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地球から一番遠い教室で  作者: 草川斜辺


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クレーターズ戦 その1 試合開始

いよいよコペルニクス・カップの予選ラウンド開始だ。

予選ラウンドに参加するのは24チーム。6グループ、各4チーム、で戦う。

予選を突破しグループリーグに進出できるのは、6グループの1位6チームと、各グループ2位の内、勝利数、得失点差、総得点の多い上位2チームの計8チームだ。


浅井らのチーム、セレニティ・ラビッツはグループD。

最初の相手は、2年前にグループ2位で予選突破している地元アルテミス工科大学の同好会チーム「アルテミス・クレーターズ」だ。昨年もグループ2位だったが予選敗退。大学生のチームなのでメンバーの入れ替わりはあるが2年前のメンバーがまだ何人か残っているはずだ。手ごわい相手だが、最初の試合だし2勝は必須なのでなんとしても勝ちたい。


2戦目は地元同好会チーム「7th(セブンス)ブロック・ルナリアンズ」。街の第7地区に住む中年のおっさんがメインのチームで予選突破実績はない。ここは絶対勝たなければいけないチームだし、得失点差を考慮すると大差で勝ちたい相手だ。


そして3戦目の相手は地球のチームで昨年予選突破している「カリフォルニア・ムーンロケッツ」。

毎年この大会のために遠征してきている。昨年は強豪とあたったこともあってシードを逃し今年は予選から参加だが、ここに滞在経験のあるプレイヤーをそろえていて、アメリカのプロバスケリーグNBAの元プレイヤーもいる。このチームがこのグループでは一番強く、全勝して1位になる可能性が一番高いチームだ。このチームに勝つのはかなり困難なので、こことの最終戦までに2勝していないとまずい。2勝して最終戦を迎え、そしてここで負けるにしても、大差で負けるわけにはいかない。つまり、ぼくらのチームは2勝1敗でグループ2位を狙っている。そして得失点差は過去事例から15点以上とし、6グループ2位の中で上位2チームに入ることを目指しているのだ。


これまでやったことはないが、予選ラウンド初試合、なんとしても勝つ必要のある試合ということで円陣を組む。なお、試合会場は我が高校の体育館、ホームゲームだ。クラスメートも大勢応援に来てくれている。


「みんなっ! 私たちの初めての公式戦、そして第一戦、思いっきり行くよー!」

「はーい」

「おー!」

「もちろん」

「OK」

「あぁ」

「そうだな」

「りょーかい」

円陣を組んだ僕らは監督の本條莉奈(ほんじょうりな)の言葉に反応するが、みんなばらばらで声も小さい。


「相変わらずよねー」

本條があきれている。

まあ、それがぼくらのチームだ、と浅井はこれまでのチームの雰囲気を思い出す。

「大丈夫。みんなやる気はあるから」

浅井は監督にそう声をかけ、先発メンバーとしてコートに入る。


センターサークルに入る浅井。ジャンプ力を買われジャンパーを担当するのだ。

センターラインを挟み、相手チームのジャンパーと対峙(たいじ)する。見たところ、細身の男で身長は185はありそうだ。いかにもバスケプレイヤーという感じだ。身長では負けているが、ここでは身長よりもジャンプ力がものをいう。


プレイ開始時、地球のバスケと同じように審判がボールをトスアップするが、地球ではあまり意識することのないトスアップのルールに注意が必要だ。


まず、審判がボールを上げる際、ジャンパーが届かない高さまで上げるというルールがある。これは審判が従うルールだが、ここでジャンパーが届かない高さというと8メートル以上の高さだ。目安としては7.7メートルの高さにあるゴールリングだが、ここでもダンクを決められるやつはいるから、バックボードよりも上までトスされる。


これほどの高さだと真上には上がらず横にずれることがあるので、ボールの軌道の見極めが重要だ。練習試合だと、結構横にずれてしまってジャンパーが触ることができずやり直すこともある。公式戦ではそんなことはないと思うが。


次に、ジャンパー側のルール。

ジャンパーがトスアップされたボールに触っていいのは、ボールが最高点に達した後、とされている。低重力のここでは、ボールの上昇速度が減速し頂点に達して停止するまでが長い。思いっきりジャンプすると、タイミングによってはボールが最高点に達する前に触ることができるのだが、触るとファウルだ。

それと、落下し始めのボールは動きが遅く止まっているように見えるが、ここでボールを両手でつかんでしまうとファウルだ。ボールは片手または両手でタップ、つまりたたくのがルールだ。地球では意識することのないルールだが。


その他のプレイヤーは、ジャンパーがボールに触るまでセンターサークル内には入れないというのも地球と同じだ。ボールは7メートル以上の上空でタップされるので、これをキャッチするために何人かのプレイヤーはジャンパーに続いてジャンプすることが多い。


事前の打ち合わせでは、コペルニクス・カップの審判のトスが大きく横にずれることはないと信じ、トスした瞬間に思いっきりジャンプする。練習試合とかだと、ボールの軌道を見極めるため、一瞬ジャンプするタイミングを遅らせることも多いが。

そして、先にボールに到達した場合は、ジャンプしている味方に向かってタップする。うまくいけばそのまま速攻で先制点を決められる。


審判がボールを頭の上に持ち上げトスアップの体勢にはいる。

浅井は膝を曲げジャンプの体制をとる。相手のジャンパーも膝を曲げる。


ボールがトスアップされると同時に浅井はジャンプする。

相手は一瞬遅れてジャンプしたと思ったら、その後すぐに体の斜め下から衝撃を感じる。


体当たりされた? 偶然か?

低重力のここではちょっとした衝撃でも上昇の軌道が変わる。

ボールの行方を目で追う。相手の方がボールに近い。ここからでは浅井の手はボールに届かない。


ボールが頂点に達し落下を始めた直後、相手がボールを斜め下に向かって強くトスする。

味方はもちろんそのボールに手は届かない。ジャンプしていた相手チームのメンバーにボールが通る。そして、ゴールに向かって走っているやつにボールがパスされれう。味方ディフェンダーがゴール下に向かうが追いつけず、敵の速攻が決まる。始まって数秒で失点だ。くそっ! こっちがやろうとしていたことをやられた。


「すまない」

浅井は中山に声をかける。

「体当たりされたな」

「やっぱりそうか」

「まあ、気にすんな」

練習試合ではあまりラフプレイにあうことがなかったが、大会となるとやはり違うな。ムーンバスケットボールは空中戦が多いが、空中での接触はあまりファウルは取られない。


「始まったばかりだよー」

監督の声が聞こえる。

その通りだ。


ボールは既に味方がスローインし、永江(ながえ)がドリブルしながらゴールに向かっている。

浅井は気を取り直す。これからだ。

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