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出発

「ケイ・ウィンター様。我らをお使いください」

「うむ! よろしく頼む!」


 学院の外に集いし我ら学生に、本格行軍に参加する兵士が合流する。俺に挨拶してくれた、男性十名。平均年齢三十代前後の兵士もそのうちの一部だ。

 俺ら前線指揮官組は兵士を。上流階級は俺ら現場組全員を指揮しながら、目的地に移動するのである。


「本格行軍練習に選抜された兵は、皆が武勇と忠義に溢れた兵と聞いている!」


 ついでにヨイショしておこう。

 彼ら兵士達は目的地の貴族領に所属しており、道案内と俺らの護衛も兼ねた存在だ。

 そんな者達の機嫌を損ねても百害あって一利なし。挨拶と賞賛は人間関係を円滑にする大事な手段!


「ありがとうございます」


 ほらね。坊ちゃんのお世辞だろうと貴族が端に連なる俺が称賛したことで、兵の皆様方は満更でもない表情を浮かべている。

 実際、貴族子弟との関係をしくじったら面倒になるのが分かりきっているため、この練習に参加する兵士たちは選び抜かれた存在だ。王都で胡坐をかいてた王都騎士団とは天と地ほども違う。


 なおここで俺は、馴れ馴れしい態度やいつもの調子をすることができない。

 指揮官たるもの考えることはしていいが、悩む姿を見せてはならないのと同じで、きっちりした上位者としての振る舞いをしないと、いざという時に兵士が誰を頼ればいいか分からなくなる。

 しかし偉そうにしすぎると兵士が委縮してしまうので、そこら辺の調整を完璧に行えるのが、名将と呼ばれるような人間なのだろう。


「現地への道中にある難所のことを教えてほしい。勿論、行く前に学院で教えられているが、実体験を伴う言葉が必要だ」

「はっ。まずは霜の道と呼ばれる場所があります。ここは言葉通り気温が低くなりやすい場所で、所々足が滑りやすくなっています」


 やはりコミュニケーション。コミュニケーションは起承転結全ての場面で必要。


 ちなみに他の殆どのグループには、一名の女性が混ざっている。

 またか! またシモの話だろ! 事前に女性同行者の確認を取られたので、必要ないと拒否したが、これがエロゲーなる世界の選択なのか⁉


 訓練仲間意識に接続した状態でレアさんをちらりと見たら、ひょっとして私との関係があるから、我慢させてる……? と後ろ向きな感情を抱いてる気がする。

 いやまあ、婚前にそんなこと出来るかという気持ちはありますけど、王都行軍でもこんな感じだったので大丈夫っすよ。

 流石は公爵家の御令嬢というか、多分、愛人とかそんな関係が当たり前の環境で育ったために、男に対する理解があり過ぎる。


 ってな訳で一瞬視線を合わせ、普段から俺はこうじゃないっすか。的な念を送る。むむむむむむ!

 通じた!

 気がする!


 む⁉

 はにかんだレアさんが視線を逸らした。

 なんか別の念に変換されてねえか? まあいいや。あの人、本当に乙女で可愛い。


 さて……大事なことを聞こうか。


「ひょっとしてロジャー兄上かイライジャ兄上も担当した者がいないかな?」

「自分がそうです」

「見ての通り常人だから、道を大岩が塞いでいたらどうすることもできない。あの兄二人の弟だから、何とかするだろうとは思わないでくれ」

「は、はい」


 懸念が大当たり。

 一人だけ四十を超えてそうなベテランが、ロジャー兄上とイライジャ兄上の時も混ざっていたらしい。

 道が塞がってるなら原因を粉砕すればいいじゃない。の二人と同じ扱いをされたら、洒落にならないため事前に正しい意識にする。

 こんなか弱い僕が超人と同じ分類にされるのは、過大評価を通り越している!


「よ、よろしくお願いします!」


 おっと。どうやらレアさん、リズベットさん、ルシールさんの周囲の兵はガチガチに緊張しているらしい。王国と教会が散々宣伝している三称号の持ち主には、色々と勝手が違うのだろう。

 安心してくださいよ兵士の皆さん。三人全員が心優しい方々なので、食堂でパンを買ってこい! なんてことは起こりませんからね。


 しかしよく見るとレアさん達の周囲は女性兵士ばかりだな。それに彼女たちには特例措置として女性使用人も多く引き連れるため周囲は凄く華やかだ。


「ケイ・ウィンター!」

「はい!」


 おっと。公爵家の子弟に呼ばれた。どうやら仕事の時間らしい。


「先行して異常がないかを確認しろ」

「はい!」


 俺の役割は先行しての確認係だ。

 つまり、なにかあれば真っ先にやられて、定時連絡が無い……なにかあったのか? と、ざわざわするきっかけになるポジションである。痕跡だけ残して行方不明になれば完璧だ。


 じゃあ茶葉号さん、よろしくお願いしますね。


「先行して確認をする!」

「はっ!」


 兵に号令をかけ、皆よりも先に学院を後にする。

 少しでも異変があれば見逃さず、報告、連絡、相談を徹底するのだ!


「異常なし! なし! なし! よぉおおおおおっし!」


 なにも! ありませんでした!

 まあそりゃそうだ。学院は大都会だから物流のために道がきちんと整備されている。もしここでいきなり躓いたら、予定を変えるレベルの異変が起こっていると言っていい。


 きっとこれからの道中も平穏無事で、目的地に到着しても予定通りに進むな!

 ガハハハハハ!

 と言えたらいいんだけど、絶対なにかあるわ。間違いないね。

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