超越者 選択の剪定 運命の選択
本日はここまで!
ウィンター家三兄弟の長兄、ロジャー・ウィンターにある疑いを持った光の灯教は、調査のため男爵領に極秘の暗部を派遣。
その中には七徳すら含まれていたのだから、彼らがどれだけ重要視していたか分かるだろう。
だが。
だがである。
誰が想像する。
齢十五を超えたばかりの、まだ少年と言っていい存在に粉砕され、七徳すらも見逃されるなど。
その元凶、イライジャ・ウィンターがオズボーンの目の前に立っていた。
「将来の弟夫婦⁉」
教会は慎重な調査で徳を推定して、性格もある程度は把握していた。
だから余程のことがない限りは身内と領地の関係以外でやる気を見せないイライジャが、この場にいる理由を知ってオズボーンは絶望する。
「ま、まさか聖勇者と⁉」
イライジャの言葉と、フォスター公爵邸に弟がいたことが繋がり、オズボーンはとんでもない地雷を踏み抜いていたことを知る。
ウィンター家の親子仲と兄弟仲がいいのは、多少調べればすぐに分かることだ。
しかも馬鹿騒ぎをしている末っ子はかなり可愛がられているため、イライジャが面倒がらずに出てくる理由になり得た。
(あの小僧それでか!)
ついでにフォスター公爵家の長男ネイハムが、頑なにレアを手放さなかった理由をある程度察し、オズボーンは悪態を吐きたくなった。
そして態々こんなことを言ったイライジャが自分を見逃す筈がなく、結構な怒りを抱いているから、死までの時間を長引かせていることにも気が付いた。
「例えばの話をしよう。運命は基本的に二つ。多くても三つほどの選択で成り立っている」
「っ!」
どこからともなく、神聖な力が宿った直剣を出現させたオズボーンが、常人どころか五徳でも反応し切れずそのまま死ぬしかない速度で駆け、イライジャに切りかかった。
が。
首筋に叩き込まれた剣はイライジャに切り傷一つ付けられず、オズボーンは形容しがたい異様な衝撃を手に受ける。
これだ。
オズボーンの全力を受けても無傷だったからくりが解けなかったから、かつての七徳は必死の思いで逃げ帰るしかなかった。
「それは最終的に、いい未来への階段と悪しき絶望の落とし穴。もしくは隠された真実への道になる」
「結局なにが言いたいいいいいいい!」
「ふむ。ご要望に応え知りたいところだけ語ろう」
その無敵の秘密が口にされようとしていた。
「過程や道理。因果関係すらも無視して、躱すという選択肢があるなら絶対に躱せる。効かないという選択肢があるなら絶対に効かない。私は不必要な選択を剪定し、必要な運命を選定する。これを凌駕できる定命は兄と弟。三人の女が運命から解き放たれた場合。後は極少数だろう」
「っ⁉」
ぞっとするどころの話ではない。
言葉通りオズボーンは血の気が引いた。
「尤も私はあまりこの力を好まない。幼少時は人と全く世界の見え方が違うから、随分と苦労もした。これに全てを委ねられる人間がいるとすれば、他人に人生を操られている者だけだろう。故に普段は使わないよう戒めている」
「ならば今も使わなければいいだろうが!」
「機構ではなく自己矛盾の塊として今を生きている」
肩を竦めたイライジャにオズボーンが絶叫する。
この超越者に挑むのは、選択と言う名の運命。即ち世界の枠組みである、概念に挑むことを意味している。
あるいは彼が機構になり果てれば、弟以外が太刀打ちできない単なる物体と化すだろう。
人でいることが大きな劣化を招いて、世界そのものの改変に至れず九徳程度に収まっているのも間違いない。
しかし今、確かにイライジャ・ウィンターの名を持つ人間としてここにいた。
