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17.大切な人

 実家に戻りながら、昴へ連絡していた。状況を伝え薬の準備などを頼み、今から病院へ取りに行くからと伝えた。だが昴からは明日動けそうならで構わない、本人を病院へ連れてくるようにと言われた。確かに、今、落ち着いていたとしても何があるかわからない、冬哉は実家へ一旦戻ったが、やはり水瀬を看ていた方がよい、と判断した水瀬宅に戻ることにした。

 だがエルが引き留めた。

「冬哉、お前の状況はわかっているな。精神的な負担や刺激がどんなふうに出るのか、わからない。それでも、か?」

「エル。俺は今まで、こんなふうに誰かを思ったことはなかった。不思議なくらい水瀬が気になるし、守りたいと思える。自分のことはわかっているつもりだよ。もちろん、この先の事までは俺もわからない。水瀬のために諦めた方がいいと思うかもしれない。それでも、今は、側にいてやりたいんだ。」

冬哉は、珍しく食い下がる。

 エルはコンスタンのことを思い出していた。ミリアムを愛したコンスタン。そのおかげでヴァンパイアの覚醒も穏やかだった。もちろん、ジギタリスがあったのは事実だが、エルはミリアムへの愛こそがコンスタンに必要だった、と信じている。冬哉がもし彼女を心から愛せば、コンスタンのように穏やかに暮らしていけるかもしれん、そんな期待もあった。

 だが、水瀬の方はどうだろう?人外の男を本当に愛せるか?ミリアムのように自分を捨ててでもコンスタンの胸に飛び込む強さを持っているのか?そして、水瀬に愛されなかったら冬哉は自暴自棄のようになり、覚醒してしまわないか?

 エルは、そんな危うさの中にいる2人を、今は見守るしかないか、と自分を納めた。

 冬哉は水瀬の家に向かった。エルに向かって放った言葉、自分でも驚くほど、水瀬を大切に思っていると気づかされた。だが、ヴァンパイアである自分の覚醒への不安がよみがえりもした。水瀬を襲ってしまうかも?水瀬に化け物と思われるかも?そんな怖さが冬哉を責め立てる。

 すると、突然、強い風が吹いた。丘の上から吹き下ろしてきた。その風はなぜか温かく、冬哉の体を優しく撫でるように通りすぎた。

 なんだ?と、冬哉は立ち止まってその風が過ぎていくのを見ていた。風の中にいる時、誰かに囁かれたような気がしていた。言葉とも歌とも言えない、そんなささやき。だが、意味はなんとなく伝わっていた。

「信じて」

と。なにを?どういう事?冬哉はちゃんと聞こえわけではないのに、何故かそのささやきを受け入れた。そして、

「そうだね。」

と呟いた。まずは信じてみよう。自分の気持ち、水瀬のこと、これからの事。全てがきっとうまくいく、そのために出会ったんだという、その気持ちを信じてみよう、そう思った。

 水瀬はスヤスヤと眠っていた。熱も微熱だ。冬哉はホッとした。水瀬の眠る横でウトウトとしながら、時折目を覚まして様子を見ていた。

 夜が明けた。朝の光が窓から差し込む。光が優しく、暖かい。覚醒したらこの夜明けを見られなくなるかもしれない。今、水瀬の側でこの朝日を見られることを、幸せだと感じた。思わず涙ぐむ。そして、水瀬の手を取った。その手が冬哉の手を握り返す。

「冬哉先生?」

と言い、穏やかに笑う。冬哉は、ああ、水瀬、君に出会えてよかった、と涙をこぼした。

 水瀬は微熱が続いていた。手の傷を思えばもう少し治療をしないと持病の喘息の引きがねになりかねない。準備を整えて、水瀬と共に総合病院へ向かった。

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