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一大事 前

 我ら学生、王城へ突入する!


 えー。ついにこの日が来てしまいました。

 王城へ行って、僕たち、私たちが今期の学生です。皆で仲良く学び、頑張っていきます。よろしくお願いします。

 と、実にありきたりなことを言うイベントだ。


 そんで式典プラス王様への挨拶。生徒の親も交えたパーティーが二日もある。マジかよ。

 なお領地が遠い外様は数か月も当主が往復してると洒落にならないため、代理の人間が出席する。俺の場合はポエマー兄貴だな……あの人、身内以外にコミュニケーションできるんか?


 ま、まあそれはいい。

 俺は後ろの隅っこでただの案山子となり、主役である三大美女と公爵家の子弟たちが代表して、うんたらかんたら言っているのを神妙に聞くだけである。


「確認! 服よし髪よし笑顔よし!」

「ケイ君って本当に凄いよ。僕、震えそうなんだけど」

「図太さで徳を積めるなら俺は千徳あるぞ!」


 ダリルたちはこのイベントに緊張しているらしく、男爵子爵連合軍はガチガチに固まっている。

 昨日、間抜け面を晒した連中も同じで、あーあー。もう一回ムフフなお店に行きたいなー。みたいな感じで現実逃避気味だ。


「出るぞー!」


 うーっす。教官殿の号令に従い、王族の端に引っかかる子息や公爵家の子息を先頭にして、我ら男性陣がぞろぞろと宿泊所を出る。

 勿論、俺は最後尾付近。レアさんとの婚姻話が持ち上がったのは奇跡だわ。


 そんなレアさんを筆頭にした女性陣と途中で合流。

 ルシールさんが先頭で、その左右に控えるようにリズベットさんとレアさんが令嬢連合を引き連れている……筈。

 俺はその他大勢の一人に過ぎないため、先頭が合流したっぽいことは分かったが、詳しくは見えないし関わらないのだ。


 で、だ。


「騎士団、行進!」


 我ら一同を先導している上位の騎士、王城への道に並んでいる下位の騎士。全員が王都の道中と同じく王都騎士団の面々である。

 ふ、不安だ。流石に王都にいて、王がすぐ目と鼻の先にいるような状況でやらかすことは無いと信じたいが、この行事中に三大美女へちょっかいをかけた時点で信用ならねえ。


 そして宿泊所から、俺ら男爵家や子爵家の館があるちょい外周エリア、伯爵家、公爵家の館がある高級住宅街を抜け、政治的に重要な行政機関、貴族専用の裁判所、更に大神殿などがある場所に辿り着く。


 ふ、ふふ。光の灯教の七徳は当然大神殿にいるんだから、王城の目と鼻の先ってわけだ。マジでギスギスしてそう。怖い。


 いやまあ、王国と教会は二人三脚で頑張ってきたから、普段ならそれでいい。事務的な手続きや意思疎通で楽だし、いらんことを考える連中も、両者がズッ友に見えると大人しくなる。

 でも昨今は三大美女の所属を巡ってちょーっと駆け引きしているから、仲が悪いかなーって……。


 なお王都内の軍も仲が悪い模様。


「ここからは我々が引き継ぐ」


 的なことを多分、近衛が王城の間で言っている筈だ。


 最重要地の王都を一つの騎士団が管理すると、反逆を起こされた場合に止められないため、通常の衛兵。王都騎士団。更に王家の人間を守る特殊な近衛兵がいるとか。

 そんで王城の行事は基本的に近衛兵の役割らしいのだが、王都騎士団と近衛兵は祖が同じ初代国王直轄の兵で、なんなら割と同一視されていることも多いらしい。

 しかし現在の近衛兵と王太子ゲオルグが結構近しいようで、王都騎士団とは溝が出来ているっぽい。

 全部伝聞。らしいという言葉は便利だ。

 あーやだやだ。王都情勢は複雑怪奇! ちんけな立場の俺には理解できねえわ。


「……」


 綺麗な王城に無言で足を踏み入れ、通路に控えている近衛兵の前を通る。

 な、なんか皆さん、随分鍛えてますね。式典用の服を盛り上げている胸板に、袖がパンパンになっている腕からは力強さしか感じねえ!

