活動家、作戦実行
小麦粉は手に入った。これで粉塵爆発を起こすことができる。
粉塵が長時間空気中に漂う低重力のここの環境は粉塵爆発に適している。
小麦粉の場合、爆発下限濃度は、1立方メートルあたり約40グラム。これは地球の場合なので、40グラムはここでは7グラムくらいに感じる。男は手に入れた小麦粉の袋を手に取る。これだけの小麦粉があれば少々の広さでも対応できる。キッチンスケールはないが、スマートデバイスの重量計アプリを使えば問題ない。
それなりの量の小麦粉を宇宙船に持ち込むのはさすがに目立つし怪しいだろうと思い現地調達すればよいと考えていたが、購入履歴を調べられると、観光客の私が真っ先に容疑者にされるだろう。変装して購入するつもりではいたが、スーパーマーケットでの購入を避けられたのはついていた。
公園通りにも、もちろん防犯カメラ、監視カメラはある。が、いずれも高い位置にある。
タコ焼き屋の屋台は、雨が降らないここでも日本のものと似た造りで屋根があり、『たこ焼き』と書いた天幕のようなのが通りに突き出している。この形状により、屋台のカウンター部分はカメラからは死角だ。
その死角に小麦粉の袋がたまたま複数置かれたというのは運がいいとしかいいようがない。あの男には感謝しないとな。
さて、粉塵爆発の前に、前回失敗したゴミ箱の件を再実行することにするか。時限式発火装置の予備はもう一つある。今度こそゴミ箱を派手に燃やしてやる。
改めてテストしてみたが装置は問題なく動作する。前回失敗したのは、後から捨てられたゴミの影響だろう。重いものを放り込まれて損傷したとか、水分の多いゴミが周りにあって火がすぐに消えてしまったとか、たぶんそのあたりだろう。
次は発火装置を紙の箱の中に入れて周りを燃えやすい緩衝材で覆うことにしよう。そうすればすぐに着火し大きな火ができるので、他のゴミの影響も小さいはずだ。
前回はゴミがある程度溜まったタイミングで発火するよう、発火装置を捨ててから着火まで50分あけたが次回はどうしたものか。失敗のリスクを下げるため10分程度で発火させるか。いや、通りのゴミ箱はどこも監視カメラの視界の範囲だし特定される可能性が上がるか。トイレのゴミ箱なら監視カメラもないがトイレは最初にやったし、公園通りのような人目に付くところで派手に燃やしたい。
やはり、前回同様、回収まで50分の時点で発火装置を放り込み、40分後に作動させることにするか。ゴミ箱のゴミはダストシュートで定期的に回収されるが、燃えているゴミ箱からは回収されず長時間燃えるかもしれない。消火ドローンがすぐに飛んでくるかもしれないが、まあそれはそれで目立ってよいだろう。
男は部屋のゴミ箱からお菓子のパッケージを回収し、発火装置を入れる紙の箱を組み立てる。ちょっと小さ目にし、強度を上げるために箱の四隅の部分に折った紙を柱のようにして貼り付ける。そしてティッシュや紙を細かくちぎって発火装置と一緒に箱に入れる。さらにその箱を紙袋に入れ、追加でちぎった紙きれを入れて緩衝材にする。もちろん、念のため指紋はつけない。
よし。準備はできた。
ホテルの部屋を出て公園通りに向かう。ごみの自動回収の時間は確認している。公園通りの場合、今の時間帯は1時間に1回だ。後5分ほどで回収されるから、それから10分後に袋を捨てることにしよう。鞄から取り出した「ゴミ」を捨てるのは怪しまれる可能性があるので、ストリートフードを買って食べ、そのゴミと一緒に捨てることにする。
ゴミ箱に発火装置入りのゴミを放り込み、仕込みは完了。様子を見ていたいが、無関係を装うためにもここから離れる方がよいだろう。50メートル程先の噴水広場まで移動する。
コーヒーをちびちび飲みながら待つこと40分、もうそろそろか。
何も起きない。警報も騒ぎの声も何も聞こえてこない。
それから10分、15分、20分経つが何の騒ぎも起きない。
また失敗だと? いったいどういうことだ。二回続けてほかのゴミの影響で燃えなかったのか? いったいどんなゴミを捨ててるんだ、クソ観光客が。
くそっ。まあ、失敗したものは仕方がない。粉塵爆発に注力するか。
☆ ☆ ☆
中古屋を営んでいる男、デレク・コーエンは公園通りのたこ焼きの屋台に来ている。男の友人がやっている屋台で時々手伝っているのだ。今日は屋台の屋根が傾いているということで直しに来ている。
「こんな感じかな」
たこ焼き屋の看板を兼ねたのれんが通りに突き出しているが、これを支える棒が折れており、この影響で傾いていたのだ。
「このリサイクル素材、たぶん材質にムラがあったんだろうな」
デレクが説明する。ここではゴミをリサイクルした物資が広く使われているのだ。
「昨日の閉店の際にちょっと手荒にあつかっちまったかな。どうも、いつもありがとうございまーす」
客の相手をしながら答える店主。
「ダクトテープで補強しようと思ったんだが、持ってきた棒がちょうど使えそうだったんで交換しておいたよ」
そういうと、途中で折れている棒を持ち上げる。
「商売繁盛だな」
屋台にできている行列の方を見るデレク。
「価格据え置き1個増量セールが好評でね。はいどうぞ、ありがとうございまーす」
いつもは6個入りだが、その上にたこ焼きを1つ積み重ねたトレイを客に渡す。
「ん? ずいぶん長い楊枝だな」
デレクが屋台に置いてある楊枝を指さす。
「え? ああ、焼き鳥用のが安売りされててね。はいどうぞ、毎度ありがとねー」
「なるほどな。手伝おうか?」
並んでいる客を見ながらいうデレク。
「今日は大丈夫だ。いつもありがとな。はい、どうぞー、ありがとうございまーす」
「じゃあまたな」
デレクは屋台を離れる。
ふと通りを見ると、ゴミ箱を調べている清掃局の職員が目に入る。職員もデレクに気が付く。
「こんにちは。そこの屋台の人?」
「まあ、友人がやっているんですけどね。どうしました?」
職員の方に向かう男。
「シューターがこのゴミ箱で機能してないので調べに来たんですよ」
「ほう。詰まってるんですかね」
「ええ。長い串とたこ焼きのトレイがたくさんあって、絡むような感じで引っかかってるんですよ」
職員がゴミ箱の中を指さす。
デレクは中を覗き込む。
「ああ、これはそこのたこ焼き屋で使ってるやつですね」
「そういうことですか」
「ええ。今日はよく売れてるそうで。あ、これで押し込みますよ」
そういうとデレクは屋台から取り外した折れた棒でゴミを何度も強く押し込む。ぼきぼきと焼き鳥の串が折れる音がする。
「助かります」
職員はそういうと手元の端末を操作する。
ゴー、という音がしてゴミがシューターに吸い込まれていく。
公園通りのゴミ箱のゴミはシューターを通じて回収される。ゴミはシューターの中を時速80km程度で移動し、パイプが向きを変えるところではゴミはパイプにぶつかりながら進んでいく。発火装置はこの衝撃に耐えられないが、中古屋の男が使った棒によって装置は既に破壊されていた。




