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地球から一番遠い教室で  作者: 草川斜辺


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本條莉奈

「えー、またお引っ越し?」

小さな女の子が母親を見上げる。不満そうな表情だ。


「そうだよー。今度はねー、ちょっと遠いんだー。どこだと思う?」

しゃがみ込んで女の子と視線の高さを同じにする母親。不満げな娘と違い上機嫌だ。


「なあ、莉奈(りな)はまだ小さいし、今後の成長のことを考えたらやっぱり断った方がいいんじゃないか?」

ソファーに座っている父親がいう。


「またその話? もう決めたことだから」

「でも子供を犠牲にするのは...」

「犠牲って何? 子供だってちゃんとその街で生活してるし、そこで生まれた子だっているんだから!」

立ち上がり腰に手をやる母親。


「それはそうだけど、屋内空間しかないのはやっぱり不健康だよ。特に子供には」

「もう何度も話し合ったじゃない」

「まあそうなんだが...」

「また誰かに何か言われたの?」


「やっぱり子供のころは外に出て遊ぶとか、海とか山とかに出掛けるのが重要かなって思うんだ」

「海なんてこれまで一度も連れってったことないし、山も一回だけだしその時はケーブルカー使ったじゃない」

「だから、これから連れて行くんだよ」

「別に一生住むわけじゃないし、年に一回は面会に戻ってくるんだからその時に海でも山でも行けばいいのよ」

「まあそうなんだが...」

「もう、あいかわらず優柔不断よね」

「せっかく友達もできたんだし、かわいそうかな、とも思うんだ」

ちょっと不満そうな表情の父。

「2年生になるタイミングだし、小学生はまだまだ長いんだから問題ないわ」


☆  ☆  ☆


机の上に置いてある写真。

両親が離婚する前、本條莉奈(ほんじょうりな)がまだ5歳の頃に撮った家族写真だ。

フォトスタンドの写真が自動的に切り替わる。最新の写真はこの前の夏休みに海で父と撮った写真。毎年夏休みに父親への面会で地球に行った際には、いつも海に連れて行ってもらっている。これは父の自宅から近い海辺の観光地に出かけた際のものだ。中学生になって以降は、海に行っても海水浴はしないが。


両親は小学校に入る前に離婚したから、父と母が仲良くしている記憶があまりない。

離婚後は母と暮らしている。母は閉鎖環境での社会心理学の研究者ということもあり、大規模な閉鎖環境である月面のヘイワース市は母にとって理想郷だ。当初は5年間の予定だったのが、今年で9年いることになる。


転校してきたのは小学2年生の時。クラスメートは10人と少なく驚いた。女子はその半分の5人だけ。さらにヘイワース市住民の平均滞在期間は3.5年程度のため、仲良くなってもすぐに分かれることになった。自分の転校で友達と別れることはあったが、ここでは友達の方が転校していく。


ここに来てから高校生の今までずっと一緒なのは、ここで生まれた藍崎華瑠奈(あいざきかるな)中山恵一郎(なかやまけいいちろう)だけだ。

今年で高校は卒業。進学先は地球の大学に決めているし、卒業後は地球で就職するつもりだ。


さて、高校生最後の1年。前期の成績が大学推薦にも大きく影響するから勉強は頑張らないと。

あとは、体力の回復。夏に地球に行った際にはちょっとくたびれた。恵ちゃんのチームで一緒に筋トレするのがよさそうだ。

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