祈りに差し伸べられる手
屋敷に駆け込んだ俺だが、一点だけルシールさんとリズベットさんを後回しにして確認しないといけないことがある!
「確かリズベットさんのお父さんが神殿にいるんですよね⁉」
「いる」
「この後に拘束される可能性は⁉」
「ある」
「騒ぎの原因に関わってる可能性は⁉」
「無い」
「王太子殿下に伝手ってあります⁉」
「ある」
「じゃあ王国としてリズベットさんのお父さんに、グリーン公爵家のゴタゴタを親族として方付けろって要請は可能ですか⁉」
「選択を尊重しよう」
緊急時だから短いやり取りで済ませる!
なんか満足気なポエマーも足早に移動してるから、手紙をさっと書いてくれるだろう!
アホほど暴走してるように見えて、ギリギリ自分の権限内で動いてるのが、あの司祭の面倒なところだ!
「父がっ⁉ ど、どういうことですか⁉」
血相を変えたリズベットさんに説明する必要がある。
それと明らかに気にしている、ダリルにもだ。
「誰の考えかまでは分からないけど、狙いはレアさんを教会側に引き込むついでに、リズベットさんを完全に操ることだと思う。お父さんは、可能な限りリズベットさんの意に沿わないことを防いでない?」
「そ、それは、その、恐らく」
「本当に邪推だったらいいんだけど、グリーン公爵家の暗殺騒ぎにお父さんが関与している可能性があると言って、拘束する動きがあるかもしれない。その場合は間違いなく、企んだ人間がリズベットさんを完全な制御下に置きたいからだ」
「そ、そんな⁉」
「後は実質的な人質にして、お父さんも関与していたかもしれないから、一層の献身と贖罪をしなければならないって言うと思う」
あの司祭が黒幕かは知らねえが、死ぬほど面倒なことを企みやがって!
レアさんだけが狙いかと思ってたけど、グリーン公爵家を狙い撃ちにしたってことは、リズベットさんの環境にもかなり苛ついてやがったな!
しかも蒼白で血の気の失せたリズベットさんの顔を見るに、陰謀に恐怖しているだけではなく、恐らくお父さんと司祭が上手くいってない場面を見てるんだ。
死ぬほど話が面倒になってる原因は、どうも悪魔の件自体はマジってとこか!
「でも安心してほしい。かなりの部分で関わってる。もしくは元凶の司祭が、なんでか読み違えて手古摺ってるっぽい。流石に枢機卿の拘束なんて、悪魔がグリーン公爵家に関わってる証拠と、七徳の権限を持ってる司祭がセットじゃないと成立しないから間違いなく無事。後は兄貴に頼んで、お父さんの所属を無理矢理だけど王国側と光の灯教の両所属にする。これで拘束は防げるはずだ」
王国側もいきなり公爵なんてビッグ存在がぶっ飛ぶ事態は、絶対に避けねばならないから、前当主の弟である枢機卿を強制的だろうが王国にも所属している形にする筈だ。
枢機卿の方も実家が関わってんだから戻るしかないし、神殿内に留まってたら下手すりゃ生きた人形に大改造だからこれで良し!
内輪の処理に失敗した時点で、司祭の目論見は破綻する!
そして俺の企みが上手くいけば……。
王国は公爵家がいきなり消し飛ぶ事態を防げる。
リズベットさんはお父さんが無事。
そのお父さんは死ぬほど苦労するけど、突然病死しちゃった。てへ。を防げる。
いいんじゃないっすか?
王都騎士団がやらかした王国と、司祭がやらかした光の灯教で、パワーバランスもとれたしな!
ははははは! はは。
ふう。以上、終了。
「ケ、ケイさん……ち、父を助けに行かねば」
「はい落ち着いて深呼吸ー。大丈夫。大丈夫ですから。今神殿に向かってリズベットさんが確保されると、お父さんも動けなくなります。そしてこの動きを見るに教会の総意ではなく、司祭が暴走して既成事実を積み重ねようとしてるだけです。それが完全に失敗へ向かってますから安心してください」
細かく震えているリズベットさんの手をぎゅっと握る。
ここまでの大事、多分だが光の灯教の総意じゃない。
流石に一歩間違えれば、王国とガチの全面戦争に突っ走るルートを選ぶなら、もっと大々的に動く筈だ。
それが無いということは、あの司祭が一人で突っ走っているのだから、目論見が完全に破綻した今、打てる手はほぼほぼ無いだろう。破れかぶれの特攻以外。
後はポエマーの手紙と、実際の神殿の動きがどうなっているかだな。
すんげえ長い夜になりそうだわ。
「大神殿でクーノ枢機卿を拘束しようとした者が少数いたが、多勢に無勢で沈静化した。それと王国側も動いて、枢機卿にグリーン公爵家へ一時的に戻れと命令した。期日は定まっていないけどね」
ポエマーの下に連絡は直ぐに戻ってきた。
司祭様、どうしてしくじったか考えなくていいですよ。
時間を取り過ぎた。この一点に尽きる!
女性を外部から切り離して、いらんことを吹き込み自分への信頼を高めようとするなど、神が許してもこの俺がゆるさーん!
ん……あれ? 今のこの状況はー?
……気にしない!
ところでリズベットさんが手を離してくれないんですが、どうしたらいいんですかね狭間の同胞よ。




