表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホワイトピーコック&スパロウ  作者: マン太
第六章 団円

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/34

29.戴冠式

 その後、盛大に新皇帝アルーンの戴冠式と、新たに后となったリインのお披露目が催された。

 列席者には、前皇帝マシュリク、ウイラ国王であり神子のカセムとその家族、また、今日ばかりは親族として参加したルンを始め、イサクやアトフの姿も見える。

 宮殿の中央にある広場は民に開かれ、皆が見ることができた。城下の民に交じり、河原の住人や鉱夫の姿も見える。

 また、他国の人々も大勢参加していた。特にウイラからの民は多く、その大半が訪れたのではないかと噂されるほど。

 白の絹地に銀の縫取りのある衣に包まれ、銀の髪に冠をいただいた新皇帝アルーンの傍らには、ウイラで作った水色に銀糸の縫取りのある衣装を身に着け、薄い紅色をした髪を結ったリインが立つ。

 その髪には、銀の冠のほかに緑の翡翠でできた(かんざし)が挿してある。それは折れた櫛の部分を、アルーンの指示で直しを加えたものだった。


「──今日の善き日を、皆で祝おう」


 新皇帝となったアルーンの一声に、歓声が湧き上がる。祝福の声だ。

 それが合図となって、祝いの宴が始まる。楽士が(そう)を爪弾き、(しょう)を、横笛を奏でる。踊り手が扇を舞わせ、長衣の裾を翻す。

 皆が頬を紅潮させ見つめた。その最後にリインが龍笛を吹く。

 中央に設えた舞台、誰もが見える場所に立ち、今日のめでたい日を寿(ことほ)ぐ。

 吹いたのは、遥か昔から、ウイラに伝わる、今は名も忘れられてしまった者が作った曲。幸せを願う曲だ。

 それは、誰もが認める、神子の祝福だった。


 鳥が歌い、蝶が舞う。

 薫風が吹き抜け、雲が光彩を放つ──。


 その音は、蒼天のもと、果てなく響き渡り。

 遠く、精霊の住まう天界にまで届くようだったと言う。



「いい式だったな?」


「…ああ。皆、リインの笛の音色に聴き入っていた。いい曲だった…」


「アルーン…。俺は『いい式』だったと言ったんだ。──俺の笛の感想は聞いてないぞ…」


 諫める様にそう口にすると、アルーンの顔を振り返って見上げる。

 なぜ、そこに顔があるのかと言えば、俺を背後から抱きかかえているせいだ。

 月の光が差す庵の縁側、俺とアルーンのほか誰もいない。気兼ねする必要はなかった。


「リインの為の式だ。俺の戴冠など、おまけに過ぎない──」


「おまけって…。大国ファジルの皇帝になったんだぞ? どれだけ大きな事だと思ってるんだ?」


「…俺は、リインが欲しかっただけだ。だから、帝位も継ぐと決めた──」


「……え」


 今更ながら、驚きの告白だ。すると、アルーンはくすりと笑って。


「初めてリインと出会ったあの日。父から聞いた。新たな皇帝の后に、ウイラから王子をもらう話になっていると…。──俺はリインが欲しかった。だから、応じた」


「……てか、そんな前から…。そんなに…?」


 俺が知る前から、知っていて、俺をずっと待っていたのだ。


 ──それって。なんか……。


 体温がぐぐっと上昇する。


「やっと手にいれた…。──二度と手放さない」


 そう言って抱きすくめると、肩口に頬を埋めてくる。くすぐったいが、心地良い。アルーンの腕の中は温かく、とてつもない安心感がある。

 俺は前で組まれた、アルーンの腕をぽんぽん、と軽く叩き。


「…俺はずっと傍にいるよ。離れたりしない──」


「当たり前だ。──そんなことを仕様ものなら、地の果てだろうと、どこまでも追いかけてやる…。──覚悟するがいい」


 口にした言葉は、空恐ろしいものなのに、腕は優しく抱きしめてくるし、耳や首筋に幾度も甘く口づけてくる。


「まったく…。困った『皇帝』だ」


 苦笑を漏らせば、


「皇帝など──関係ない…。リインが俺のものの様に、俺もリインのもの…。リインだけのものだ…」


「アルーン…」


 俺は背後を振り返る。


「──好きだ、リイン…。──俺を、受け入れてくれるか?」


 それまで埋めていた顔を起こし、ひたとこちらを見下ろしてくる。瞳は熱を帯び潤んでいた。言葉より強く、受け入れて欲しいと訴えてくる。


 ──まったく。


 俺は、高鳴る胸を意識しながら、


「…欲しいのは、アルーンだけだ。──俺で、いいなら…」


「──リイン…っ」


 切なく、名を呼ばれ。

 俺は覆いかぶさってくるアルーンを、自らも腕を伸ばし掻き抱いた。銀糸が、さらりと手に触れる。自然と、笑みがこぼれた。


 ──ずっと、傍らに。


 中天に月が浮かぶ。その淡い光が、そっと降りそそいでいた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