21.久家くんの告白・3
「く…久家く…「柚希をどうか頼む!!!!!」
目が点になった。
あたしが緊張のあまり耐えれなくて離して貰おうと口にしようとしたがそれは最後まで言えなく、言葉を遮ってきたのは彼だった。
そこまでは別に良かった。だけどその言葉が良くなかった。
何かの聞き間違いだと思いあたしは「へ?」と言えば久家くんはあたしの両肩を掴んだまま頭を勢いよく下げる。
「今日初めて神城と話したが、神城はとてもしっかりしていて自分もちゃんと持っていてあんたなら柚希みたいなどうしようもない奴を任せられると思った!どうか、あいつを捨てないでくれ!」
時が止まる、とは正にこのような事だと思う。
先ほどまで恐ろしく速く脈打っていたのに打って変わって今のこの落ち着いた脈の変わりっぷりはたまげたものだ。
時と場合によってはあたしは心臓の病気と診断されてしまうかもしれない。
相変わらず頭を下げたままの久家くんを前にあたしはクラっと眩暈がする。
頭で整理すると、久家くんは三浦くんの事を頼むと言った気がする。
更にはあたしに任せるとも言われたような。
一体全体何がどうしてこうなったと言うのだ。
まだ2日しか経っていないのにもう何ヶ月も経ったような気がして思わずまだ平凡だった日常を思い返す。
間違ってもこんな頭痛を抱える出来事はなかった。
受験と志望校で悩んではいたが、恋愛とは無縁な生活をしていたのでまさか自分がこんな事で悩む日が来るとは思っていなかった。
そりゃあ、いつかはあたしだって恋の一つや二つをする日が来るだろう。
でも何故今!自分に余裕がない今じゃなくてもいいじゃないか!ここはどうしても譲れないのであたしは強く主張したいところだ。
勿論、言っていい空気ならばの話だが。
あたしは目の前にいる頭を下げた少年をジッと見つめる。
風にのって、公家くんの癖のない漆黒の髪がソヨソヨと揺れている。
彼の使っているシャンプーの香りだろうか、彼とはあまり似合わない花の匂いが香る。
余程真剣なのだろう、彼はいつまでも頭をあげない。
どうして人の事なのに自分がこんなに必死になって頼めるのだろうか。
とは言ってもあたしは自分の事だ。ここを間違っては誰にとってもきっと。
なんとも言い難い事だがあたしは自分の肩を掴んでいる手をソッと外した。
すると彼はこちらを伺うようにゆっくりと頭を上げる。
あたしは口を開いた。
「ごめん、久家くんが言いたいことは分かったけど、あたしそもそも三浦くんの事を好きとかそういう感情はないんだ。」
そう言うと久家くんは目を見開き切なそうに顔を歪ませた。
「そうか。」と消え入りそうな声が聞こえた気がするけど、あまりにも小さすぎて本当にそう言ったのかは分からない。
久家くんは申し訳なさそうに目を伏せ、あたし達の間にはキマズイ空気が漂う。
彼から声をかけられるのを待つか、自分から声をかけるか悩んでいれば背後から別の人物から声をかけられる。
「なーんだ。葵が真剣に悩んでるみたいだからこっそり後をつけたらそういう事。」




