初デート! その1 デートに誘いたい
ホームルーム前。いつものように5分前に席に着いた浅井英騎は、2分後にくる藍崎華瑠奈を待つ。
浅井はどうやって藍崎をデートに誘うかを、ここしばらくずっと考えている。
ホームルーム前は時間もほとんどないし、近くにクラスメートがいる教室で誘うのはさすがに無理なので、昼休みになんとかそのきっかけを作ろうと思っている。できれば二人だけでいる時に誘いたいが、昼食時はたいてい本條と中山が一緒だ。なので、クレセントのメッセージで誘ってもいいかと思っている。
初めて彼女を誘って昼食に行った際、合流してきた本條莉奈のおかげでクレセントのアカウント交換ができたのだが、まだ一度もメッセージのやり取りをしたことがない。さすがに初めてのメッセージでいきなり誘うのもどうかと思うので、まずは今日中に彼女に何か送って会話を始めてみることにしよう。
ここヘイワース市では、ヘイワース市公式のコミュニケーションツールの使用が義務化されており、緊急時の市からの連絡や市民同士のコミュニケーションに利用できる。ただ、そのツールだと本名で使うことになるので、たいていの人は公式な連絡の時とか緊急時にしか使っておらず、日常で使うやつは少ないと聞いている。
なので、日常のコミュニケーションには別のツールがメインに使われている。ただ、日本で広く使われているツールはここでは使われておらず、クレセント、「三日月」という名前のツールが人気なのだ。アカウントは、バスケのチームメンバーとクラスメート何人か、それと藍崎華瑠奈とは初めて一緒に昼食に行ったときに本條莉奈のおかげで交換できている。
藍崎華瑠奈が席に着いたようだ。
☆ ☆ ☆
藍崎華瑠奈が教室に入ると、いつものように浅井英騎が先に来ているのが見える。
席に着くと同時に彼が振り返ってあいさつしてくるから、あいさつを返す心構えをしつつ椅子を引く。
あれ? 振り返らない。と思った瞬間にクレセントの着信通知が鳴る。見ると浅井からだ。
『おはよう』
「あ、えっと、おはようございます」
声に出して返事する藍崎。
振り返る浅井。
「送ったことなかったから」
「そういえば」
藍崎はそう返事したものの、そもそも日常的にメッセージ交換している相手はいない。
愛想がないことは自覚しているし、親しく友達付き合いしているクラスメートもいない。本條や中山のように小さいころから知ってる幼馴染的な人は何人かいるが、クラスメイトという以上の付き合いをするほど親しいというわけでもない。子供の頃はよく一緒に遊んだが。
藍崎は席に着くとクレセントのメッセージを返信する。
『おはようございます』
浅井と藍崎は並んで表示されたお互いのメッセージを眺めながら、これでデートに誘いやすくなったなと考える。お互いそんなことを考えていたので、この日のホームルーム前の会話は挨拶を交わしただけだった。




