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とある双子の夜

 えー。どうもグリーン公爵邸から司祭が撤収したらしいけど、ざっと二時間ちょいか? いったいなにが紛れ込んでたんだよ。

 七徳の司祭がそんなに手古摺るとか、魔王クラスの末端でもうろちょろしてたんかい。


 で、その間、リズベットさんとルシールさんから、とんでもなく心の籠ったお礼の言葉を言われて、ポエマーが余裕の表情を浮かべている横でどうしたらいいか分からず棒立ちしたり……リズベットさんと手をつないだりしてました。


「……」


 お父さんはまず無事の筈だが、緊張で小さな手が震えている。


「ご安心くださいリズベット様。一旦、王国にも籍が出来た時点でお父様は無事の筈です」

「あっ……はい……」


 ゆっくりとした口調で俺が言葉を発すると、リズベットさんは安堵しながらもなにか大事なものを見失ったかのように、ほんの少し潤んだ瞳になった。


 な、なに⁉ 俺っちに搭載されてる男子的馬鹿センサーが反応した⁉

 これは間違いなく、仲良く遊んでたダチが上の身分だから、社会ではきちんと弁えた行動すると、え? ここにきて急に他人行儀なの? そうだよね……的な反応⁉


 だが今考えるとかなりやべー言葉使い&腕を引っ張って館に連れ込んでいる俺に怖いもんはねーぞ!

 それにここは非公式の場だしね!


「大丈夫だよリズベットさん! お父さんの確保に失敗した時点で、もう司祭が拘束することは不可能さ!」


 ってな訳でいつものノリに戻る。

 談話室にはルシールさんもいるけど勘弁してね。


「は、はい!」


 やはり俺の男子的馬鹿センサーは完璧。

 弱々しかったリズベットさんの手に力が入り、彷徨っていた視線もきっちり定まった。

 そして落ち着いた声よりも力強く断言されたことで、リズベットさんも安堵したのだろう。こてんと首を傾けてきそうな距離感を感じるが、それだけ脱力しているのだ!


「外の動きが少々分かったよ」


 おっと。屋敷の人間やら、恐らく王宮の人間とやり取りしていたポエマーが談話室に戻ってきて、リズベットさんとルシールさんが立ち上がる。

 この兄貴、王都が蜂の巣をつついたような騒ぎになっているだろうに、相変わらずの微笑みで余裕と凄みを感じる!

 レアさんの兄貴にはいっぱい食わされて咽たけどな!


「枢機卿には近衛が付いているから、教会。もっと言えばオズボーンがこれを退けて拘束するのは事実上不可能になった。そしてオズボーンの方は、王国の使者が直後に絡みついたから、政治的な工作をする余裕が無いだろう」


 つまり王太子が後ろ盾ってことか。それでもどうにかしようとしたら、もう戦争って手段しかないな。

 あと兄上、お喋りな俺と話し続けてるから、かなりの人語になってますね。


「使者の中には近衛の副長も含まれているから、なにかあれば団長が参戦する手筈だね」

「聞いた話なんですけど、近衛のトップって七徳じゃなかったですっけ?」

「いかにも。副長は六徳だから、ギリギリのラインで牽制をしている」


 そんで大神殿前は戦争の線を踏み込まないようにしつつも臨戦態勢らしい。

 七徳の司祭は時間をかけすぎたせいで、王国の情報収集と準備を許してしまい、大神殿に帰った途端、自分が実質拘束されてやんの。

 ざまぁ。


 ざまぁだけど、流石に王都で七徳同士のドンパチは洒落にならないから暴走すんなよ!