 ここもまた世界観が違うのか⁉

 まあ劇画タッチじゃないから、うちのロジャー兄上ほどじゃないけど。


「扉を開けよ」


 針が落ちた音も聞こえそうな静寂の中、先頭から野太い声が聞こえ、それと同時に式典場と思わしき大きな扉が開かれた。


 最後尾だからよく見えないが、ちらりと確認できる範囲では大臣っぽい人達が並び、特に背が高いゲオルグ王太子の姿も見える。


 ロジャー兄上の件で爆笑してる姿しか印象になかったけど、お仕事中は覇気が漲ってますね。

 あの無口兄と半日も殴り合えたとか、全人類から称賛されるべきだから、別の日に式典をされる側になったらいいと思いますよ。


 そんな想像は置いておいて、俺らはさっと跪く。

 三大美女。特に所属が光の灯教であるルシールさん、リズベットさんも同じで、世界の枠組みのツートップ、教皇と国王には跪く必要がある。


 ちょっと待機。

 玉座がある場所は誰も座っていないため、陛下が来るまで俺らは置物だ。

 いつかなー。五分後かなー。それとも十分後かなー。偉い人はもったいぶって時間を使う習性があるからなー。


「面を上げよ」


 うーっす。

 少しだけ顔を上げる……ことはせず、全員が立ち上がってしっかりと顔を見せた。

 今回の目的は、王国の首脳陣一同に俺らの顔を見せて、頑張りますと宣言することにある。

 そのため碌に顔を見せない形式になると、本来の目的が損なわれるとか何とかで、きちんと姿を晒すことになっていた。


 そんで三大美女の勢揃いを初めて見る大臣が、ぎょっとしたように慄いてる。

 慣れてる筈の俺らでも圧倒されるから、その気持ちはよく分かりますよ。


「よくぞきた」


 陛下、アンドリュー・レーオン。

 御年……五十過ぎ。六十手前? 豊かな髭と髪が繋がって、ゲオルグ殿下のように獅子の如き姿。しかし赤い瞳には疲労が重なっているようにも見えるから、王位を譲る頃合いなのだろう。

 だからこそ、その王位の隙間の時間に好き勝手する奴。危機感を覚えて動く馬鹿がいるのだ。

 ね? 王都騎士団の皆さん?


「初代統一王が」


 お使いの脳みそは現在休眠状態です。

 陛下の長い話が始まる予感を感じたケイ・ウィンターは、自動的に休眠するのだ。


 それに統一戦争で酷く抗った外様は、中央政権との関わりが無いので陛下の言葉にありがたみを感じない。

 これがゲオルグ殿下なら、ロジャー兄上に挑んだ蛮勇を越えた蛮勇の持ち主として、即座に五体投地で崇め奉るんだけど、そういうタイプは……。


 学生です! よろしくお願いします!

 うむ。頑張れよ。


 で終わるから、崇める暇もないに決まってる。


 見てみろ狭間の同胞よ。

 国家の次代として厳かに王の言葉を聞いている風な殿下だけどありゃあ絶対、早く終わらねえかなあ。って思ってるわ。


 ここは、あれだ。狭間の向こうの技術で偉い人の話を短く感じる、すげー能力を開発できねえか?

 永遠の課題? あ、そっちもそうなのね……。


「国のため、光のために尽くすことを期待する」

「はいっ!」


 あ、どうも終わったらしい。

 陛下のお言葉に応え、我ら学生一同が声を揃える。


 じゃっ。お疲れっした!

 とはならないんだよね。


 これから無礼講のパーティーだよパーティー。

 無礼講って言葉を信じてる馬鹿は存在せず、上流階級がおほほと言ってる空間に放り込まれちまう。


 ぞろぞろと移動した先の馬鹿広い会場はセッティングされ、使用人達が居並び、様々な貴族も勢揃いしている。

 その中には我が兄、ポエマーことイライジャ・ウィンターまで!


