クレーターズ戦、その5 第2クォーター
点差がなかなか縮まらない。
監督もこのままではまずいと思ったのか、メンバー交代で流れを変えようとするようだ。
柚子山がさがり黒田が入る。黒田は月に来て5年目、バスケ部ではレギュラーになれなかったが、ここの中学からバスケやってる経験者だ。ちょっとシュートの精度は低いような気はするが、ここの重力への慣れは浅井より上だ。
ドリブルしながらゴールの方に向かっていた黒田が、センターラインを越えたあたりで高くジャンプする。地球のバスケでは誰もこんなことはしないが、高い位置でパス回しをするムーンバスケットボールではよくあるプレイだ。
ゴールに向かって左側、スリーポイントラインのあたりでジャンプしている中山にパスが通る。大きく曲がるボールで、中山へのパスを防ごうとジャンプしていたディフェンダーをかわし中山にパスが通る。中山のスリーポイントシュートを防ごうと、別のディフェンダーが中山とゴールの間でジャンプしている。
浅井は、近くにいたディフェンダーをかわしペイントエリアに駆け込みながらジャンプし中山にパスを要求する。中山からのパスが浅井に通る。浅井は最高到達点に達し体の上昇が止まったところでシュートを放つ。ボールは小さな放物線を描きゴールに吸い込まれる。決まった。
柚子山が交代した後、更に永江がさがりバスケ部のミカ・コルホネンが入る。彼はフィンランド出身だが漫画オタクで日本語はペラペラだ。それと、バスケがうまい。
うまいのにメンバーに選ばれなかったのは、彼によれば監督に嫌われたからだそうだ。バスケ部のやつによると、練習はよく休むし来ても遅刻が多く、監督が規律に厳しいこともあってその不真面目さが原因で補欠になったということだ。まあ、確かに彼は練習にはいつも遅れてくるし休むこともあるが、こっちの監督は規律に厳しくはない。
彼はドリブル突破がうまい。低重力のここでは、広い空間を利用した空中でのパス回しがメインで、ドリブルはあまり重視されていない。そのためか、相手も低空飛行でボールを運ぶ彼をマークできていないという感じだ。
低重力で速く走ったり急に方向を変えるのにはコツがいるが、彼は体を高く浮かび上がらせることなく低い高度をうまく維持し移動するし、摩擦力が低く滑りやすい床を強く蹴って素早く方向を変える。これら技術により、ムーンステップが面白いように決まる。ムーンステップというのは、地球のバスケのテクニック、ユーロステップの月面版だ。
地球のユーロステップは、ドリブルからシュート体勢に入る際、ボールを手に持ち正面にいるディフェンダーの右方向に1歩目、2歩目は反対の左側、のように踏み出してディフェンダーをかわし突破するテクニックだ。
ムーンステップは、このユーロステップの歩幅を大幅に大きくしたもので、ステップというより短距離飛行だ。ここは摩擦力が低いし移動距離が大きくなるので他のプレイヤーの位置の把握も必要だが、彼はうまくやっている。チームに入って日が浅いし練習にあまり来なかったから知らなかったが、これはうれしい驚きだ。相手も低い位置でボールを運ばれることに戸惑っているようだ。
ミカ・コルホネンのムーンステップからのシュートが決まり、第2クォーター終了のホイッスルが鳴る。ハーフタイムだ。
50対69
19点差。点差は1点縮まっただけだが、30点取れた。これは監督の采配に効果があったといえるかも。




