初デート! その5 街の散策
噴水広場のあたりを歩く2人。
通りの天井は高くて青く明るい。雲が流れる演出もある。広い通りの真ん中には小川があって魚も泳いでいる。街路樹が並ぶ通りを見ていると地球にいるかのような感じだ。噴水広場の周りには観光客用のお土産屋や飲食店が多く、通りにはストリートフードの屋台も出ている。
「地元民はあまり来ないと思うけど、そこの観光客向けのお土産物屋を見てみようか」
浅井が提案する。
「はい」
快諾する藍崎。
「入ったことないかも」
地球の観光地だと土産物が輸入品だったりすることも珍しくないが、ここではすべて地元産だ。さすがに地球から運んできたのでは高くつくし、せっかく月まで来たのにお土産が地球産では喜ばれないだろう。
人気の商品は月の石で、加工したものも多い。石といっても地表に転がっているものではなく、ヘイワース市の拡大工事で掘り出された岩石のかけらだ。浅井は将来ここを離れる際にはひとつ買って帰ろうと思っている。他には、ここで生産される食品関連も多い。もちろんTシャツも。
「さすがにこういったTシャツは地元の人は着ないよね」
「そうだね」
壁に掛けられたTシャツを見上げる二人。どこの観光地にもあるハートマークと地名がプリントされたものとか、月から見た地球の写真がプリントされたものが並ぶ。ここを舞台にした映画とかドラマのロゴやキャラクターものも多い。
「これ着てるやつクラスにいるよね」
浅井はヘイワース市を舞台にしたドラマのロゴ入りTシャツを指さす。
「ほんとだ。ここで買ったのかな」
「なんか置物系が多いね」
棚に並ぶ置物を指さす浅井。
「ここってなんでもリサイクルするんだけど、最終的にゴミになったものを粉砕して、それを材料にこういうお土産を作ってるって聞いた」
そういうと藍崎はヘイワース市があるエイトケン盆地の模型を手にとる。
「へー、そうなんだ」
「うん。ゴミを地球に持ってってもらおうってことみたい」
「はは、なんかちょっとひどい気もするな」
「ここではごみの焼却は基本やらないから」
「ああそうか、なるほど。まあでも、うまいこと考えたね」
「全体からすると、ほんの一部だけみたいだけどね」
「残りはどうしてるの?」
「街路樹とか園芸用の土みたいなのとか通りのタイルに加工したりしているみたい」
「へー」
「それでも処理できないものは外の廃棄場に捨てられてる」
「まあそうするしかないよね」
「一応、廃棄場は地球からは見えないところにあるんだって」
「はは、気を使ってくれてるんだ」
「通りの方に行こうか」
ゴミの話題が終わったので観光客向けの土産店から出る二人。
「噴水広場に近いところはおしゃれな店が多いんだね」
「このあたりは、この街の高級ブランド通り」
「やっぱり有名ブランドは高いね。地球の何倍もしそうだ」
いかにも観光客という感じの集団が店の中にいる。
「ここでしか買えないものもあって、観光客には人気みたい」
「高校生にはちょっと無理だね」
「若者向けだともうちょっと向こうとかの二階かな」
藍崎が通りの先と二階の方を指さす。
「じゃあ、もうちょっと向こうとかの二階に行ってみようか」
「はい」
通りを歩いていると、前方に人が集まっているのが見えてくる。
「あの観光客らしき人が集まってるところって...」
浅井が指を指す。
「そう、『ヘイワース市警』の警察署」
『ヘイワース市警』はヘイワース市を舞台にした警察もののドラマのタイトルだ。
警察署はドラマでも公園通りに面したこの場所にあるが、モデルになった実際の建物は警察署ではなく観光案内所だが外見は似ている。観光案内所ということもあって『ヘイワース市警』の登場人物の等身大の写真パネルがあり、写真を撮っている観光客も多い。
「あの二階の窓の感じはドラマと一緒だね」
浅井は観光案内所を見上げる。地球の建物のような屋根のある作りになっている。
「うん。ドラマだと署長室の窓の設定」
「ああ、そうだったね」
浅井はドラマを思い出す。主人公の刑事が署長と話しているシーンがこの窓を背景にしている。
「地球でも人気あるの?」
観光客の方を見ていた藍崎が浅井の方を向いてたずねる。
「シーズン2から人気が出はじめたんだよ、確か」
「ロボットの刑事が出るようになったのはシーズン2からだったかな」
登場人物のパネルにはこのロボットのものもあり、主人公と並んで記念写真では人気のようだ。
「そう。シーズン2初回が話題になったんだ。月面車内の密室殺人のやつ」
ちょっと考え込む藍崎。
「あ、思い出した。車輪の跡とか足跡とか月面に何も残ってない状態で発見されたやつだ」
「それ。その月面車の中で背中を刺された状態で発見されたっていうエピソード」
「前編、後編に分かれてたよね」
「うん」
「そのドラマ、ここでも人気なんだけど、治安の悪い街みたいになってるって抗議運動とかもあったんだー」
藍崎がいう。
「へー。確かに、荒くれ者の船員なんてそもそもいないもんね」
宇宙船は人間が操縦したりしないのだが、宇宙を舞台にしたドラマや映画ではなぜか常に人間とかロボットが操縦しているし、宇宙港近くの酒場では荒くれものの船員がたいてい喧嘩している。
「うん。ドラマだと毎回のように殺人事件があるんだけど、殺人はもちろん暴力事件もほとんどないし」
「まあ、平和な街が舞台の警察ものだと地味な感じなるからね」
ここは地球の街のように誰でも気軽に行き来できるところじゃないし、研究学園都市のようなところだから治安はいい。母が言うには、観光客が少ない時期は大きな大学の構内みたいな雰囲気ということだ。
観光案内所を離れ、若者向けの店が並ぶエリアに移動する。
洋服やアクセサリ類を販売する小さな屋台も並んでいる。
「このあたりも多いね、人。若い人が多いけど地元の大学生とかかな」
人通りを見回す浅井。
「そうだと思う。大学生は1万人以上いるし地元民もくるから週末はこんな感じ」
「へー。地元民は旧市街を利用するって観光案内にあったけど」
「旧市街は日用品の買い物するところって感じかな。若者向けの店が並ぶのはこのあたりだけだから」
「なるほどね」
観光客向けの商品が並ぶ屋台に集まる観光客を眺める二人。
「観光シーズンだと旧市街にも観光客が流れてくるんだよ」
「そうなんだ。まあ、観光客としては行ってみたいよね」
「地球と比べると、商品の種類が少ない地味な商店街って感じだけどね」
オンラインで買い物はもちろんできるが、ここでは体力維持のため店に出掛けて買い物することが推奨されていると聞いている。
「そっか。食品会社がいくつもあるわけじゃないから」
地球から輸入される食品はとても高く、ここで生産される商品は品数が少なくてパッケージも地味だ。
浅井は通りに立つ時計塔をちらっと見る。
まだ30分ちょっとしか経ってない。レストランの予約時間まで、あと4時間40分。




