隣には、私の腕にしっかりと絡みつくリヴィア。

「リヴィア公爵令嬢。兄上の左側は、弟であるこの私が死守します。兄上の護衛は私一人で十分ですからね」

左隣には、杖を構えながら周囲を威嚇するユリウス。

「あ、あのっ、私は殿下の少し後ろからついていきますね! いつでもお茶を淹れられるように準備してますから!」

背後には、健気にすり鉢でハーブをすり潰しながら歩くミアリス。


そして――。

「そこを退け、有象無象ども!! 殿下の御前であるぞ!!」

私たちの数メートル前方を歩き、モーゼの十戒のごとく生徒たちを蹴散らして道を作っているのが、完全に『狂信的な忠犬』へとジョブチェンジしたギデオンだ。


(……大名行列かな? 恥ずかしすぎて死にそう)

三人のガチ恋勢と、一人の過激派ファン。

彼らは私を神格化する点においてのみ一致団結しているが、いかにして私のお世話をするか(独占するか)については日々血みどろの暗闘を繰り広げていた。昨日など、誰が私のマントをクリーニングに出すかで、学園の中庭が半壊しかけたほどだ。


そんな胃痛の絶えない日常を送っていた私に、ついに『運命の通達』が下された。


「――ゼクス・ヴァンドル・ランストレイル第一王子。国王陛下より、直々の召喚であらせられる!」


王宮から遣わされた使者の言葉に、廊下がどよめいた。

「国王陛下が直々に!?」

「きっと、魔の森での英雄的行為に対する表彰に違いないわ!」

周囲の生徒たちが勝手な期待を膨らませる中、私は内心でガッツポーズをキメていた。


(キタキタキタァ!! これだ、このチャンスを待っていたのよ!!)

国王――つまり、ゼクスの父親からの呼び出し。

本来の乙女ゲームのシナリオであれば、ここはゼクスが数々の悪行(ヒロインいじめや、弟へのパワハラ)を咎められ、王位継承権を剥奪されるという『廃嫡イベント』の舞台である。

現状、私の評価はなぜかウナギ登りだが、直接王の前に出るのなら話は別だ。

(ここで私が、国王に向かって「王位なんて興味ないっすわー。田舎でスローライフしたいんで、さっさと弟に譲りまーす」とふざけた態度をとれば、厳格な国王は激怒して私を追い出してくれるはず!)


私は完璧な『ダメ人間アピール』の台本を脳内で組み立てながら、意気揚々と王宮へ向かう馬車に乗り込んだ。

……もちろん、私を一人にするはずがない四人の側近たちも、当然のように馬車に同乗してきたわけだが。


────


王宮の最奥、『王の間』

大理石の床に赤い絨毯が敷かれ、豪奢な玉座には、鋭い眼光と豊かな金糸の髭を蓄えた屈強な男――現国王、レオンハルト・ランストレイルが腰を下ろしていた。

その威圧感は、前世で私が仕えていたワンマン社長すら赤子に見えるほどだ。


「よく来たな、ゼクスよ。そして、息子の学びを支える若き才媛たちも」

国王の重々しい声が響く。

私は王の前に進み出ると、わざとらしく、そして最高に「舐め腐った態度」で片膝をついた。あえて姿勢を崩し、退屈そうに欠伸を一つ噛み殺す。

(さあ、怒れ! 「なんたる不敬!」と怒鳴り飛ばしてくれ!)


「……ゼクスよ。学園からの報告は受けている。魔の森での演習中、単身で瘴気の元凶を絶ったそうだな。かつての怠惰な姿から一変、素晴らしい成長ぶりだ。父として、そして王として鼻が高いぞ」

王は満足げに頷いた。

「いえいえ、父上(陛下)」

私は立ち上がり、ふんぞり返るようにして言い放った。

「勘違いしないでいただきたい。私はただ、自分の眠りを邪魔されたくなくて、うるさい魔物を片付けただけです。あんな面倒な国事や討伐など、本来ならまっぴらごめんですよ」


周囲の文官たちが「ひっ」と息を呑む。

王に向かっての明白な不敬発言。これぞ、完璧なクズ王子ムーブ!

「私は王位などという窮屈な椅子には微塵も興味がありません! 次期国王の座は、優秀なユリウスにくれてやりますよ。私は、そうですね……王家の財産をたんまりもらって、空気の綺麗な辺境で、畑でも耕しながら毎日ダラダラと生きていきたいんです! だから、今すぐ私を廃嫡してください!」


言い切った!

王族の義務を放棄し、金だけを要求する最悪の宣言。

さあ、私を勘当して、辺境のスローライフへと送り出してくれ!


