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14.バカンスの終わりに

 冬哉が仕事を休んで1ヶ月が過ぎてしまっていた。体調もすっかりいい。そろそろ仕事に戻ろうかと、エルに相談した。

「そうか。とりあえず、無理はしない事だ、違和感を感じたらすぐに帰ってこい。もしうまくいかなくて病院を辞めても、他に仕事がないわけでもないのだから。」

と、冷静に話した。たしかに、実際仕事に戻ってみたら、また何か起こるかもしれないと思った。

 水瀬に病院の仕事に戻ると言いに行かないとな、と家を出た。太陽は眩しいが、苦痛とは思わない。俺は大丈夫だ、ジギタリスも効いている。歩きながら考えていた。

 それにしても、なぜ急に覚醒しそうになったのか?冬哉は理由を探した。生活もいつも通りだったし、ジギタリスも飲み忘れたことはない。疲れていたかと言われれば、医師の仕事が激務なのは前からだし。歳とったからかな?それならむしろ老化という面では覚醒が起こりにくくなる気も するが、と考えているうちに水瀬の工房に到着した。

 工房を覗いたが水瀬はいないようだ。家の裏の畑に向かう。水瀬が草むしりをしていた。

「あれ、冬哉先生。なかなか来ないから、今日は修行はお休みかと思いましたよ。」

と笑う。だが水瀬は冬哉が来ないのを少し残念に思っていたから、会えて嬉しかった。

「あ、ごめん。ちょっと家族と話しをしていたんだ。それでさ、俺、仕事に戻ることにした。結構休んだからね。」

というと、

「あ...、そっか。体調良くなってそうですものね。町へ戻るんですね。」

と少しだけ寂しそうに言った。

「休みの日にはまた、お邪魔しにくるよ。」

と優しく言った。そして、

「まだ修行途中だしな。せっかくの知識、忘れないためにもね。」

と付け加えた。水瀬は、

「…待ってますね。」

と、冬哉を真っ直ぐに見つめて言った。冬哉はドキッとっした。一瞬お互いに言葉が止まる。だがすぐに、

「男手がいると助かるので、ね。」

とニコッと笑うがすぐに水瀬は目をそらした。

「そうだね。もちろんまた色々手伝うよ。水瀬はあんまり無理すんなよ。」

と冬哉は水瀬の頭をポンと触れた。冬哉がふれたところがじんわりと暖かい。

「冬哉、それなら少し工房に来い。」

師匠が声をかける。2人は師匠がいつから見ていたのか?と驚いた。

「はい、師匠。」

と冬哉は工房へ向かう。祖父はチラッと水瀬を見る。そして、ニッと笑った。水瀬はカーッと顔が熱くなった。祖父は水瀬の心の動きに気づいていたようだ。

「さすがおじいちゃん、参ったな」

と水瀬は頭をぽりぽりと掻きながら苦笑いをした。そしてハッとした。何、私ったら、待ってますなんて言ってたじゃない!と、自然と出た言葉だったが、思い出すと顔から火が出そうだった。

 工房に呼ばれた冬哉も、先ほどのやり取りに心臓がドキドキしていた。水瀬の真剣な瞳が何度も頭に浮かんだ。

 すると、師匠が、

「冬哉よ。お前さんの親切に、ついこちらも甘えてしまった。感謝しているよ。水瀬はああ見えて色々無理しとる。私に甘えることができなかったからな。申し訳ないとは思っていたがガラスのこととなると、つい、な。」

と、冬哉に頭を下げる。冬哉は驚いて、

「師匠、僕の方こそ、色々と教えてもらって、ありがたいんです。気にしないで下さい。」

というと、

「水瀬のこと、よろしく頼む。あんたは医者でもあるから、私は安心して任せられるよ。」

と、冬哉の手を握った。冬哉は嬉しかった。水瀬の祖父によろしくと言われ、認めてもらったも同然だ。それも尊敬する師匠に、だ。だが、自分の境遇を思うと、もちろん僕が守ります、と言えないでいた。少し困惑した表情を師匠は読み取り、

「水瀬じゃ、不服か?」

と、訝しげな顔をして見せる。冬哉は、

「とんでもない!光栄なことですよ。」

と焦る。すると師匠は、

「冗談だよ。あんたも若い。こんなじじいに頼まれたら、遺言みたいで驚くだろうて。」

と笑う。

「だが、本当に私に何かあっても、あんたや昴先生がいてくれると思うと、安心するよ。あの子は私がいなくなると天涯孤独だ。」

冬哉は2人の今までの事を思った。両親が亡くなり、水瀬と祖父と二人三脚で暮らしてきた。祖父の水瀬への思いは幾許か、水瀬にとっても同じだろう。

 冬哉は、自分がどこまで出来るかはわからないが、水瀬の力になることを、師匠と約束した。


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