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地球から一番遠い教室で  作者: 草川斜辺


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初デート! その6 特別な場所

公園通りにいたのは30分程度。

店を見て回るのも話題がなくなったので、通りの屋台で飲み物を買ってベンチに座り20分。浅井の想定ではここまで1時間だったが、会話がもたなくなったので10分早いが美術館に移動することにした。


美術館は小規模ではあるが1時間30分使うことができた。教科書に載っている有名な作品がいくつもあったので、何とか会話も続けることができたのだ。


実際、地球の1/6という重力のここでないと存在できない彫刻作品は、今にも折れそうで見ていてはらはらした。そういった興味深い作品がいくつもあったので会話が続いたのだ。藍崎華瑠奈(あいざきかるな)が中学生時代の美術の時間で作った作品の話もあって、当初予定していた1時間以上を過ごすことができた。


ここまで2時間半ほど。レストランの予約時間まで、あと2時間半だ。どうしようか。浅井は考える。映画を見るという手もあるが。


「ちょっと行きたいところがあるんだけど、いいかな?」

浅井が映画に行くことを提案しようとしたところで、藍崎がいう。

予想外の提案に驚く浅井だが、断る理由はない。どこに行くにしても映画よりはよさそうだ。

「もちろん。6時にスーパーボウルのレストランの予約してるから、それまで戻れるなら」


「地下鉄に乗るんだけど、6時なら大丈夫」

そういうと駅に向かって歩き出す。

「どこに行くの?」

「ついてからのお楽しみ」

ちょっとほほ笑む藍崎。


「へー。地元民しか知らない穴場とかかな」

「そんな感じ。今月末で公開が終わるんだよね」

期間限定か。何なのだろう。何かの展示かな。


地下鉄に乗り到着したところは終点の駅。浅井の自宅の最寄り駅も始発駅だが、その反対側の終点だ。

「こっち側の終点に来るのは初めてだよ」

「こっちは住宅も商業施設もないから」

となると、どこに行くのだろう。このあたりは宇宙港にも近いから、その関連施設でもあるのだろうか。そんなことを考えながら浅井は藍崎についていく。


通りは人通りがなく案内板らしきものはあるが、まだ何も表示されていない。長く工事中だったエリアが、ようやく一般人も通れるようになったという感じか。

「なんか、観光客どころか地元民もいないみたいだけど」

「うん。そこを曲がったところが目的地」

通路の突き当りを右に曲がる。数十メートル先で行き止まりだ。


「ここ」

藍崎が指さすのはエアロック。

「え? これって、エアロックだよね」

戸惑う浅井。

「うん」

藍崎はそういうと扉横のパネルを操作する。エアロックが開く。

「え? ちょっと...」

「入って」

そういうと藍崎がエアロックに入っていく。躊躇(ちゅうちょ)する浅井。

「えっと、エアロックってことは、外に出るところだよね」

「うん」

藍崎がほほ笑んでいるということは何かありそうだが。


「大丈夫だから」

地元民がいうからには問題ないのだろう。エアロックに入る浅井。中は広いが、宇宙服が用意されているということもない。

通路側の扉が閉まると、藍崎はエアロックの外につながる扉のパネルを操作する。


「え? ほ、ほんとに大丈夫?」

さすがに心配になる浅井。

「気圧に差があれば扉は開かないから」

確かにその通りだとは思うが。


扉がゆっくりと開く。ちょっと身構え、無駄だと思うが息を止める。気圧が変わる気配はない。


「これは...」

見ると洞窟のようだ。明かりがところどころに配置されている。人も何人かいる。

藍崎が外に出るのでついていく。


「ここは工事中に見つかった地下の空洞で、空気を入れたら気圧が維持されることがわかった密閉された洞窟」

「え? ってことは、宇宙服無しで直接月面を歩いてるってこと?」

浅井はあたりを見回す。天井は手を延ばしても届かない高さだが、それほど高くはない。

「そんな感じ」

藍崎は洞窟の壁を手で触る。浅井も触って見る。ちょっと冷たいが月面を素手で直接触るというのはなんとも不思議な感じだ。

「期間限定なんだけどね」

そういうと藍崎は天井を見上げる。

「期間限定ってもったいないね。観光客にも人気出ると思うんだけど」

浅井はしゃがんで地面の砂を触る。


「うん。ここは地下300メートル程なんだけど、ちょっとでも亀裂が入ったりすると空気が抜ける可能性があるから。月震もあるし」

「確かに、そういわれるとちょっと怖いね」

息をひそめる浅井。あまり意味がないことは分かっている。

「亀裂が入っても一気に空気が抜けることはないそうなんだけど、危険であることは確かだから」

「まあ、そうだろうね」

そういうと浅井は立ち上がる。

「コーティングすることも検討されたみたいなんだけど、メンテナンスが大変みたいで結局閉鎖されることになったんだよね」

藍崎は洞窟の壁を撫でる。


「へー。でも、ここはすごい場所だよ」

浅井も再度壁に手を当てる。

「うん。月は私が生まれ育ったところだから、直接触れることができるこの場所は好きだったんだけど」

そういうものなのか。ここには人工的な環境しかないからな。浅井は改めて洞窟を見回す。

まあでも、彼女にとって特別なところに誘ってもらえてちょっとうれしく思う浅井。


「連れてきてくれてありがとう」

「あ、えっと、閉鎖まではもう少しあるから、あと何回かは来ようと思ってるんだけどね」

浅井の方を見ないで横を向いたままの藍崎。

初デートで特別なところに連れてきたことに照れているのだろうか、と浅井は思う。あまりこの件は深入りしない方がよさそうだ。


それからは当たり障りのない会話をし、通路に戻る。

時間は4時過ぎ。レストランの予約は6時だから後1時間半ちょっとか。何とかなりそうな気がしてきた。

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