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地球から一番遠い教室で  作者: 草川斜辺


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中山恵一郎

ヘイワース高校、男子ムーンバスケットボール部の部員は45名。ここでは一番人気のスポーツだけあって、生徒数の割に部員は多い。ただ、月面の高校はヘイワースの他には中華学校の高等部しかないので、高校生だけの大会はない。


大会はないが、両校の間で新人戦と交流戦がそれぞれ年1回行われている。交流戦では両校が2チーム作っての総当たり戦と、主力1チームによる対戦が高校としての最大のイベントだ。対戦成績はトータルではほぼ互角だが、ここ数年ヘイワース高校は連敗している。


コペルニクス・カップは大会ルールで一つの高校からは1チームとされているので、ベンチ入り12名、33名は補欠だ。


3年の中山恵一郎(なかやまけいいちろう)は1年からレギュラーで出場。高校生活最後の今回ももちろんレギュラーで出場できる。高校生チームとはいえ、大学生や社会人チームともそれなりに戦えるチームだ。ここ数年はグループリーグで良い成績を残し、次の大会では予選ラウンドを免除されている。


「うちのいい選手揃えて総力戦でやるのが定石だろ」

「いや、おれはフル出場したいんだよ」

中山がいう。

「練習試合ならまだしも、コペルニクスでは無理だろ」

「そうだよ。大イベントだからな」

いわれていることはもっともだ。中山は腕を組み不機嫌な表情で考え込む。


「さらにいうと、予選ラウンドに出たい」

「はあ?」

「一試合でも多くやりたいんだよ」

中山の言葉にあきれ顔のバスケ部員たち。


「予選って、補欠かき集めてBチームつくらないと無理だろ」

「いや、高校からは1チームしか出れないからそもそも無理」

「じゃあ、予選からってのが無理じゃねーか」

「チーム作って一般枠なら可能だな」

「いや、たしか一般枠も何か規定があったよ。年齢制限は高校生ならクリアできるけど、試合歴のあるチームとか何かなかったか?」

「急造チームは無理ってことか」

「いや、練習試合とかの数戦の実績でよかったんじゃないかな。参加しやすいようにルールは緩かったと思う」

「おまえはベンチに入れるんだから、そこで勝ち進めば何試合もできるじゃないか」

「何試合も、っていってもな...」

手に持ったボールを見つめる中山。


ヘイワース高校は中山が入学したころから予選免除なので、予選ラウンドの経験はない。グループリーグは各4チームの4グループなので、試合数は3。決勝トーナメントに進出したことはあるが、これまで一勝しかしたことがない。


「せいぜい5試合だ」

中山は手に持ったボールを人差し指の上で回転させる。

「それにフル出場できない」

顔を見合わせるバスケ部員。


中山は5歳で月に越してきた時からムーンバスケットボールをやっている。子供の頃はもちろんミニバスケットボールだ。ミニバスケットボールとバスケットボールは似ているが細かいところでルールが異なる。子供向けにゴールがちょっと低かったりコートが狭かったり、メンバー交代のルールがちょっと違ったりする。


第1クォーター、第2クォーターでメンバーが総入れ替えになるので、ミニバスケではフル出場できない。バスケが得意だった中山はこの交代が我慢ならなかった。試合の回数が少ない上に出場時間も短くなる。参加人数が少ない練習試合ではずっと出場できたので、メンバーが練習を休むと嬉しかったものだ。


中学生になってからはフル出場が可能になり中山はほとんどの試合でフル出場したが、中学生も小学生と同様に生徒は少なくて大会はなく、中華学校との年1回の交流戦と体育の授業くらいしか試合はなかった。


高校生になると生徒も増え、中華高校との親善試合、大学生や社会人チームを相手に試合の機会も増えたが、その代わりフル出場できる試合はほぼなくなった。コペルニクス・カップという大きな大会にも出場ができるようになり、本気の試合ができることはうれしいが、あと多くても5試合程度しかできない。


高校卒業後は地球の大学に進学する予定だ。地球に越したらそう簡単にはここには来れない。なので、ムーンバスケットボールの試合ができるのは、このコペルニクス・カップが最後なのだ。


「俺、休部するわ」

中山はそういうと、驚いた顔の部員を残し部室を出る。

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