20.久家くんの告白・2
授業が終わると久家くんがすぐこちらに来て「一緒に帰ろう」と声をかけてきたが、あたしの仕度が終わっていなかったので、それを確認すると教室のドア付近で待っていた。
まさか2日の内に自分が誰かと(しかも異性)と帰るなんて考えてもいなかったのでこれは何か憑き物でもいるのではないかと疑ってしまいそうになる。
実際に首を回して自分の背中を見てしまった、とはまさか言えない。
仕度を終え、久家くんの元に行こうと足を前に踏み出せばグイッと後ろから手を引っ張られた。
驚いて振り向けば三浦くんが少々不機嫌そうにしている。
「浮気、しないでね?」
「……」
それだけ言うと渋々と言った感じで手を離してくれ、あたしを抜かして立ち去った。
浮気も何もあたしは君とそういう関係を承諾した覚えは一切ないんだけどなぁ。と心の中で突っ込む。
実際声にでもだせばきっとあたしの明日からの学校生活は灰と化すだろう。
三浦くんは教室を出る前に一度足を止め、ギロッと久家くんを一睨みした。
久家くんは慣れているといった感じで一つため息を吐いてまるで何も見なかったかのように沈黙に徹している。
それを見た三浦くんは訝しげに顔をしかめるが、諦めるかのように教室を出て行った。
流石は久家くんである。三浦くんの扱いをよく心得ているようだ。
実際にあたしが彼を無視しても彼の挑発についつい乗っかって、彼の思う壺になるだろう。
「久家くん、お待たせ」
「…いや、そんなに待ってない。仕度は済んだか?」
「うん。大丈夫」
「そうか、なら帰ろう」
教室をでると昨日と同じように人々が物珍しそうにこちらを見ている。
昨日、今日で学校で一番人気と二番人気と一緒にいれば明日には「悪女説」が流れるかもしれない。
あたしは遠くを見て自分がこれまで築き上げた平凡な日常にそっと別れを告げるのだった。
久家くんは三浦くんと違いあまり話をしなかった。
何度か沈黙になるけれど、不思議とそれがあまり苦痛に感じない。
話の内容は主に小説に関してだったけれど、やはり彼とは趣味がよく合う。
今読んでいる本や、これまで読んだ中で一番面白かった本など話してる内に大分時間が経っていた。
そこで久家くんが口を閉ざし、何か覚悟を決めたようにこちらを凝視してくるので、あたしも思わず彼をジ、っと見る。
「柚希の事なんだが…少しいいか?」
「うん…。」
あたし達は近くにある公園のベンチに腰をかけた。
二人の間には一人分のスペースがあるくらい余裕がある。
あたしは久家くんが話だすのを待つ。
「その、柚希の事なんだが、あいつは我侭だろう。」
「うん…まぁ」
「あいつは昔から我侭で自分の思い通りにならないとすぐ機嫌が悪くなっていつまで経っても子供みたいなやつなんだ」
「…そうみたいだね」
昨日と今日だけでもうそれは嫌と言うほど分かった。
あの暴君振りと俺様至上主義な性格はきっと昔からそうだったのだろう。
ハハハ、と乾いた笑いを口から漏らせば久家くんが気遣うようにこちらをジっと見つめてくるので大丈夫、と言った意味を含めた笑みを浮かべた。
「柚希が神城と付き合うと聞いて、俺は神城が心配で堪らないんだ。」
とても真っ直ぐな言葉にあたしは驚いて彼の言葉の意味を知ろうと瞳を覗き込む。
三浦くんもとても綺麗な瞳をしているけれど、どこか危うげで今にも壊れそうな瞳だった。
だけどこの人の瞳は綺麗なのに、壊れるとは真逆で芯が強く、まるで射られてしまいそうになる。
久家くんはあたしから視線を逸らすことなく、尚も真剣にこちらを見続けてくるので、反応にひどく困った。
「出来る事なら助けてやりたい。」
「え…」
胸の鼓動が早まる。
ドキドキドキドキと徐々に早まり規則的なリズムを打つ。
この音が彼に聞こえてしまわないだろうか、と思うと恥ずかしくなりあたしは彼から目を離そうとしたが彼が両手であたしの肩を掴むのでそれが出来なかった。
先ほどは人一人分の余裕があったあたし達の間にはもうそんな隙間はなくて、すぐ目の前に久家くんがいる。