「…………」

王の間に、重く冷たい沈黙が降りた。

国王の顔から表情が消え、その瞳が鋭く細められる。

(よしよし、呆れてる。完全に呆れ果ててるわ!)


しかし。

私が勝利を確信した次の瞬間。


「――お待ちください、陛下!!」

背後から、悲痛な叫び声と共に飛び出してきたのは、私の忠犬ギデオンだった。

「ギデオン!? お前、急に何を……!?」

「殿下! これ以上、ご自身を偽って悪ぶるのはおやめください! 私の胸が張り裂けそうです!」

ギデオンは玉座の前にひれ伏し、涙ながらに国王へと訴えかけた。

「陛下! ゼクス殿下は、ご自身の才覚が周囲に妬みや権力闘争を生むことを危惧しておられるのです! あえて『王位に興味がない愚か者』を演じることで、水面下で蠢く腐敗貴族たちを油断させ、国の膿を出し切ろうとされているのです!!」

(ちょっとやめて! 私、思春期の痛い子みたいになってるじゃん)


「その通りです、陛下」

すかさずユリウスが一歩前に出た。

「兄上は、私に王位を譲ると公言することで、私に取り入ろうとする派閥の動きを炙り出そうとされているのです。なんと深く、恐ろしいほどの深謀遠慮……。私など、兄上の足元にも及びません」

(いや、ただ本当に譲りたいだけなんだけど!?)


「ええ。ゼクス様は、辺境の領地へ赴くとも仰いました。それは単なる隠居ではありません」

リヴィアが優雅にカーテシーを行い、艶やかな笑みを浮かべる。

「王都から離れた辺境の防衛線を自ら視察し、諸外国の動きを最前線で監視するという、文字通りの『捨て身の国防』を意味しているのですわ。すべては、愛するこの国を守るため……!」

(そんな過酷な任務、死んでもごめんよ!! 畑でトマトでも育てたいだけよ!)


「で、殿下は……いつだって、自分を犠牲にして皆を助けてくれるんです……っ。だから、殿下を悪く言わないでください……っ!」

ミアリスまでもが、涙目で国王に向かって懇願する。


(お前らァァァァッ!! なんでこの絶好のタイミングで、私のプレゼンを完全論破するの!?)


王の間にいるすべての文官、近衛騎士たちが、四人の熱弁を聞いて「おお……」「なんという気高き王子……」「我々は殿下を誤解していたのだ……」と、次々に感動の涙を流し始めた。


「……そうか。そういうことであったか、ゼクスよ」

国王レオンハルトは、玉座からゆっくりと立ち上がり、私に向かって歩み寄ってきた。

そして、その分厚く温かい手で、私の両肩をガシッと掴んだ。

「すまなかった、息子よ。お前がそこまで深く国の未来を憂い、泥を被る覚悟を決めていたとは……父は気づけなかった」

国王の目にも、光るものがあった。

「ち、違います父上! 彼らのイカれた妄想です! 私は本当にただサボりたいだけで――」


「もうよい。これ以上、孤独なピエロを演じる必要はない」

王は私の言葉を遮り、万感の思いを込めて宣言した。

「ゼクス。お前のその覚悟と手腕、見事である。お前の望み通り、一部の特権を譲渡しよう。辺境の視察、そして学園内における『不正摘発の特権インスペクター』の権限を、今この場でお前に授ける!!」

「ふにゅ!?」


「王位継承権第一位の座は、もちろん据え置きだ。むしろ、これからは私の右腕として、より一層国政に関与してもらうぞ。期待している、我が誇り高き息子よ!」

ワーッ!! と、王の間に割れんばかりの拍手が巻き起こった。


(ウソでしょ……)

私は、国王から渡された『不正摘発の特権インスペクター』を示す黄金のメダルを握りしめたまま、白く燃え尽きていた。

廃嫡されるどころか、学園内の警察権力トップという、死ぬほど面倒くさそうな役職まで強引に押し付けられてしまった。


「おめでとうございます、兄上!」

「ゼクス様、ますますのご活躍を期待しておりますわ♡」

「殿下、私がお手伝いしますからねっ!」

「このギデオン、殿下の剣として、不正を働く輩は一人残らず斬り捨ててご覧に入れます!!」

私を完全に包囲した四人が、キラキラと輝く笑顔で私を祝福する。


(誰か、嘘だと言って……。私のスローライフが、国政のど真ん中に引きずり込まれていく……!)


私の破滅フラグは消滅するどころか、もはやフラグという概念するら失い、『次期国王としての過労死フラグ』という、全く別の形へと進化を遂げようとしていた。

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