「それでは宴を始めよう」


 よかった。この場の陛下のお言葉は非常に少なく、いきなりパーティー開始!

 といってもお喋りがメインのため、豪華な飯を食える場ではない。残念。


「初めまして! ウィンター男爵家の三男、ケイ・ウィンターです! よろしくお願いします!」

「ストーン家の次男、ダリル・ストーンです。よろしくお願いします」

「ああ、君たちがそうか。倅と励んでいるそうだな」


 パーティーが始まった瞬間、ダリルと共に男爵子爵連合軍の親へ挨拶に向かう。

 我ら連合軍は不滅の友情を誓っているので、親御さんへの挨拶も大事である。


 なおポエマーとは一緒に動かん。

 あっちはあっちで、関わりがあるっぽい貴族と話してるから、手分けしないと日が暮れる。

 しかしあの相手は翻訳できるのか? まあ、外に出てるポエマーはなんとか意思疎通が可能なレベルの話をするので、多分大丈夫だろう。


「よろしくお願いします!」


 ペコペコ頭を下げながら男爵や子爵家に挨拶に向かう。

 これは俺だけではなく他の連中も同じだ。

 やはりコネ。コネは世界を救う。


 とは言え流石にレアさんのところに顔は出さない。まだ婚姻話が表になってないのに、俺の身分で公爵家に挨拶したら洒落にならんことになる。

 レアさんの兄、ネイハムさんだって俺が行ったらぎょっとするだろう。


 俺、こんな偉い人と関わりがあるんだぜー? 的なムーブをするのは悪役だけである。


「ふーい」


 挨拶を終えた俺は小声を呟きながら、話し終わったらしいポエマーに近寄る。


「紹介するよダリル。俺の兄、イライジャ・ウィンターだ」

「初めまして。ストーン家の次男、ダリル・ストーンです」


 ダリルにポエマーを紹介する。人語を話すかも怪しい時があるのを伝えてあるから、遠慮しなくていいぞ兄貴!


「我が弟の友に会えて嬉しく思う。イライジャ・ウィンターだ」


 し、信じられねえ! ダリルも聞いた話とちょっと違うんだけど……的な視線を送って来るが俺もぶったまげた!

 ポエマーの第一声が身内以外でもはっきり分かるだと⁉


「普通に話せたんですね兄上」

「誰もが最も激しく踊る劇場の傍にいれば、賞賛の拍手を合わせる必要があるからね」

「よかった。全く合わせてないいつものポエムだ」


 ダリルの視線が、え? どういうこと? に早変わりした。

 ここにいる人間の政治劇が煮詰まってるから、ちょっとは空気読んで合わせてるんだよ。みたいな?


 しかし煮詰まってるとこがあるのか……。

 ん、あれか?


「グリーン公爵家の親子か……」


 近くにいた中年貴族も同じものを見たらしく、どうしたものかと呆れを含んだ声を漏らす。


 かなり王に近い場所で、やたらとリズベットさんに絡んでるっぽい人間がいた。

 一人は金髪碧眼の美熟女。スタイルが非常によく、そこらの小娘では全く及ばないだろう。

 もう一人は息子なのか、金銀の髪を持つ三十歳手前くらいの男。


 ふーむ。グリーン公爵家は確か……リズベットさんの父である枢機卿の実家……だったかな?

 そんでなんかややこしい話になってたような……実際、かなりリズベットさんへ何かを伝えてる。家が割とピンチなのかね。


 一応ポエマーに視線を送り、可愛らしい弟フェイスでアイコンタクトを試みると首を横に振られた。

 これは知らないのではなく、パーティー会場では相応しくない話らしい。


 しかし……はて? なぜダリルは酷く困惑してる?

 グリーン公爵家との関わりがなにかあるのか?


 ちょっとデリケートな話になりそうだから話せねえな。後で王都の屋敷にお邪魔して、ポエマーから話を聞こうかね。


 それにしても、また明日もパーティーあるとかどうなってんだ。せめて飯を食わせろー!

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