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ホワイトピーコック&スパロウ  作者: マン太
その後

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32/34

その後 1.白玉


 縁側でアルーンに膝枕をしながら、笛の手入れをしていた時のこと。俺はふと、以前の疑問を思いだした。


「…そういえば──前、夜中に笛を吹いていた時、ここへ来てくれていただろ? 花を持ってさ」


「ああ…。そんなこともあったな…」


 アルーンは懐かしそうに目を細めた。

 すでに皇帝となり、俺も正式に后となったが、依然、俺の生活の中心は庵にあった。

 あちこちに侍従らの目のある宮殿の中は、やはり窮屈に思え。何か用事がない限りは、たいていこちらで過ごしてしまう。

 アルーンもそんな俺につられ、時間を作ってはこちらで休んでいた。もちろん、公務の時はあちらへ戻っていくが。

 今日も休憩時間を見計らってふらりと訪れると、縁側で笛の手入れをしていた俺の側で休みだした。当たり前のように膝の上に頭を乗せて。

 時々、手がでるのは──まあ、仕方ない。俺だって嫌じゃないし。

 アルーンはそれまで庭に向けていた顔を、上向けて。


「あの時は…どうにかリインの気を引きたくて、知恵を絞ったんだ。──それで花を贈ろうと…」


「あれ、嬉しかったんだ。粋だなって思ったし」


「それは、功を奏したな」


 アルーンは満足そうに笑んだ。


「──でさ。あの時、珍しい花があったんだ…」


「珍しい?」


「そう。あの季節には咲かない花だ」


「何の花だ?」


「白い…椿。あれ、寒い時期の花だろう? あの時は初夏だったし…。どこから持ってきたのかなって──」


「白い椿──置いた覚えがないな…」


 アルーンは首をかしげる。


「ええ? って、俺、覚えてるぞ。珍しかったからさ。満月の日で、それと花がかぶって、綺麗だなって思って……」


「──俺じゃないな…」


 改めて言う。


「……」


 ──じゃあ、誰が?


 そう思って、アルーンの顔を見下ろせば。アルーンはクスリと笑って、


「──まあ、いいじゃないか。リインの笛が誰かを喜ばせたんだから。──そのお礼の花だ」


「…だな」


 アルーンは手を伸ばして、俺の頬に指でふれてくる。それは、頬から唇へと滑っていった。


「…来週、長く時間が取れる。久しぶりに滝に行こう」


「おう。行こう!」


「そこで思う存分、吹くといい…」


「ん。だな。新しい曲も覚えたんだ──」


 そこへ、半身を起こしたアルーンが、俺の顎を引き寄せ口づけてきた。さらりとした銀の髪が頬に触れる。アルーンは間近で見つめてくると。


「…ありがとう。リイン」


「──へ…?」


 瞳がきらと輝いた。面差しはアルーンなのに、雰囲気がどこか違う。


 ──あれ? これって、あれ??


 何が違うのかと、まじまじと見ようとすると。


「──こら。ぼうっとするな」


「あ……」


 気が付くと、いつものアルーンが顔を覗き込んでいた。そうして、もう一度、口づけると。


「…時々、リインはどこか遠いところへ行くな。──まあ、すぐに戻って来るからいいが…。ほかに気を向けるなよ? ──精霊以外には」


「う、うん…」


 その精霊が問題なのだが。

 アルーンはそのまま起き上がって、俺の身体を持ち上げると、逆に膝の上に乗せてしまう。そうして背後から抱きしめてきた。


「お、おい! アルーン!」


「今度は俺の番だ。…少し休め」


「──わかった…」


 笛を一旦置くと、そんなアルーンの胸に背を預けた。こんな時間が途方もなく、幸せで大切だと思う。


「…花は、きっと精霊からの感謝の気持ちだ」


「──俺も、そう思う…」


 ──だって、今もいたから。


 ありがとうと、そう口にしたのは精霊だ。

 いつも見かけるあの人。アルーンであって、アルーンでない。どうもあの精霊とだけ、心を通わせることができるらしい。

 その事実は飲み込んで、アルーンの腕の中でまどろんだ。


 その腕の中で、夢を見た。

 透けるような銀色の髪をもつ精霊が、手に白い花を持って、柔らかい笑みを頬に浮かべている。

 そうしてそれを、流れる様な動作で差し出してきた。


『ありがとう…』


 俺はその花を受け取る。

 それは──ふっくらとした花びらを纏う、白い椿の花だった。



ー了ー

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