柚子山星司
「うわっ」
スリーポイントラインのあたりで柚子山星司は体勢を崩しよろめく。
強引にペイントエリアに切り込む相手に体をぶつけられたのだ。両腕を上げて後ろに一歩後退し、突き飛ばされたとアピールするが、審判はファウルを取らない。見てなかったのか? 幸いシュートまで持ち込まれたもののゴールは決まらず、味方がリバウンドを奪う。
攻撃に切り替わったので、柚子山はゴールに向かい走り出す。
センターラインを超えたあたりでパスを要求。パスをキャッチし、ディフェンダーをかわしてスリーポイントライン手前でドリブルしながら味方の動きを確認する。動き回る味方の中に、エンドラインのあたりからペイントエリアに侵入していく奴がいる。柚子山はすぐ近くにいるディフェンダーの左側に体を押し込み、もう一人のディフェンダーの股下を狙いパス。ワンバウンドしたボールが味方につながる。そのままリングの下を通過しレイアップシュート。決まった。
ディフェンスに戻る柚子山。
「柚子、ボール持ちすぎ。もっと早く回せ」
味方のポイントガードが柚子山に向かって不満そうにいう。
あれで持ちすぎなのかよ。ったく。
「得点できたんだし、問題ないでしょ」
ディフェンダーの股下を通したパスからシュートが決まるなんて、観客がいたら歓声が上がったはずだ。
このパスを含めると、今日のゲームでかっこよく決まったパスは4本、内ノールックパス2本。まあ、良し、としよう。後はみんなが望む通りに普通のプレイを心がけるとするか。
試合は勝利。結局きれいに決まったパスは4本だけだが、かっこいいシュートを4本決められた。勝ったこと自体は悪くはないが、僕としてはこういった、そう、エレガントなプレイが十分にできれば勝ち負けはどうでもいい。もちろん、そんなことはチームメイトには一言もいわないけど。
柚子山はそんな感じでプレイを続けていたが、新たに入ってきたコーチはチームプレイにこだわりスタンドプレーには批判的だ。そんなプレイは10年早い、やりたければプロに行ってからにしろ、というのがそいつの言い分だ。中学生は基本に忠実に、チームプレイを心がけろということだ。そんなわけでつまらない練習とつまらない試合が続き、結局バスケットボールからは距離を置くようになった。
とはいえ、バスケ自体は好きなので高校生になってバスケ部には入った。
中学よりは多少自由にプレイできるかと思ったが、それなりの強豪校だったこともあってここでもチームプレイが徹底された。それに強豪チームだと1年生は毎日基本の練習やボール拾いばかりで試合に出る機会もほとんどなく、退屈だった。
そんな高校生活が始まった最初の夏、両親の仕事の関係で海外に引っ越すことになった。海外どころが地球の外、月面にあるヘイワース市だ。
ヘイワース市は地球外では最大の都市で人口は9万。高校もある。国際都市だけあって新学期は9月からということで、これに合わせて転校することになった。
月面といえばムーンバスケットボールが知られている。バスケをやっている人間ならだれでも知っているし関心がある。
柚子山はもちろんバスケ部に入った。空間的なプレイエリアが広く、パスがより重要であることにすぐに気づいた。勝手が違うので最初は戸惑ったが、このスポーツは楽しい。プレイできるのが月面だけ、というのが残念なところだ。地球軌道のステーションでも遠心力を調整すればできそうな気もするが、コリオリの力が影響し、まともにプレイできないという話を聞いたことがある。となると、長くプレイするには月面の大学への進学もまじめに検討した方がいいかもしれない。
短い高校の3年間、この楽しいスポーツの試合をできるだけ多くやりたい。
そんなことを考えていた時に中山がチームを作るという話を聞いた。目的は一試合でも多くプレイしたいからだという。これは乗るしかない。