「でもまあ、あれだけ手古摺ってたんですから証拠自体はあるっぽいんですよね?」

「そうだね」


 ポエマーに確認を取って安堵する。

 公爵邸に踏み込んだのに証拠がないなら、冗談抜きに光の灯教と戦争だ。


「とりあえずはこんなところかな」

「ありがとうございますっ……ありがとうございますっ……この御恩は生涯忘れません」

「本当にありがとうございます。なにも成せぬ身で申し訳ありません……」


 ポエマーが話し終わると、安堵したリズベットさんがぽろぽろと涙を流し、ルシールさんが顔を伏せる。

 ルシールさんは、何でもかんでも自分に責任があるって思っちゃうタイプっぽいんだよね。


「リズベットさん、気にしないでください。それと、ルシールさんの責任じゃありませんよ」

「……え?」

「ルシールさんは悪くありません。もしそんなことを言う奴がいたら、俺がぶっ飛ばしに行きます」

「そう……なのでしょうか?」

「はい」


 ルシールさんが儚げに微笑んだ。

 光の灯教はバカでかい組織なんだから、やらかす奴はどうしても出てくる。学生の身で自身に咎があると思うのはよくない。


「それでだがダリル君。少し話がしたい」

「ぼ、僕ですか?」


 ポエマーが枢機卿の無事で、口をもごもごさせていたダリルに話しかける。

 個別に話をするってことは多分、悪魔契約書の契約内容がダリルの暗殺だったんだな。


 そしてこれまた推測だが、もう王宮じゃあダリルをグリーン公爵家に戻す話が出てる筈だ。


 談話室をダリルとポエマーが出て行き、少々の時間で戻ってきた。

 やはりダリルもグリーン公爵家がやらかしたから、どうなるかという流れをある程度予測していたらしい。


「……ケイ君。前も聞いたけど、そんなに似てた?」

「頑張り屋で、努力を嫌わず、仲間想い。そっくり。ただまあ、確信は持ってなかった」

「ふふ、そっか……父もそうかな?」

「二人が似てる原因っしょ。なら気持ちも分かるんじゃね?」

「それなら死ぬほど苦しんだと思う」

「だろうなあ」

「僕たち……友達だよね?」

「我が馬鹿男子連合の友情は永久に不滅だ!」

「ありがとうケイ君」


 ダリルの言葉を考えるに、もう明日にでも発表があるな。

 つまり公爵の後妻と子は完全に排除が決定され、司祭が勝手にぶちまける前に王国としての行動にするつもりだ。

 そして嘘は微塵もない! 友情!


「リ……なんて呼べばいいんだろう……う、うーん。リ、リズベットさん。ちょっと長い話に付き合ってほしい。疲れてるだろうけど、今話して僕の気持ちを伝えておかないと多分、司祭に悪用されちゃうんだ」

「は、はい?」


 ダリルが腹を括った男の顔をしている。

 俺も完全に正確な情報を得ている訳ではないが、今から話される内容と極端に違うことは無いだろう。


 ダリルの口から語られたのは、不幸の称号と聖女の称号。

 生まれた双子。

 彼らの父に発生した教会と王国からの圧力。

 養子に出された兄の物語。


「そ、そんな⁉ では⁉」

「はいちょっと待ってくださいね。僕が不幸には見えないでしょ?」


 目に見えて狼狽えているリズベットさんに比べ、ダリルの方はあっけらかんとしている。

 そこへ飛び入りした俺がダリルの肩を組んで、親友コンビがリズベットさんにサムズアップ!友情!


「で、ですが私のせいで!」

「赤ちゃんの頃の責任とか言われても困るかなって。いや本当に誰が悪いとかじゃないし、僕たちのお父さんなんだから、どれほど苦しんで悩み抜いたかも分かるでしょ?」

「そ、その、でも」

「永久にループしそう。ケイ君、何か一言」

「友情!」

「そうそう。うん? なんか話の流れが違うけどまあいいか」

「普段通りの馬鹿騒ぎをしてたらきっと安心するぞ!」

「確かに!」

「ガハハハハハ!」

「あははははは」


 ダリルと肩を組んで談話室をスキップする。

 リズベットさんだけではなくルシールさんも呆気に取られているが、自罰的になるより一億倍マシ!

 男の馬鹿騒ぎとはこういう効果もあるのだー!

 わーっはっはっはっ!


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