そしてこの力が世を覆っていないからこそ、あるべきはずだった運命は致命的な齟齬を生じ、狂いに狂っているのかもしれない。
「ではお別れだ」
イライジャが最後の別れを済ませた。
情報洪水の如きお喋りな弟のお陰で人間側に位置しているイライジャは、その弟が戸惑いつつも乗り気な婚姻話が、危うくぶち壊されかけたため、オズボーンの推測通りかなり怒っていた。
「死ね」
選択を剪定。
運命を選択。
イライジャの説明通り過程と道理を無視して、オズボーンに叩きつけられた定めは、言葉通りの現象を齎した。
「最悪を引き続ければ王国と教会が全面戦争。責任を取って自害した認識のままの方が一番無難か」
必要以上に陰謀を暴きたてると、取り返しがつかない選択肢になり得ると見定めたイライジャは、どさりと倒れ伏した物体を気にすることなく呟いた。
ただ彼でも予想外のことが起こった。
オズボーンの意識が落ちる。
何処までも堕ちる。
それはこの世のどこにもない筈の空間。
精神や夢の世界。
「こ、ここは?」
先程まで森にいた筈なのに、花が咲いては枯れ、雨が降ったかと思えばすぐに晴れ、黒と白が入り混じる不可思議な空間で、オズボーンは戸惑ったまま臨戦態勢を維持する。
強すぎる魂は時として、妙なところに紛れ込んでしまうものだ。
「あんれー? 七徳の司祭様じゃないっすか。こんなとこでどうしたんすか?」
少なくとも今は紛れ込まない方がよかったが。
「ウィンターの⁉」
「ういっす! ケイ・ウィンターです!」
ごく限られた面識ながらもオズボーンは警戒して距離を取り、呑気な顔で挨拶するケイがそれを詰める。
騒動のせいでルシール、リズベット、レアは夢に堕ちておらず、なんならケイ本人も起きているが、極限の馬鹿は魂を分割しているせいで、偶に精神性世界を好き勝手歩いている個体がいるのだ。
「ここはどこだ⁉ 私になにをした⁉」
「精神世界。夢の世界。狭間。そう呼ばれてる場所っすね。精神体だから相手の隠し事が微妙に分かったりもする感じです。レアさん達に酷いことすれば、神様が現れてくれるかもーとかね」
「なっ⁉」
まさに隠していたことを言い当てられたオズボーンは、さらに一歩後ずさってしまう。
「いやあ、なるほどねえ。確かに今回の行事は親とか身内の共同作業みたいなとこがあって、子が酷い目にあいそうなら助けるのが親とか大人の役割ですわ。それを神とレアさん達に当てはめて、この世界に奇跡を……みたいな?」
噴火直前の火山が語る。
偉大なる称号に悲劇が起きれば、神が現れて世界を正してくれるのではという、司祭が決して持ってはならない考えを。
だから何もかも上手くいき謀殺を演出した後は、レアたちへ悲劇を届け続けるつもりだった。
「愚かな! 馬鹿め! 散々企んでこれか! ガキと同じメンタリティーとは! 神とて呆れ果てるだろう! いい加減に一人で立てと! それでも霊長かとな!」
「だ、黙れえええええええええ!」
「なぜ認められない! 神が作ったのはきっかけに過ぎない! 世界を見ろ! 街を作ったのは神か⁉ 田畑で麦を育てているのは神か⁉ 世はもう人の! 鉄の時代なのだ! いつまで迷子な子供気分でいるつもりだ!」
「死ねえええええええええ!」
結局は神に縋るしか出来ない男は、叫ぶ小僧を止めるために襲い掛かる。
「人の炎を見るがいいいいい! パウワァああああああぁぁぁぁぁぁーーーー!」
ケイの体がほつれるが勝負にすらならない。
僅かな炎がケイの体からちろりと漏れただけでも、七徳如きの精神が耐えられるはずもない。
小山のような炎が完全顕現を果たす必要もなく、妄信の果てを暴走した男は神の如き火を見られず魂ごと消滅した。




