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ホワイトピーコック&スパロウ  作者: マン太
第六章 団円

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終章 

「よっ…と、もう、ちょっと?」


 俺は両手ひと抱え分はある岩を、よっこらしょと乗り越えると、目の前に現れた木の根のコブに手をかけた。

 先ほどからずっとこの繰り返しだ。一つ乗り越えても、また次がある。いつ終わるのだろうかと、ため息交じりに先を行くアルーンの背を見つめた。


「ああ、すぐそこだ。──ほら」


 笑んだアルーンが、手を差し伸べてくる。それにつかまって、コブを乗り越えた。途端、そこから先、景色が一変する。


「わあ…」


 思わず声が漏れた。

 開けたそこは、正面に岩場があって、その岩と岩が重なり合っている間から、幾筋も水が糸のように流れ出していたのだ。小さな滝が幾つも連なっているよう。

 アルーンが件の湧き水の出る場所へ、約束通り連れてきてくれたのだ。供のものは誰もいない。

 流れる水は、木々の間からの日差しをうけて、きらきらと虹をつくり輝く。周囲には蝶が飛び交い、緑の茂る木には鳥が止まり、今まで耳にした事がないような、軽やかな声でさえずっていた。


「はぁ…。綺麗だぁ…」


「だろ?」


 並んで立ったアルーンは自慢げだ。俺は暫く呆けてその景色を眺めていたが、我に返ると、早速背に差してきた龍笛を取り出し。


「──な。ここで吹いてもいいか? すっ──ごく吹きたい気分なんだ…」


 期待を込めた眼差しをアルーンに向ければ、苦笑を浮かべ。


「──いいさ。好きなだけ吹くといい。…きっと喜ぶ」


「なにがだ?」


「…こっちの話」


「ふうん?」


 そうして、俺は丁度いい所にあった岩に腰かけ、横笛の唄口に唇を寄せる。澄んだいい音が出た。


 ──うん。気持ちいい…。


 そうして、アルーンは好きなだけ、俺をそのままにしておいてくれた。



 かなりの時間、そこにいたと思う。

 着いた時は朝も早い時間だったのに、今はきっと昼に近い。


 ──俺、どれだけ吹いてたんだ? 


 慌てて周囲を振り返り、アルーンを探した。けれど、その姿が見えない。

 それどころか、滝の前に座っていたのが、いつの間にか見知らぬ岩場に座っていることに気が付いた。

 周囲を緑が取り囲み、天からはどこから流れてきているのか、水が幾筋も柱のようになって流れ落ちてくる。不思議な事に音はない。


 ──ここは、どこだ?


 と、ふいに鳥が鳴いた。その声に弾かれるように顔を向ければ──。


 ──アルーン?


 緑に溶け込む様にそこにアルーンがいた。

 銀糸の髪がなぜか透き通り、背後の新緑が透けている。口元に浮かぶ微笑。額には銀の冠をつけている。着ている衣装は白く。やはり背後の新緑が透けていた。


 ──いや。似ているけれど、アルーンじゃない…。


 初めてアルーンを見た時にも、ガナアの屋敷で侍従と相対した時にも見た。


 ──もしかしたら、俺の気付かないところでも──。


『祝福を──』


 微笑んだ口元は動いていないのに、頭にその声が響いた。


「──リイン?」


 はっと、その声に我に返る。


「…アルーン?」


 俺は目の前にアルーンがいたことに気付いた。


「どうした? 暫くぼうっとしていたが──」


「ああ、うん…。なんか、不思議な場所にいた…。それで、アルーンに似た人がいた…」


「俺に?」


「うん…。前にも見たことがある人だ…。アルーンと初めて会った、あの小川の傍で…。ほかにも──」


 確かにあの時の人と同じだと思えた。いや、あれは人ではない。


 ──きっと。


 すると、アルーンはどこか遠くへ思いを向けるようにして。


「…俺の、ラマアーン家の祖先は、精霊だと言う。昔は、人も精霊も大きな隔たりはなかったとか…。──もしかしたら、それは過去の俺かも知れないな?」


 悪戯っぽく笑うアルーンに、俺は腕組みすると。


「うーん…。本当、そうかも知れない…」


「俺は──リインがそう見える…」


「俺?」


 驚いて問い返す。


「俺にとって、リインは精霊に等しい。──いや、きっとそれ以上。…唯一無二の存在だ」


「…ただの人だけど?」


 冗談めかして言えば、アルーンは笑って。


「ただの人じゃなきゃ、出会えなかった…。リインはリインのままでいい。──愛してる…」


 アルーンの大きな手が頬をすべると、俺の頬を引き寄せる。銀の瞳と目が合って。かがんだアルーンはそのまま口付けてきた。優しい口付けだ。

 幸せだなと、思う。

 少しだけ離し、こちらを見つめると。


「──ここじゃ、これ以上できないな。帰ろう…」


「…帰っても、まだ明るい」


 城に着いた所で、まだ日は落ちていないだろう。

 俺たちの関係は、少し進んで形を変えた。友人であり、よき伴侶であり。互いに求めあう存在に。


「頼むから、つれないことを言わないでくれ。──きみに触れるだけで、俺は幸せになれるんだから」


「……わかった。ほんっと、上手いんだから」


「嘘は言ってない。──ほら、行こう」


 アルーンは微笑む。その笑みが、先ほどの人と重なってドキリとしたが──。それは、口には出さずそっと胸にしまった。

 それから手をつなぎ、水の湧く滝を後にした。


 それからも、訪れるたび、笛の音は滝に響いた。その度に、彼の人の存在を感じる。


 ──それが誰なのか──。


 分からずとも、それで良かった。ただ、彼の人へ感謝の気持ちを込めて。


 ──あなたに、祝福を。



『ありがとう…。私の──神子』



ー了ー




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