一大事 後
パーティー自体は何事もなく終わり、お邪魔しております王都の館。
「本来グリーン公爵家を継ぐはずだった男が、暗殺された可能性があるぅ?」
「一握りの粒が囁く噂によるとね。しかし我らが天と地の大きさを知らぬ時の話だから、見定めるのは非常に難しい」
「うーむ。お咎めなしってことは、証拠は無いんですよね?」
「故にあくまで噂か、もしくは職人が関わっているか」
呑気な顔でポエマーが語ったところによると、グリーン公爵家の当時の当主。つまりリズベットさんにとっての叔父が亡くなると、前妻の子と後妻の子で酷く揉めたらしい。
そんで前妻の子は亡くなり、後妻とその子がグリーン公爵家を継いだはいいが、相次いで亡くなったため証拠は無くても、謀殺が一部で疑われてるとか。
しかしそれは俺らがガキの頃の話であるため、今までお咎めが無いということはよっぽど上手くやったのか、もしくは無罪なのかはっきり分からねえとか。
こんな話は王城じゃ出来るわけがない。
「リズベットさんにどうして酷く絡んでたんでしょうね?」
「公爵家の次期当主になる筈だった男は、歳が近かったため次の王冠とも交流があった」
「それがいきなり死んだものだから、殿下はずっと疑いを持ってた。そんで殿下の継承が間違いないため、咎められると思った後妻とその子は光の灯教側に接近を?」
「かもしれぬと思っていたが……我が弟の友には真摯な祈りと血縁がありそうかい?」
「……ひょっとしたらそうかもしれません」
話の核心をポエマーが突いてきた。
顔は全く似てないけど、髪と瞳の色の共通点を持つダリルとリズベットさんは、雰囲気がかなり同じだ。
努力家かつ温和で、友人との交流を楽しんでいる姿はそっくりなのだ。
「ならば館に招いて正解だ」
ポエマーが指で顎を擦り呟く。
パーティーが終わった直後、ダリルも誘ってこの館に来ていた。疲れ切ってたから、お茶とお菓子を堪能中だ。
ちょっと気になるなあ……程度の理由だったが、ポエマーも賛同したことを考えるに、ダリルがリズベットさんと双子関係だった場合、グリーン公爵家内でダリルを公爵家当主に推す勢力があるのではあるまいか。
……謀殺が事実だとすればダリルもかなり危ないぞ。
「どうにかなりますか?」
「事実なら招かれざる掃除屋が掃いて捨ててくれる」
「ええ……あの司祭、公爵家に押し入るんですか?」
「神が全ての生き物とはそうなるのだ。しかしめぐり合わせか。輝く剣にとっては、王都騎士団の行ない。兄との仲の悪さ。更に推定になるが、友人である真摯な祈りの双子への企て。全てが悪く重なれば、王国とは。貴族とはと自問することになっただろう」
「まさかとは思いますけど、光の灯が全部に絡んでる可能はないですよね?」
「さて、少なくとも総意ではない筈だ」
「じゃあ独断でやってるかもしれないってことじゃないですかー!」
掃除屋こと七徳の司祭が、リズベットさんの脅威を排除するため、公爵家に押し入ったらよっぽどの確信が無いと王国への宣戦布告だろ。
しかもなんか、レアさんが教会側に傾く様に独断専行してる可能性があるとか、戒律や教えはどうなってんだ教えは!
「ちょーっとグリーン公爵邸を見てきていいです?」
「選択を尊重しよう」
なんか話の流れ的に、グリーン公爵邸を確認した方がいいような気がしたので、日が傾いている王都を歩き、公爵たちの館が集う高級住宅街に……。
「王国と矛を交えるつもりか⁉」
「我らは悪魔討伐の権限で行動している!」
ででででで、殿中でござるぞ⁉
やべーぞ政変だ!
衛兵の集団と司祭服を纏った連中が、高級住宅街で揉めてる!
会話を聞くに絶対これ、悪魔討伐の権限でグリーン公爵邸に押し入っただろ!
てえへんだてえへんだ!
マジでこれ、きちんとした証拠が出てこねえと戦争まであるんじゃねえか⁉
とにかくやばーい! ダッシュでウチの館に戻ってポエマーに報告しねえと!
「なんだっ⁉」
げっ⁉
屋敷がちょっと揺れた⁉ ひょっとしてマジで悪魔とやってる⁉
本当にいたんかワレェ! 異端だけに!
ってそんな呑気な考えを抱いてる暇はねえ! ダーッシュ!
