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15.会いたい気持ち

 冬哉は仕事に復帰した.休んでいたせいで、かなりの仕事が溜まっていた。だが休んでいる間に昴が補助してくれていたようだ。冬哉は昴に感謝した。

「当たり前だろ。」

と昴は言ったが、本当はかなり大変だったに違いない。

 医師の仕事は診察だけではない。今までのカルテの整理ももちろんだが、研究や論文、他の病院への紹介の返事、意見書、患者から依頼されている書類の作成など、結構事務作業も多い。期限があるものは昴がやってくれていた。外科医なので、オペも再開した。最初は血を見たら、と不安ではあった。だがオペに入ると集中しているからなのか、全く気にならず。普通にこなせていた。いつもより細かいところがよく見えたり、手先の動きが早くなったような気もした。もしかして、半分は覚醒しかけていて、ジギタリスのおかげで途中で止められたのでは、という考えに至っていた。とりあえず、仕事に戻れてホッとしていた。

 ある夜、冬哉は研究室に残り作業をしていた。ふと、水瀬のことを思い出す。無理していないと良いが、無理しちまうんだろうな、と。水瀬を思うだけで、心が暖かくなる。こんなに誰かを思ったことは、今までなかった。人を大切に思うということはこういうことなのか、と冬哉は喜びを感じていた。

 仕事が忙しくなかなか休みが取れず、工房へ行けない日が続いた。冬哉は水瀬に会えなくて辛かった。

 ある時、仕事に疲れ、寂しさに落ち込んでいる冬哉を見て、昴が、久しぶりにメシにに行こうと誘った。冬哉の溜まっていた仕事もひと段落したタイミングだった。夜、いつもの行きつけの居酒屋へ2人で行った。

「昴、本当に色々助かったよ。」

冬哉は今までのお礼も兼ねて昴をもてなした。

「体調はどうなんだ?」

医師なので急な呼び出しに備え、なるべく飲酒はしないようにしている2人。ウーロン茶を飲みながら食事をする。

「特に変わりないな。エルの毎日の連絡が一番厄介だよ。」

以前は満月の前後のみの連絡だったのが、最近はほぼ毎日のように電話やメールで連絡が来る。それもどこかで見ているのではと思うようなタイミングや場所で、だ。

「それ、見てるだろ、絶対。」

昴が笑いを堪えていう。

「え、まじか?」

とあたりを見回す。この居酒屋にはいないようだ。

「居るわけないだろ。エルの事だから目立つ事はしないよ。長い付き合いだ。お前の行動パターンを熟知しているだけだろ。」

昴は面白がっている。

「時に、水瀬のことは、よ?」

と、いきなり確信をついてきた。

「会えなくて寂しいだろ。」

昴にズバリと言われ、冬哉は、本当に昴という男は、と気持ちを隠すことを諦めた。

「…はっきり言って、会いたい。」

と冬哉がいうと、昴は驚いて、

「なんだ、急に素直になったな。」

といった。今までの冬哉じゃないみたいだと感じた。それだけ真剣な気持ちを持っている証拠なんだろう。

「仕事なら代わってやるから、いってこいよ。」

昴がいうと、

「いや、仕事を昴に頼んでまで行ったなんで気づかれたら、水瀬に怒られそうな気がする。」

と冬哉が切なそうにいう。昴は確かに、と思った。水瀬は自分を押し殺してでも人のためや夢のために頑張ってきた人なのだ。

「怒りゃしないだろ、けど、ガッカリはするだろうな。」

昴がいうと、冬哉は、はぁ〜とため息をつく。会えないならメールや電話でもと言ったが、水瀬がそんな時間ないと言いそうだと、冬哉は先を読んで行動できずにいたようだ。

「水瀬に、今、電話してやろうか?」

とスマホを出すと、

「お前、連絡先知っているのか?」

と冬哉が驚く。

「一応、な。前に、じいちゃんと連絡取れなかったらどうしたらいいか?と不安そうに言ってたから、教えたんだ。一度もかかって来たことはないけどね。」

とスマホを見つめる。2人して、水瀬らしい、とつぶやいた。そして笑った。

「いいよ、昴。ありがとな。もう少しすれば落ち着くし、行けると思うんだ。エルのこともあるし、行かなきゃとは思ってたから。」

と、今連絡するのはやめにした。昴は、耐えられなくなったら言いな、とニヤリと笑った。

 水瀬は冬哉が町へ戻ってから、毎日張り合いがなくなっていた。店の扉が開く度、冬哉が来たのではと嬉々としてしまう。だが、いつも違って落胆する毎日なのだ。祖父からも、しゃっきりしろ、と言われるが分かっていても気持ちはどうにもコントロールできないでいた。ため息ばかりついている水瀬を見て祖父は、出来上がる作品に気持ちがわかりやすいほど出ているなと感じた。だが決して悪いものではなくむしろ今までにないような作品になっている。誰かを好きになる事が水瀬には良い化学反応が起こっているなと感じていた。だが孫娘の淋しそうな様子は祖父にとって切ないものでもあった。忙しいのだろうが、所詮都会に行けば田舎娘などすぐに忘れられてしまうのかと悲しい気持ちになっていた。

 

 水瀬はいつものように畑で草取りをしていた。張り合いはないが仕事は待ってくれない。ぼーっとしていたせいか怪我をしていることに気づかないでいた。家に帰り軍手を外すと、手のひらを負傷したたまま長いこと作業をしていたのだと気づいた。洗って消毒し包帯で保護。痛みにもその時初めて気づく。結構深いな、と痛みに驚く。その日はガラスの作業や家事もできないほどだった。

 次の日、朝から体のだるさで目が覚める。体調を崩したらしい。張りがないとこうまで落ちてしまうの?と自分が情けなくなった。熱を測るとかなり高熱だ。昨日の傷も痛い。喘息持ちの水瀬にとっては発熱だけでもかなり体に負担になりやすい。早めの対処にと備えの薬を飲んで休んだ。

 だがなかなか発熱も治らず、手の傷もどんどん痛くなる。熱で消耗し動くこともままならず。気を失うように眠っていた。

 体調が悪いからと起きてこない水瀬を祖父は心配して部屋に行った。声をかけても反応せずひたすら眠っている。触るとかなりの高熱だ。これはもしや、と心配になり担当医である昴へ連絡をした。

「ちょうどよかった。冬哉がもうすぐそちらに着くのであいつに連絡しておきます。」

昴は伝えた。祖父は来ないと思っていた弟子が向かっていると聞き安堵した。

 


 

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