三章 日常再開
王都での大騒ぎから早数週間。
本来なら王城で二日連続のパーティーを終えてから学院に帰る筈だったが、流石にあんな騒ぎがあった後では不可能!
暫く実家の持つ屋敷で駄弁った後、学院に戻ったとさ。
「じゃあケイ君の領地は大きな狼が出るの?」
「偶にね。その度にロジャー兄上がふらっと行って、仕留めた奴を剥製やら皮の敷物にして売ってる」
「どれくらいの大きさ?」
「馬とそう変わらないバケモン」
「えっ⁉ そんなに⁉」
「ほんとに偶にだぞ」
学院にあるけど普段は利用しないお茶会用のお部屋で、お上品にお茶をお飲みしますわよおおお。
うちは山岳部のド辺境だから、極々稀にとんでもない化け物が出てくるときがある。
そんな時は歴代の当主が出陣してぶっ殺してたけど、今じゃロジャー兄上が散歩ついでにグキリとやって終了の雑魚扱い!
臨時収入ゲットだぜ!
で、だ。
「狼かあ。犬に近いとは聞くけど私は見たことがないなあ。リズベットはある?」
「……」
「リーズー」
「い、いえ。ありません」
お茶会ルームにはレアさんとリズベットさんもいる。
えー。公爵家次期当主と妹の聖女。公爵家令嬢の聖勇者。そして男爵家三男坊になります。
これにはケイ君もびっくり驚愕……って訳でもない。
いきなり妹が出来たダリルと、いきなり兄が出来たリズベットさん関係は非常にぎこちなく、それを解消するためのお茶会が行われるのは当然。
だが二人だけでは絶対に上手くいかないと判断したダリルは俺に。
リズベットさんはレアさんに救援を要請して四人によるお茶会となったのだ!
なお、少し前なら俺がいると使用人の皆様方が絶対に阻止したはずだが、レアさんの周囲はお兄さんの意向に従っている人たちに代わってるっぽい。
それに自信がないけど、リズベットさんの周囲にいた使用人も別の面々のような……まあそれはいいか。
しかしリズベットさんの反応がちょっと遅いというか、何かに気を取られている気がする。
ここはレアさんにアイコンタクトを送り、友人から見てどんな感じなのかを教えてもらおう。
じー!
はっ⁉ レアさんと通じ合った!
それによると……乙女だから? どういうこと?
いやしかし、野郎のダチ連中以外でレアさんとのアイコンタクトが成立するとは、これはまさか婚約者予定パワーか!
「ケ、ケイさんと、に、兄様は仲がよろしいのですね」
「出会った初日から親友だからね!」
もじもじとしているリズベットさんにサムズアップする。な、なんて可愛らしい姿なんだ。
レアさんをちらり。やだ私の親友、可愛すぎって顔してる。
ダリルをちらり。やだ僕の妹、可愛すぎって顔してる。
多分俺もだな。
初めて顔を見た時はお人形さんのようだったリズベットさんだが、ここ最近は様々な表情を浮かべ、その度に周囲をほっこりさせている。
「ケイ君を本家の屋敷に招待するとき、リズベット……もいてくれるかな?」
「はい兄様」
「あ、それだったらダリルを実家に招待してるんですけど、リズベットさんもどうです?」
「行きます」
まだリズベットさんへの呼び方がぎこちないダリルが提案すると、リズベットさんの調子が戻ったらしく反応が早い。
そんでもって、俺の方もダリルを招待しているので、リズベットさんにもちょっとした兄妹旅行的なものを提案する。
俺は学院を卒業後に進んでいる話が成立すれば、あちこちへあいさつ回りするついでにレアさんと旅行だ!
未来は明るい! わははははははははは!
「じゃあ訓練しようか」
知ってましたよ教官殿。
王都では一件落着。お茶会も終わり、未来に思いをはせてルンルン気分でしたけど、俺らの学生生活が変わるわけじゃありませんよね。
男爵子爵連合全員が、そういやそうだったなー。と遠い目だ。
「本格的な行軍の練習もあるから気を引き締めておけ」
うーっす。
王都騎士団とか大勢の使用人に囲まれたお散歩ではなく、戦地への強行、野営から食事の準備まで、全部を生徒で行なう行事も控えている。
王都への移動で多少は慣れたでしょ? じゃあ次は本番ね。という訳だ。
なお流石に、これに関しちゃ普通の御令嬢は不参加だが、どうもレアさん達を筆頭にした三大美女や、戦闘に向いた称号を持っている女性陣は参加が決まってるらしい。
俺は、なんでも出来ることは自分でやれの辺境生まれだし、ふらっと出かけるロジャーに引っ付いていたことも合わさり、炊飯から洗濯まで一人でこなせる。
「それでは始めるぞ」
我ら男爵子爵連合に加え、レアさん、リズベットさん、ルシールさんも頷く。
どうも噂程度だが、七徳司祭が張り切り過ぎた結果、レアさん達が強くなるのが急務だと判断され、六徳の中でも上位の人間が指導役として確保されたらしい。
どんな人間なのかなあ。六徳から上って変な奴ばっかりってイメージなんだよなあ。
ポエマーとかポエマーとかポエマーとか。あと、ポエマーとか。
「きゃっ⁉」
何事⁉
ふぁっ⁉ レアさんを見ると、普段の輝く剣と盾を持つ彼女の体が、柔らかく周囲を照らす炎を纏ってる!
なんかルシールさんの炎と同じで、使い慣れた実家の枕と布団を思い出す感じだが、いったいなにごと⁉
「綺麗……」
その炎をレアさんはうっとり眺め……。
「とりあえず全力は出すなよ」
「ひょっとすると俺らが死ぬから」
「徳級……上がっちゃった?」
教官たちはドン引きしていた。