伯爵邸や子爵邸のエリアを抜け……うん⁉ 馬車⁉
「ストーップ! こっから先はマジヤバいからとまれー! 多分、悪魔とやり合ってるー!」
手を大げさにぶんぶん降って馬車を止める! どうも止まらずに突っ込みそうだから、脇にどいていようっと。
あ、なんだ? 急に止まったな。
「ケイさんですか⁉」
「ご無事ですか⁉」
「ルシール様⁉ リズベット様⁉ そのような場合ではございません!」
どうも俺の馬鹿声に覚えのある人。つまりルシールさんとリズベットさんが馬車を止めてくれたらしい。御者の人が慌ててるけど、こっちも用事があるんだわ。
「グリーン公爵邸で一大事! 悪魔討伐の権限で司祭が乗り込んだものと思われます!」
「だから我らは大神殿へ避難している!」
急いで報告した俺に御者の人間が叫ぶが、てめーその勢いとノリで誤魔化せると思うな。このルートで大神殿に行くってことは、学生の宿泊所から騒動が起こってる公爵邸エリアを突っ切るってことだろうがよ!
そんな理由があるとすれば恐らく、レアさんが俺との婚姻話を詰めてるから公爵邸にいて、ルシールさんとリズベットさんの説得でなんとか回収しようとしてるんだな!
俺の思考が高速で回転する!
多分だがあの司祭の本来の考えでは、簡単に事件を収束して、公爵邸エリアの安全を確保できてる筈なんだ。
そんでこの周囲は危ないから、大神殿にご友人のルシール様、リズベット様と一緒に避難してください。お願いしますよレア様……的な流れに持ち込もうとした!
司祭はその間、王城に行ってこれが証拠です。我々の権限を行使したのは正当です。と言うつもりだった!
だがマジで予定外の苦戦を七徳がしてるからプランに従ってる現場全員がパニくって、計画を修正できず危ないところに突っ込むちぐはぐな行動になってる!
そんな馬鹿げた事態でもない限り、わざわざ現在進行形で危ないエリアを突っ切って、避難するという発想にはならない筈だ!
いや、七徳の計算を全部狂わせてるとか、グリーン公爵家はなにやってんだ⁉
「まだ公爵邸で争ってる最中なんですってば! 近くにうちの館があるのでそっちに避難してください! イライジャ兄上がいるので、ロジャー兄上級が暴れていない限りはなんとかなります!」
「何を言う!」
御者が面倒くせえ! 忠誠心を買われてこの役目を命じられたんだろうが、破綻してるプランに拘るのは馬鹿ッていうんだよ!
「ですがそれでは……」
俺んちが受ける政治的なアレコレを考えて、ルシールさんとリズベットさんが迷ってるな!
陰謀とかじゃなくて、七徳に物理的な計算違いを引き起こしてる奴が関わってんだからそれどころじゃねえ!
「いいから! うちに! 来い!」
「は、はい!」
「わ、わかりました!」
「ルシール様⁉ リズベット様⁉」
アホたれの御者が焦りまくってるけど知らねえ! マジで緊急事態だから、二人の手を引っ張るように駆ける!
「ただいま! 多分司祭に計算違い! 悪魔かなんかを抑えるので精いっぱい! ルシールさんとリズベットさんをよろしく!」
「お帰り」
ポエマーに事情を説明して匿ってもらう。
兄貴が向かえば解決するだろうが、悪魔討伐の権限で公爵邸に踏み込んでる司祭なんて、政治的スーパー炸裂魔法を誰も触ることが出来ねえ!
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ほぼケイの推測通りだった。
「し、しつこすぎる⁉ なんだこの悪魔契約書は⁉ 精々が三罪の筈だ!」
グリーン公爵邸で七徳オズボーンは、予定の全てがぶち壊れていることを自覚しながらも、全く沈静化しない悪魔契約書に手を焼いていた。
『てめえええ余計なことしやがってええええ! ぶち殺されたいのかあああああ! 三罪程度の力しか発揮できない契約書だろうが、僕を舐めるなよおおおおおおおおおおおお!』
物質界に介入しているため、精々が三罪程度の力しか発揮できなくても、本体の九罪。揺蕩う霧のオリアが異なる次元で荒れ狂っていることを知れば、オズボーンも白目を剥いただろう。
そして最大の計算違いは、直接の脅威ではないと思っていた小僧が、女神、聖女の二人の心を捉えて離さなかったことだ。
確かにルートは危なかった。しかし、大神殿に避難しろという指示を無視するにしても、精々が宿泊所に留まる程度の話で終わる筈だ。
ルシールとリズベットがウィンター男爵邸に駆け込むことを想像するのは、全知ではないオズボーンには不可能だった。




