第四章「開かれた扉」 第一話 騙す方が悪いに決まってんねん!(四)
(四)
「ふん、情けないのお。お前らは」
ふんぞり返っていた国松のおっさんが、立ち上がって文句を言った。
「こんなもんで固まっとって、どないすんじゃ、ワレ」
そう言って、刑事達を睨みつける。
「そんなんで、令和の警察を担えるんけ。おお?」
昭和の代表みたいなおっさんが、令和を背負った顔で喚いている。
「では課長は、この意味をご存知なので?」
後方の刑事から、声が上がった。
「ああ?誰にもの言うとんねん。当たり前やんけ」
《え、あの難しい仕組みが、分かってたってかぁ!》
俺は、あのカラオケパブに行けば、いつも演歌ばかり歌う国松のおっさんが、サイバー課の城戸七瀬巡査部長の説明を理解していることに、心底驚き、そして少し尊敬した。
「何て意味ですか。教えてください」
若い刑事が食い下がった。
会議室に一瞬の静寂があった。みな、おっさんの言葉を待った。
「英語や! 英語が書いてあんねん」
その瞬間、全員が別の意味で固まった。
《いやいやいや。おっさん、そのまんまやんけ》
英語が書いてあるって、そんなことは、ここにいる全員が知っとんねん。俺は心底落胆し、大いに軽蔑した。
山際のおっさんが、国松の肩を叩いた。
「お前、なに偉そうに『令和の警察』語っとんねん」
そう言う山際のおっさんの目には、明らかに侮蔑の光が宿っていた。
「おお、そうや。携帯電話の話やった」
そして会議は宇治川で見つけた携帯電話の話になった。
国松のおっさんによれば、押収された八台のスマホについて、科捜研で端末の解析が進められたらしい。
電源の入らない端末もあったが、基板に残っていた端末固有番号や、差し込まれていたSIMカードの情報、それに端末内に残っていたアカウントや通信履歴から、七台については持ち主を割り出すことができた。
契約者情報や使用されていた時期、保存されていた写真や連絡先なども照合した結果、その七台はいずれも今回の事件関係者が使用していたものではないことが確認された。
問題は、残る一台やった。
背面に、熊のシールが貼られていたスマホ。
端末から読み取られた固有番号を、四年前の柴田ゆかり殺害事件の捜査資料と照合したところ、当時ゆかりが使用していた端末の番号と一致した。
さらに、端末内に残っていたアカウント情報と電話番号も、当時のゆかりのものと一致した。
熊のシールは、あくまで最後の確認になった。
四年前、修一が警察に提出していた娘の写真。その中で、ゆかりが手にしていたスマホの背面にも、同じ熊のシールが貼られていた。
川底から上がった、女の子みたいなスマホ――。それは四年前に殺された柴田ゆかりのものやった。
隠れていた扉が、重く開いた瞬間だったのかもしれん。
捜査二課に寄せられていたライフ関連の被害相談、振込記録などから確認された被害額、そして今回解析された内部データを踏まえ、大迫真司と髙井正弘については、詐欺容疑で逮捕状を請求する方針となった。
また、すでに死亡している室田康太についても、川上優子に対する詐欺容疑で、被疑者死亡のまま送致する方向となった。
山根あかりについても同様に、合田雄二に対する詐欺容疑について、被疑者死亡のまま整理されることになった。
死んだ人間に逮捕状は出せへん――。けど、死んだからといって、やった罪まで消えるわけやないんや。




